変貌したミウッチャ・プラダ

スポンサーリンク

AFFECTUS No.214

コンサバティブなファッションをベースにアヴァンギャルドを表現してきた稀有な才能、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)。新型コロナウィルスの脅威によりデジタルファッションウィークとなった2021SSミラノメンズコレクションでも、「プラダ(Prada)」はシグネチャーであるデザインを披露するかと思いきや、想像外のルックが次々に発表されて僕は驚く。

服だけを見れば僕が想像外と称したことに、首を傾げる方もいるだろう。黒と白のカラーリングはベーシックであり、白いシャツをジャケット&パンツに合わせたセットアップ、同時発表されたウィメンズウェアは白いシャツに黒い膝丈のフレアスカートをスタイリングし、メンズ・ウィメンズいずれのスタイルも想像外と称するほど意外性あるデザインではない。実に保守的なファッションである。しかし、だからこそ僕は驚いてしまった。ミウッチャがそのようなミニマルでクリーンなデザインを見せたことに。

2014SSウィメンズコレクションで「悪趣味なエレガンス」に開眼した以降、デザインの強度に波はあれど、ミウッチャはコンサバスタイルに装飾を無頓着に隣接させたコレクションを幾度も発表してきた。ドレスのシルエット自体は極めてシンプル。しかし、ドレスの内部が調和を無視する色・装飾・素材のコンビネーションを起こすことで見る者を困惑させる、コンサバとは程遠いスタイルへと変貌している。それがミウッチャの「悪趣味なエレガンス」だった。そんなミウッチャだからこそ、2021SSメンズコレクションでも美しい悪趣味な服を見せてくれるものだと僕は自然と思い込んでいた。だが、彼女のビジョンは違っていた。

ミウッチャは今が時代の変わり目と読んだのだろうか、これまでのスタイルを変貌させ、悪趣味なエレガンスに開眼する以前、かつて1990年代後半にミウッチャ自身が発表していたミニマルデザインを発表する。今こそファッションに必要なことはシンプルさ。そうと言わんばかりの潔よく保守的なファッションである。

一口にミニマルなデザインと言っても、90年代をリードしたヘルムート・ラング(Helmut Lang)はクールなムードに満ちて時代の先端をいく颯爽とした未来感にあふれていたが、ミウッチャはコンサバスタイルをベースにミニマルデザインを展開していたため、ラングほどの先端性は感じられず、90年代のプラダは保守的なイメージが匂うスタイルであった。しかし、ミニマル&コンサバという組み合わせはラングとは異なるポジションへプラダをシフトさせ、オリジナリティを確立させる。

まさにあのころのコレクションが復活した。そう述べてもおかしくないのが、今回のコレクションである。見慣れているはずのデザインに、新鮮さを感じてしまう。デザインがサイクルし、価値が変遷していくファッションが持つ面白さの醍醐味が、今この瞬間訪れたのだ。

僕は新しくないはずの新しいデザインを見て、衝動的に気持ちが高まる。

「こんな服を自分は欲しかった」

ここからは実に個人的な感情を述べよう。

確かに時代はデコラティブが優勢である。それがトレンドであることは十分にわかっていた。しかし、だ。やっぱり僕はデコラティブな服よりも、ミニマルなデザインの服が好きなんだ。カッティングと服のスタイリングによってデザインしていく、飾り気のない無装飾なファッション。僕にとっての原点と言えるファッション。

時代と共にファッションは変遷していく。いずれ、真にミニマルなデザインがトレンドに浮上する時代はやって来る。だが、それは今ではない。醜さを美しいものとする価値観がモードで優勢な今、僕はそのように感じていた。しかし、ミウッチャは違う。彼女には異なる未来が見えていた。タイミングは今だったのだ。

想像を超えてこそファッション。想像を超えられた瞬間にこそ、ファッションの醍醐味がある。大胆で迫力あるデザインだけがアヴァンギャルドではない。ファッションの潮流によってはTシャツとデニムというスタイルでさえも、アヴァンギャルドになり得る。時代の価値観を新たなる視点へと導くこと。それこそがファッションにおける前衛であり、必ずしもファッションの奇抜さを競うことではない。ミウッチャ・プラダはシンプルな服でアヴァンギャルドを表現する。

〈了〉

スポンサーリンク