高橋盾は想像を超えた、さらにその先へ

AFFECTUS No.186

いつもハイクオリティのコレクションを見せるわけではない。シーズン毎に波は大きい。しかし、数シーズンに一度訪れるビッグウェーブは、恐怖に襲われるほど底の見えない才能を露わにし、そのことに僕は驚嘆と歓喜を覚える。

高橋盾のことだ。

彼が立ち上げたブランド「アンダーカバー(UNDERCOVER)」は、これまでウィメンズコレクションを軸にパリでショーを開催してきたが、2019AWシーズンを最後にウィメンズのショーを休止し、2019SSシーズンからはパリメンズコレクションでメンズウェアのみのショー発表へ移行していた。しかし、今回の最新2020AWシーズンでアンダーカバーはウィメンズラインも発表し、メンズとウィメンズ合同ショーの開催となった。このコレクションで高橋盾は、自身の創造性に限りがないことを証明する。

とりわけ驚いたのは、久しぶりにショー発表となったウィメンズではなく、想像だにしなかった世界を圧倒的圧力によって作り上げたメンズだった。いったい何に驚いたのか。それは、想像もしなかった世界と世界をクロスオーバーさせるまでに至る高橋盾の発想力だった。

厚手で暖かみのあるニット、膨らみのあるシルエットのダウンベストにニット帽を被り、ブラウンやグレーといった色展開を軸にしたスタイルは、アウトドアを好む男のライフスタイルが浮かぶ。だが、ショーが進行するにつれ、このコレクションがただの高橋盾流アウトドアスタイルではないことが明らかになる。思いもしなかった世界を高橋盾は被せてくる。

モデルの服装に目が止まる。千利休といった茶人が着用する服「道服」を思わせる衣服をモデルが着用して登場した。10番目に登場した男性モデルは、チャコールグレーで染められた厚手ニットのカーディガンを左身頃が上になるように重ね合わせ、チョークストライプ素材のライトグレーのパンツにタックインしている。素材・色・アイテムはメンズウェアの王道クラシックスタイル。しかし、登場した男性モデルの姿からは茶道の茶人が連想されてくる。

こんな体験、僕は初めてだった。いったい高橋盾は何を始めたというのだ。僕は初めて訪れた感覚に没入するようにルックを眺めていく。次に登場したモデルも、その次に登場したモデルも道服のような印象はそのままに、千利休という茶人のイメージはますます強まる。洋服だと思っていた世界はアウトドアの装いを残しながらも、次第に「和」の香りを立ち上げてきた。

すると、道服をモチーフにしたようなファッションは消えていき、代わりに登場したメンズスタイルは冒頭のアウトドアに加えてワークウェアスタイルが乗り始め、奇妙な違和感を訴えてきた和とアウトドアスタイルの一体化は収まり、従来のファッションへと回帰していく。

しかし、そう思ったのも束の間。高橋盾はさらに想像を超えた世界を僕たちに見せてくる。なんと、戦国武将が戦で着用する甲冑を思わせるベストやディテールが登場するのだ。もちろん、アウトドアスタイルのアイテムをベースに、それらのデザインを実行している。ショー終盤になると、戦国武将の姿をプリントしたブルゾンやトップスがいくつも登場してくる。

奇想なスタイルの連続。アウトドアスタイルを軸に、茶道で茶人が着る道服に加えて戦国武将が戦いに赴く装いをも重ね合わる。3つのスタイルが重ね合わされた階層的世界を、高橋盾は自身のダーク&グロテスクな世界を武器に料理する。完成したコレクションは、それまで僕には想像が一片たりとも浮かぶことのない圧倒的独自の世界だった。千利休、戦国武将、アウトドア。まさか、この3種類の世界が一つになるとは誰が想像できるだろうか。

高橋盾はいったい何から着想を得て、今回のコレクションを制作したのだろう。黒澤明監督による1本の映画がソースであることが明らかになる。その映画とは1957年発表『蜘蛛巣城(くものすじょう)』だった。主演を務めたのは三船敏郎。全編モノクロで展開されたこの映画は、シェイクスピアの戯曲『マクベス』を日本の戦国時代に置き換えた作品である。

「『マクベス』(Macbeth)は、1606年頃に成立したウィリアム・シェイクスピアによって書かれた戯曲である。勇猛果敢だが小心な一面もある将軍マクベスが妻と謀って主君を暗殺し王位に就くが、内面・外面の重圧に耐えきれず錯乱して暴政を行い、貴族や王子らの復讐に倒れる。実在のスコットランド王マクベス(在位1040年–1057年)をモデルにしている」
Wikipediaより

シェイクスピアの作品を戦国時代に起き換える。より抽象化すれば「結びつきのない、まったく異なる世界をひとつにする」ということになる。

しかし、あなたはできるだろうか。黒澤明の映画から和を代表する服装(茶道の道服・戦国武将の甲冑)を、現代の趣向を楽しむ服装(アウトドア)につなぎ合わせる発想が。僕には無理だ。とてもではないが、そんな奇想で異相な想像は不可能である。だからこそ、僕は恐れ慄く。自分には到底発想できない領域へ難なく足を踏み入れて現実にしてしまう、高橋盾の創造性と想像力に。

高橋盾が才能を余すところなく発揮したコレクションは、僕にとって恐怖の対象となる。この事実はきっと今後も変わることはない。通常の人間が想像し得ない世界に一人ダイブし、創造の海からクリエティブな源泉を鷲掴みにして未知の想像を世界に披露する。アンダーカバーというダークファンタジーを携え、高橋盾は想像の先を超えて、さらにその先へ一人歩む。

〈了〉

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