オム プリッセ イッセイ ミヤケは歴史を紡ぐ

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AFFECTUS No.218

近年、注目度を高めているメンズブランドをあげるとしたら、このブランドは間違いなくそのリストに入ってくるだろう。2013年に「イッセイミヤケ(Issey Miyake)」が新たにスタートさせたメンズブランド「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(Homme Plissé Issey Miyake)」である。

2019AWシーズンからはパリでランウェイ形式による発表を休止した「イッセイ ミヤケ メン(Issey Miyake Men *2020AWシーズンを最後に休止)」に代わるイッセイ ミヤケのメンズブランドとして、現在パリファッションウィークの公式スケジュールで最新コレクションを発表しており、エンターテイメント性ある発表方法は個人的にも毎シーズン注目している。

オム プリッセ イッセイ ミヤケはイッセイ ミヤケを語る上で欠かせないテクニックの一つ、プリーツを素材の中核に据えたデザインを行なっている。プリーツ加工が施された素材を、シャツやジャケットといったトップスやアウターだけでなくボトムにも使用し、プリーツの多目的展開を図って成功させている。

イッセイ ミヤケにとってテクノロジーを活かした素材開発は同ブランドのDNAであり、その探究心は多くの若手デザイナーにも影響を及ぼしたであろう。しかし、素材の技巧性が前面に強く表現され、街で着る際のリアリティと時代のファッション感と呼応したトレンドから乖離し、いささかファッション性に欠ける弱点があると僕は感じていた。

「誰が、どこで、何のために着る服なのか」

異論はあると思うが、僕はそのような戸惑いをイッセイミヤケから時折感じることがあった。

だが、オム プリッセ イッセイ ミヤケはその弱点を解決する。プリーツを前面に押し出した素材に際立つ特徴を感じながらも、シンプルなシルエットでベーシックアイテムを展開していき、スポーティな要素も含んだ軽快なスタイルの提案はファッションとして魅力あるデザインが生まれ、イッセイミヤケのDNAを引き継ぎつつ現代ファッションの空気を捉えた「商品」として完成した。

イッセイ ミヤケの中で同様のデザイン性を持つラインが、2014SSシーズンからデザイナーに就任した高橋悠介(*2020年退任)によるイッセイ ミヤケ メンだった。特徴ある素材をベーシックアイテムに展開し、ファッションデザインの文脈を捉えたストリートの匂いを含むカジュアルウェアはイッセイ ミヤケによる新時代のメンズウェアと言えるものだったが、 オム プリッセ イッセイ ミヤケはスポーティな要素が入り込むことで、高橋のイッセイ ミヤケ メンよりもさらに日常に寄り添ったリアルを獲得し、ウェアラブルな側面が強くなって購入意欲を沸き起こす商品となっている。

最新2021SSコレクションで発表された映像にも、 オム プリッセ イッセイ ミヤケのスポーツ&リアルはしっかりと感じられる。コレクションテーマは「Meet Your New Self」。青い空とビルが建ち並ぶ景色からスタートした映像は、一転して白い空間へと場を移す。そこに登場する一人の男性モデル。彼は白いハンガーラックにかけられたハンガーへと手を伸ばす。ハンガーを両手に持ったまま踊り始めると、白い服を着ていたはずの男性モデルはハンガーにあったはずのカラフルなオム プリッセ イッセイ ミヤケの服をいつまにか着ていた。

そのことに男性モデルは驚きながらも、ダンスを続けていく。軽快な動きに合わせて軽やかに柔らかに躍動的に裾を翻す服は、清涼感と綺麗さで満ちたエレガンスをスポーティな感覚と共に映像を観ている我々に届けてくれる。

次に登場する二人目の男性モデルは白い箱に腰掛けながら、ハンガーラックへと目を向ける。ラックにかけられたハンガーたちは左右に揺れていて、まるで服が選ばれることを、着られることを待っているかのよう。その様子に目がとまった男性モデルがラックへ近づきハンガーに触れると、いつの間にか身に付けていた服がまたもカラフルなオム プリッセ イッセイ ミヤケの最新コレクションへと瞬時に入れ替わってしまった。

最新コレクションを着用した男性はリズミカルに身体を動かし、人間の肉体が見せる動的な魅力を衣服を通して表現している。一つの表現となったダンスは、オム プリッセ イッセイ ミヤケの魅力をさらに掻き立てた。

最後の三人目となる男性モデルはボールを手に持ち、バスケのドリブルをたどたどしく行なっていた。彼も先の二人と同様にハンガーが揺れているラックへ近づき、恐る恐る服に触れる。すると触れた瞬間に音が鳴り響き、驚いた彼は後ろへ飛び退いて倒れ込む。着用していた服はオム プリッセ イッセイ ミヤケに入れ替わり、男性モデルは先ほどのたどたどしいボール捌きが嘘のようにボールが身体の一部となった見事なテクニックを見せ、白い空間をダイナミックにエレガントに舞っていく。

これが2021SSコレクションが発表された映像である。この映像を観ていても改めて感じるのは、オム プリッセ イッセイ ミヤケのスポーツ&リアルである。素材はプリーツが施され、緑や青、赤、オレンジ、紫といった多様な色が切り替えやスタイリングによって数多く使われたファッションスタイルは、僕らが考える街中のリアルファッションとは異なる。

しかしながら、モードファッション、とりわけ日本ブランドに散見されるパターンの複雑さや細かいディテールという技巧性は服そのものに目立って使われてはおらず、シンプルさと清涼感が前面に打ち出され、モードと街のリアリティの狭間にある日常的かつ、服を着るだけで非日常感を体験できるデザイン性の落とし所が上手いバランスで着地している。

スポーティなリラックスシルエットに軽やかな素材感をミックスしたデザインは、ミニマムな色使いと併せ持ってクリーンで知的さも感じられてくる。僕の印象ではオム プリッセ イッセイ ミヤケはブランド設立と同時に一気に人気を獲得したわけではなく、徐々に人気を高めてきたように思う。正直にいえば、ブランド発表当初、プリーツの服を積極的に着る男性が市場にどれだけいるのだろうかと僕は疑問を抱くほどだった。

しかし、僕の疑問は間違っていた。実際に市場でプリーツの服を着たいと思う男性は、少なかったのかもしれない。だが、オム プリッセ イッセイ ミヤケは軽やかなシルエットとミニマムな色使いのクリーンなウェアで市場を開拓し、ファンを増やしていった。僕の記憶する限りになるが、イッセイ ミヤケ社が取り立てて大規模なマーケティングを仕掛けた印象はない。毎シーズン発表するコレクションによって、地道にブランドの価値を高めてきたように思う。そこに装飾性高いストリートスタイルから、トレンドがシンプルな美しさを備えたエレガンスへ移行した変化も追い風にはなっているだろう。

デザインの力でブランドの評価と価値を高めた。言うは易く行うは難し。それを実践し、成功させたブランドがオム プリッセ イッセイ ミヤケである。日本が世界に誇るブランドであるイッセイ ミヤケは、ファッションにおけるデザインの価値を高めてきた。三宅一生の精神は今もなお受け継がれ、歴史は紡がれていく。

〈了〉

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