ピュアな悪魔を演じるシモーネ・ロシャ

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AFFECTUS No.194

白と聞いた時、この色からどんなイメージをあなたは浮かべるだろうか。青い空に浮かぶ雲?それとも幸福なウェディングドレスだろうか?おそらく多くの人々にとって、白という色がイメージさせるマインドはポジティブでクリーンなものだと思う。もちろん僕もその一人である。

詩的な美しさも感じられてくる白。しかしながら、人々の気持ちを軽やかに明るくするこの色を用いて、まったく異なるイメージを作り上げるデザイナーがいる。

シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)である。

ブランドカラーという言葉があるように、ブランドにはその存在を想起させる色が確立されるケースがある。アン・ドゥムルメステールやヨウジヤマモトの名を耳にすると黒が思い浮かび、マルタン・マルジェラと聞くと白が連想されてくる。色は度々ブランドの存在を人々の記憶に刻みつける役割を果たす。

それはシモーネ・ロシャも同様であり、彼女のコレクションは白が中心となって色が構成され、ショーの1stルックでも白を用いたスタイルの登場が多い。ロシャは白と対比で黒も多用するが、しかし彼女の存在を意味付けているのはやはり白だろう。

ロシャが使う白は不思議だ。妖しげで誘惑めいていて、挑発的。デザインはガーリーなシルエットを軸に、スタイルの多くがロングレングスで構成されているためにウェディングドレスに近しいイメージを抱かせ、肌の露出も控えられていてセクシーという言葉からは程遠い印象を受けるのだが、挟み込まれる肌を透かす透明素材が色気を立ち上げる。

色気にも種類がある。例えばトム・フォードやドルチェ&ガッバーナは成熟した女性の「大人の色気」がふんだんに感じられる。翻ってロシャは、確かに色気は感じられるのだが、それは少女が香らす色気と表現できるもので、繊細で幼く、けれどそれゆえに大人の女性の色気とは異なる妖しさが漂っており、危険な香りさえ感じられてくる。

色が持つイメージの性質で言えば、色気を演出するには白よりも黒を用いる方が容易だろう。そして肌の露出をそこに組み合わせれば、さらに容易になる。だがロシャはいずれの手法とも距離を置いている。肌の露出がないわけではないが、それはモードブランドの中でも抑制された範囲に入るデザインを行なっている。

なぜそのような手法で、危険な香りすらも漂う色気が立ち上がるのだろう。それは黒を使い、ジャケットをスタイリングに持ち込んでいるからだと僕は考える。白を軸にガーリーなシルエット、挟み込まれる透明素材、そこに端正で力強い黒とテーラードジャケットをベースにデザインされたアイテムがスタイリングによって対比されることで、白が持つ儚さを強調する効果をもたらし、儚さのイメージがガーリーなシルエットと連動して危うく妖しいイメージの醸成へと繋げている。

先ほど白を思い浮かべるブランドとしてマルタン・マルジェラの名をあげた。ロシャとマルジェラの白で最も異なる点も色気だ。マルジェラの白には色気がない。死を連想させる冷たさを感じさせる(ただし、ガリアーノのマルジェラは色気が生まれた)。

ロシャは特異な白を僕らに見せる。彼女のデザインがもたらす女性像は、幼さと妖しさを併せ持っていた。悪魔めいたものを感じさせるほどの妖しさと、何かを信じさせてくなる純粋で無垢な幼さ。ロシャがイメージする女性とは大人なのか子供なのか、いったいどちらなのか境界が曖昧になっている。しかしながら、その曖昧さが僕を魅了し、コレクションに惹きつける。ロシャはどのようにしてこんな世界観にたどり着いたのだろうか。彼女がこれまでどのような体験からどのような考えと感情を育んできたのか、僕は興味を抱く。

そんな興味を抱いたことも、ロシャの術中なのではと思わせられる。ピュアな悪魔は誘い込む。秘密めいた場所へと。

〈了〉

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