リック・オウエンスは想像を遊ぶ

AFFECTUS No.191

2020AWパリメンズコレクション、リック・オウエンス(Rick Owens)は近年構築してきた自らのSF的世界観をさらに深め、僕らに訴える。想像の外へ手を伸ばせと。

焚かれるスモーク。フロアを揺らめく煙を踏み分け、白い空間に登場した一人目の男性モデルは、レオタードとパンツスタイルの中間とも言える、曖昧さ含むボトムに脚を通し、ランウェイを進む。しかし、両脚が素材に覆われているわけではない。右脚はショートパンツを穿くように極端に短いレングスであり、しかし逆に左脚は素材がタイツのように脚全体をフィットして覆っている。

このデザイン傾向はボトムとひと続きになったトップスでも同様だった。レオタード風ツナギとでも呼べいいのだろうか、この不可思議なアイテムに使用されたグレーの素材は、今度は脚とは逆に右腕を手首まで覆い、左腕は胸筋と肩の肌を露わにしたワンショルダーになっている。柔らかいニット素材は身体を優しくなめるように沿い、モデルたちの身体をなまめかしい雰囲気で覆い隠す。男のための服なのか、女のための服なのか。その判断に迷うスタイルは、登場するモデルの人数が増すにつれ、そのどちらとも言えない雰囲気を醸し出す。

肩線が弓なりに沿い、肩先が盛り上がるコンケーブドショルダーのジャケットとコートがスタイリングされ始め、フォーマルへと服装はシフトしていく。しかし、レオタード風ツナギと組み合わされているため、人々が知っている従来のフォーマルスタイルとは一線を画す。

登場したコンケーブドショルダーは、肩の盛り上がりを徐々に大きく太く尖らせ、最終的には異質で誇張された造形へと変化を遂げる。服を着用していた男性の筋肉が盛り上がり変形を遂げたように、上半身と下半身の造形バランスは崩れる。

グレーや黒、冷たいトーンのライトブルーを挟み込んだ色構成は冷ややかで無機質。人間の「生」というものが感じられない。けれど、生物の息吹は感じられる。その息吹は「関心」と言える類のものだった。人間に興味を抱き、人間とはどのようなものなのかと関心を抱く、冷めた息吹である。

「リック・オウエンスは人間ではない生物のための服を作っている」

簡潔に言ってしまえば、そんな印象だ。いったい何を言っているのだと思われるかもしれない。しかしながら、僕が抱いたのはたしかにその印象だった。

近年、リック・オウエンスはSF要素の強いデザインを実践している。コレクションを見ていて浮かぶイメージは『エイリアン』であったり、『プレデター』といったSF要素の強い映画作品だった。宇宙から来訪した生物が、現在の地球のファッションを初めて目の当たりにし、強い興味を覚え、自分も纏ってみる。生物は人間の身体とは異なる造形の持ち主。そのため、人間の服が着用できるように自らの身体を地球人の男性に変形させ、地球のファッションというものを体験してみる。

地球の人間とファッションというものを初めて見たため、その生物には男であるとか女であるとか、性別の理解と判断がつかず、性別間の服装概念も理解できていない。だから生物たちは男女どちらのファッションであっても、自分たちが興味を惹かれた服を取り入れ、一つのスタイルを作り上げている。

室内で着用すべきレオタード風アイテムを街で着用したり、ワンショルダーのトップスという、およそ男性が着用するものとは思えない服を着たり、レッグウォーマーを取り入れたスタイルにテーラードを合わせたり、服装間の常識が破綻している。

ファッションが思った以上に楽しかったのか、生物たちは興奮のあまり、人間の造形を保っていられなくなり、本来持つ身体の造形が現れ始める。それが極端に誇張されたコンケーブドショルダーに感じられる。

性別間の境界が曖昧になったこのスタイルは、ジェンダーレスと一般的には評されるだろう。だが、ジェンダーレスは性別という概念を理解しているからこそのファッションであり、完成された服装にはその意図が感じ取れることが多い。

それに比べ、リック・オウエンスが発表した今回のコレクションはたしかにジェンダーレスとも呼べるが、僕が抱いた印象は性別という概念を理解できていないがゆえに生まれた未知のファッションに思えた。

今、リック・オウエンスといえば、パリではトム・ブラウン(Thom Browne)と並んで奇抜で奇想なショーで話題を呼ぶデザイナーとして注目されている。しかし、マドレーヌ・ヴィオネ(Madeleine Vionnet)を敬愛し、パタンナーとしてキャリを磨いてきた彼の作る服には、美しい量感と線が備わっている。そんな腕の持ち主が、奇想な想像力を持っていたらどんな服を作るのか。それが具現化されたのが、現在のリック・オウエンスだと言える。実直に思えるキャリアを歩んできた人間が、実直な服を作るとは限らない。

ショーのフィナーレに登場するリックは、鍛え抜かれた肉体と黒髪の長髪が無骨な印象を与え、唇の端に不敵な笑みをかすかに浮かべているように見えた。ビッグショルダーの黒いテーラードコートを着用したその姿は、宇宙から来訪した生物に自らの腕をふるって服を仕立てることを楽しむテーラーのようでもある。

リック・オウエンスは想像を遊ぶ。人々を驚かす想像は、今頭に描く想像の外にある。彼はそこに手を伸ばすことができる。僕らは手を伸ばせているだろうか。想像の外にある面白さへと。

〈了〉

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です