リース・クーパーは新しさよりも美しさを見せる

AFFECTUS No.215

ファッションは生活に根付く極めて現実的な商品になる。実用性や機能性、タウンウェアとしてウェアラブルであるかどうかは、ファッションにとって重要な要素だ。しかし、ただリアルなだけではファッションが持つ魅力のすべてを表現したとは言えない。人々に夢を見せる力がファッションにはある。ファッションが見せる夢に虜となり、夢中になる人々が世界中にいる。

ファッションショーはファッションのファンタジーを、ダイレクトにパワフルに伝える最も有効な手段。そんなファッションショーの魅力を久しぶりに体験するショーを僕は発見する。ショーを開催したデザイナーはリース・クーパー(Reese Cooper)。アメリカのアトランタで生まれ、ロンドンで育ったクーパーは、カリフォルニアを拠点に活動するデザイナーだ。2018年にクーパーが初めてフルコレクションを発表した時、彼の年齢はまだ19歳だった。

近年、20代はブランドで十分な経験を積み、30代でシグネチャーブランドをデビューさせるデザイナーが多い中、クーパーは10代の若さでデビューしたことになる。早期のデビューを可能にしたのも、ロンドンのセレクトショップ「EJDER」や「Adidas UK」などでコンサルタントを務めてきたというキャリアがあればこそだろう。セントラル・セント・マーティンズ(Central Saint Martins)卒業後すぐにシグネチャーブランドを立ち上げたキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)もそうだが、ブランドでの本格的経験なしに若くしてデビューするには、それ以前に才能の裏付けがされているケースが多く、クーパーもその一人になる。

早熟の彼がデザインするファッションとはどのようなものか。

初のデジタルファッションウィークとなった2021SSパリメンズファッションウィーク。従来の観客を大勢招くショー形式による発表が世界中で不可能になり、参加ブランドは各々制作した映像をファッションウィーク開催期間中に発表した。クーパーが映像を発表したのは最終日となった7月13日。時代が予期せぬ変化を見せても、彼はファッション王道の表現であるショー形式の映像を発表する。僕はその映像美に浸り、繰り返し何度も観てしまう。難しい解釈や考察など必要なしに、観るというシンプルな行為だけでコレクションを堪能できる。そんなファッションショーの醍醐味がクーパーの映像にはあった。

ショーのタイトルは“River Runs Through”。その名の通り、川が主役となったショーである。会場となったのは、豊富な緑が生い茂る森の中。青い空を遮る樹々は枝葉の隙間から陽の光を落とし、石と土を柔らかく優しく照らす。自然の恵みを実感させる森の中を、川と言うにはあまりに細く小さい水の道が蛇行して存在し、川の両脇には石が置かれ、ここがランウェイであることを暗示していた。莫大な予算を設けて作られる豪華絢爛なラグジュアリーブランドのショー会場とは対極に位置する、なんとも質素で簡易的なランウェイ。しかし、その慎ましさが会場となった自然のランウェイにしっとりとした美しさを添える。

ショーが始まるとクーパーの最新コレクションを着用したモデルたちが、川のランウェイを裸足で水に足を浸らせながら歩いてくる。ランウェイの先端では岸辺のベンチやシートに腰掛けた観客たちがショーを静かに観賞していた。観客の人数は少なく、映像で確認できた範囲では20人には満たないといったところか。リラックスした様子の人々は、パリのショー会場に集まるプロフェッショナルな人々のモードなファッションスタイルとは真逆の、Tシャツにデニムやショートパンツといった最高にシンプルなカジュアルウェアを着て、まるで休暇を心地よく過ごすようなプライベートな空気に包まれていた。

クーパーのデザインはジーンズをボトムに多用し、ストリートマインドが乗ったアメリカンカジュアルウェアがベースになっている。2021SSコレクションでは、フィッシングベストが代表するようにショー会場の森林とマッチするアウトドア要素も感じられた。クーパーのデザインは雑然で混沌としたストリートスタイルではなく、整ったエレガンスが匂ってくる美しい着こなしを特徴とするカジュアルウェアである。デザインそのものに奇抜さや派手さは感じられない。プリントやロゴ、パッチワークなどストリートな装飾性がディテールや素材に使用されているが、あくまでも控えめだ。

リアルなカジュアルウェアにデザイン性を過剰に表現することなく投入し、街という現実世界の中でも着たいと思わせるリアリテイを持たせ、野暮ったさとは距離を置いてアウトドア&ストリートをデザインする。2021SSコレクションにおいてクーパーは、普通の服装をエレガンスに磨きをかけることで特別な価値を持つファッションへと至らせた。ストリートやアウトドアの要素はアクセントにすぎない。ありふれた当たり前の服に美しさを宿らせる。それこそがクーパーの真価に僕は思えた。そして、厳かな自然に彩られた川のランウェイがクーパーの提示する美意識をさらに引き立てる。

胸に白字でメッセージが小さくプリントされた黒いTシャツに、ストレートシルエットのカジュアルパンツをロールアップし、腰にチェックシャツを巻く。なんて普通の服装なのだろう。これが世界最高の創造性を競うパリファッショウィークで発表するファッションなのだろうか。しかし、その疑問は美しい自然を前にして発表される服の前では無力となる。

クーパーがカジュアルスタイルの中で見せたエレガンスは、同時発表されたウィメンズウェアではいっそう映える。メンズよりもエレガンス色が強く、フレアスカートやワンピースにはフォークロアの香りも添えられ、エレガンス色が強くなったウィメンズであっても畏った雰囲気とは無縁であり、とても心地よさそうな美しいリラックス感がモデルたちの周囲を覆っていた。

ショー会場がこれほどに服のイメージに大きな影響を及ぼすのか。そう驚きを覚えた僕はモデルたちが歩くだけの姿がこんなにも美しく見えたことに、ファッションを問い直したい気分にさせられる。

「新しさとは本当に価値あることなのだろうか」

ここ数シーズン、クラシックなエレガンスがトレンドに浮上していたが、時代が大きく変貌した今、僕は重厚さが魅力のクラシックが重々しく感じるようになってしまった。軽快な装いの中に、伝統の美しさを混ぜる。クーパーが木漏れ日の中、水上で見せてくれたファッションはとびっきりの新しさを備えていたわけではなかったが、これからの時代にこそ必要なファッションではないか。

新しさよりも美しさ。

この探究の先を僕は知りたい。

〈了〉

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