OAMCは問いかける

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AFFECTUS No.197

以前よりも地味で、鮮烈よりも抑制を重視している。その印象を、暗い調子の色が一層強くする。見る様すぐに惹きつけられる派手なモード性は見受けられない。服の上に展開されていたグラフィック量は以前よりも減少し、服が備える空気はテーラードスーツへと近づいていく。たとえそれがワークウェアなデザインであっても。

現在のOAMCのことである。

僕がOAMCを知ったころ、時代はストリートが支配していた。ストリートこそ世界の中心。そう呼ぶことを否定する空気など存在しない。それほどにストリートは圧倒的だった。OAMCのデザイナーであるルーク・メイヤー(Luke Meier)はキング「シュプリーム(Supreme)」で自身の才能に磨きをかけ、時代の先頭を走るにふさわしいキャリアの持ち主だった。

だが、彼がデザインするOAMCはストリートのデザイン性を引き受けながらもモードへと躙り寄っていく。そのコレクションは、1990年代後半のラフ・シモンズ(Raf Simons)を現代のストリートスタイルと融合させたものに僕は見え、ラフ自身にも作ることのできないデザインの具現化にルークは成功していた。完成したファッションは一言で言えばこうだ。

「カッコいい」

服の魅力を語るに言葉は一言で足りることがある。そう表現できる服は、陶酔するほどの魅力を秘めており、そのような服をデザインできるデザイナーは世界でも一握りで、ルークは紛れもなくその一人だった。

しかし、やがてストリートが支配したファッション界に変化が訪れる。時代はストリートからエレガンスへ。世界はファッションコンテクストを書き換える作業を始める。この文脈に従い、OAMCにもエレガンスが表現されていったのだろうか。いや、そうはならなかった。ルークは自身の歩く道を見極める。彼はストリートからもエレガンスからも距離を置き、自身のデザインにオリジナリティをより深く宿しながらコレクションを作り上げていく。

ルークはシーズンを重ねるごとにOAMCのデザインを発展させていったが、発表されたどの服もエレガンスと言われる伝統のファッション的美意識で形容するにはあまりに控えめで、より直接的に言ってしまえば地味な印象のデザインであった。

ショーに登場する男性モデルから僕が連想した姿は、東欧の兵士だった。モノクロ写真に写る、ヘルメットを被る暗い調子の影を宿す東欧の兵士たち。彼らがOAMC流の味付けが施されたワークウェアを着用して、パリのランウェイを歩いている。僕には黒や灰色の地味な色の服を纏うモデルたちにそんな姿を重ねた。ルークはOAMCをどこに導こうとしているのか。そんな疑問が頭をよぎっていく。

新生OAMCの冷たく硬い印象は、最新2020AWコレクションでより深まる。1stルックから登場する色である黒はコレクションの中心を成す。発表されたコート、ジャケット、シャツはたしかに綺麗ではある。だが、服からは洗練さは感じられず、むしろ暗い影を落とし、そんな服を纏ってモデルたちは歩いていた。

冒頭でグラフィック量が減少したと述べたが、OAMCの世界からグラフィックが完璧に消えたわけではない。2020AWコレクションでも数は少ないながらも、グラフィックは登場している。だが、以前とはやはり印象が異なる。貼り付けられたステッカー的印象のグラフィックではなく、純然たるアーティストであるフォトグラファーが撮影した写真が服の上に乗せられている。そのためにストリートテイストが大きく後退した印象を受ける。しかし、ストリートが完全に消失したわけではなく、スタイリングの組み合わせやシルエットの分量感にその名残は感じられ、ストリートキッズの面影を残すルックもある。それでもやはり、僕はそれらをストリートと称するには違和感を抱き、かといってエレガンスと呼ぶにはより強い違和感を覚えてしまう。

では、現在のOAMCに僕は魅力を感じていないのかと言うと、そうではない。むしろ気付かされた。以前よりも控え目で地味に思えたOAMCに、以前よりも惹かれていることに。一瞬で高鳴る胸の高揚があるわけではない。一瞬の高揚感で言えば、以前のOAMCの方が遥かに上だ。しかし、魅力の深みは現在のOAMCの方が優っている。いったい何なのだろう、この感覚は。

ショーの最後、ルークは登場する。坊主頭に髭を生やし、ゆったりとした分量の黒いシャツとパンツを着用しながら手を合わせ挨拶する姿は、まるで禅僧が西洋の服を着て現れているようであった。

ルークは世界に禅問答でも問いかけているのだろうか。僕は本当にOAMCに惹かれているのだろうか。

〈了〉

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