AFFECTUS No.205
冬の太陽に身体が照らされると、暖かく心地よく感じられる。太陽だけではなく、涼風や月光といった自然の恵みは、現代の最新設備がもたらす体験よりも気持ちよく満たしてくれる瞬間がある。
トレンドの最前線を着ることは刺激的で面白く、最新ファッションは気分を高揚させる。しかしながら、ファッションの楽しみはとびっきりの新しさを着るだけでなく、気持ちよさを堪能できる服に袖を通す瞬間にもある。2018SSシーズンにデビューした「ケンゴ(kéngo)」は、陽の光が服となって形に現れたようなデザインを見せてくれる。
2020年5月現在、ケンゴがこれまで発表したコレクションは6シーズンであり、まだまだ若いブランドだと言えよう。しかし、鳥飼拳吾と塩貝沙希の二人が手がけるケンゴは、溌剌とした若さよりもしっとりと落ち着いた雰囲気を服に醸す。
2020AWコレクションで発表されたビジュアルは実に暖かく優しく朗らかな空気を感じさせ、パープル、ベージュ、イエロー、グリーン、ブラウンといった色はどれもビビッドという表現とは無縁な優しく柔らかいトーンで展開され、少数使われているブラックでさえも優しく感じられてくるから不思議だ。服のシルエットは着用する女性モデルをスレンダーにもワイドにも見せるのではなく、ほどよいボリュームによって布が気持ちよさそうなラインを描き、とてもナチュラル。
現代のファッション文脈に登場した「醜い美しさ」とは距離を置くように、服の造形に違和感あるボリュームは見られず、自然であることの美しさを丁寧に辿っているようなデザインだ。ゆえに、世界の文脈の中で評価を得るデザインかというと、それは違うかもしれない。そういった世界線とは離れたところにある、大切な服の価値を見つけ育み、慈しむように服へと仕立てているのがケンゴだと言えよう。
服は着る人を魅力的に見せる役割がある。それが街中で着ることを目的にした服なら、なおさらである。最新トレンドという先端感覚を反映した服は、そのパワーで着用者を輝かせる。トレンドからの距離が遠くなればなるほど、服には褪せた空気が備わり始めるのは避けられない。それはファッションの宿命と言えよう。
だが、外的パワーに頼らずとも、着用者を魅惑的に見せる方法はある。それは服を着る者に気持ちよさをもたらすことだ。袖を通した自身の姿を見て、気持ちよさが感じられてくる。そのような服は人間の内面を輝かせ、誇らしささえ芽生えさせる。その自信はきっと着用者の振る舞いを輝かせるだろう。もし、そんな服があるなら多少トレンドとは距離があったとしても(ただし、距離が遠すぎてはいけない)、手を伸ばしたくなる。それは古着屋の隅で、まるで自分のためにそこで待っていたかのように思える服を発見した気分になるだろう。
特別も独創もいらない。着たいのは日常を暖かく優しくしてくれる服。陽だまりの暖かさが服となって、身体と心を覆ってくれる。シンプルな服に宿る心地よい美しさを、ケンゴはきっとこれからも女性たちに届けてくれる。
〈了〉