テベ・マググが発信する南アフリカのカルチャーに眠る美

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AFFECTUS No.195

これまでカルチャー人気の発信と中心を占めていたのは、アメリカやヨーロッパといった西洋地域だった。しかし、インターネットとSNSによってこれまで注目されなかった地域のカルチャーが人気となり、世界へ拡大する現象が起きている。アジアのカルチャー人気が世界へ浸透したことは、その証明となった。そして今、とりわけファッション界において注目される地域が、もう一つある。アフリカだ。

その筆頭として現在注目されるアフリカンデザイナーと言えば、昨年2019年LVMH PRIZEでグランプリを獲得した南アフリカ出身のテベ・マググ(Thebe Magugu)が挙げられる。マググが南アフリカ国内のファッションスクールを卒業した後、自身のブランドをスタートさせたのは2017年。彼はロンドンのセントラル・セント・マーティンズやアントワープの王立芸術アカデミーといったファッション界の名門校を卒業したわけでもなければ、パリやミラノで伝統と人気を兼ね備えたハイブランドでキャリアを積むという華々しい実績もなく、南アフリカの地でブランドを立ち上げ、母国のショップで卸を開拓しながら活動を続けてきた。いわば、ファッション界のエリートコースとは無縁のルートから現れた新星だと言える。

ファッション界のスター街道とはまったく別のルートから登場したデザイナーが、世界の頂点へと駆け上がる。なんとも爽快なストーリーだ。いったいマググのデザインの何が世界で評価されたのだろうか。彼のデザインにはどのような特徴があるのだろうか。そのことを知るため、最新2020AWコレクションから感じられた感覚をここで述べていきたいと思う。

結論から述べよう。

2020AWコレクションでマググが作り出したのは新しいクールだった。これまでファッション界の中心となってきた、パリやNYといった近代都市の持つクールとは異なるクール。それがマググのデザインにはある。

アフリカのファッションというと、豊かな色彩感覚やフリンジといった繊細な手仕事を感じさせるクラフトワークが浮かんでくる。しかし、マググのデザインは従来のアフリカンファッションとは距離を置く。2020AWコレクションを見てみるとアフリカらしいバリエーションの色彩が見られる。しかし、レッドやイエロー、グリーンといった鮮烈な色をインパクトの強いトーンでは使用してはおらず、淡く薄いブルーを軸に同様のトーンでグリーンやパープルを展開し、ブラック&ホワイトをアクセントカラーとして挟み込んでいる。

乾いた大地の静謐な感覚によって選択された色。そう述べるのがふさわしい色構成によって選ばれた色彩たちが、シティウェアの上に乗せられることでモード感が立ち上がり、パリやNYとは異なるクールの獲得へと至っていた。

マググの服は基本的にシンプルであり、彼のデザインからクラフトワークのディテールは見られない。だが、それにもかかわらず、マググの服からはアフリカのイメージが迫ってくる。これはなぜなのか。理由の一つに、先ほど述べたアフリカタッチの乾いた色構成がある。色はイメージを決定づける重要な要素であり、マググのデザインにおいてもその役割を果たす。

もう一つの理由としてシルエットの重心が挙げられる。マググのシルエットを見ている重心が高いことに気づく。そうしたシルエットからはアフリカ民族が纏う伝統の民族衣装がオーバーラップされた。マググは、ジャケットやシャツ、ロングワンピース、トレンチコート、ミニスカートといった現代のシティウェアをコレクションのベースにしている。それらシティウェアを、アフリカの民族衣装を思わす重心高くスレンダーなシルエットで仕立て上げ、アフリカの乾いた大地で育まれた色彩を乗せていく。

これがマググのデザインに見られた特徴であり、それが世界のファッション文脈に新しい解釈を添える結果となっていたと僕は解釈する。冒頭で述べた通り、これまで世界のカルチャー人気はアメリカやヨーロッパといった西洋がメインストリームだった。ファッションもそれは同様である。ファッションの価値は西洋が作り上げたものが基準となっている。このことを僕たちアジア人やアフリカ人は明確に理解する必要があり、これはファッションデザインというゲームにおけるルールと言い換えてもいい。このルールに乗った上で、自身の解釈を刻む。これがファッションデザインの本質である。マググはファッションデザインの本質を忠実に捉え、自身の背景となる南アフリカを現代ファッションの文脈へ溶け込ませることに成功した。

これまでに見たことのないもの。多くの人々にとっては、それが「新しさ」であり、価値があるとされていると思う。僕もそう思う一人だった。しかし、ファッションにおいてそれは異なると、僕はAFFECTUSを書き続けていくうちに思うに至った。ファッションにおいて真に価値のある「新しさ」とは「これまでに見たことのないもの」ではなく、「これまでに見たことのあるものが違う姿に見えたもの」である。

だからこそ文脈をなぞる必要があるのだ。ファッションは好き嫌いで楽しめる。それがファッションデザインにも転用され、「自分の好きな服を作る」という姿勢がデザイナーの意識に溶け込むことがある。それは大切な姿勢である一方で、絶対の姿勢ではない。ファッションデザインで新しい価値を作るには、感覚的にあふれるエネルギーで作り出す創造性と共に、文脈を紐解く知性が必要だ。マググは創造性と知性の両方を備え、南アフリカのカルチャーに眠る美を世界へ提示した。

アフリカの新星がどんな道を歩んでいくのか。僕は見ていきたい。そこにはきっと、創造性と知性を体験できる興奮があると信じて。

〈了〉

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