イッセイ ミヤケとユニクロ、そしてCFCL

スポンサーリンク

AFFECTUS No.221

2020年2月、「イッセイ ミヤケ メン(Issey Miyake Men)」のデザイナーを約6年に渡り務めた高橋悠介が、三宅デザイン事務所を退社して新会社を設立することが発表された。そして発表から7ヶ月、いよいよ高橋のシグネチャーブランド「CFCL(シーエフシーエル)」の一旦が見える。

独立後に立ち上げた会社の名前「CFCL」がブランド名になるのだろうと思っていたが、気になっていたのは名前の意味。アルファベットを4文字並べた名前は、「カラー(Kolor)」の阿部潤一が、かつて参加していたブランド「PPCM(ピーピーシーエム)」を思い出させた。PPCMは単にアルファベットを並べた際の語感の良さで決めたという、特別な意味を持たないブランド名だったがCFCLは異なる。

CFCLとは「Clothing For Contemporary Life(現代生活のための衣服)」の頭文字を並べたもので、ブランドの精神性を表したものだった。ブランドサイトに掲載された〈PROFILE〉には次のように書かれている。

「CFCLは、Clothing For Contemporary Life(現代生活のための衣服)の頭文字です。3Dコンピューター・ニッティングの技術を中核に据え、時代に左右されない衣服を提供します。同時に、衣服としての機能性、環境への配慮、最適な国産素材の選択、流通経路の透明性を追求します。これが、私たちの考える現代生活に求められる衣服の定義です。実験的で先進的な姿勢を携えながら、今の時代を生きる人々のための製品を提案します」*CFCL Official Siteより

文面を読んでいると、とてもアノニマスなイメージを感じてきた。デザイナーの文学性を全面に押し出すモードファッションとは異なる文脈の、ファッションというよりも現代の消費者に必要なプロダクトを服というフォーマットを借りて市場へ提案していく。人々の生活に役立つ商品を実験開発し、販売する。そのようなブランドの姿勢を僕は感じ、それはまさにイッセイ ミヤケの精神を思い出させる。と同時に、僕は「ユニクロ(UNIQLO)」をも連想する。人々の生活に役立つアパレルプロダクトの提案。それはユニクロに通じる姿勢ではないだろうか。

では実際に開発された衣服とはどのようなものだろうか。CFCLから発表された6枚のイメージビジュアルから捉えた感覚を語っていきたい。

すべてのビジュアルを見終わり、真っ先に浮かんできた言葉は「独立後、逆にイッセイ ミヤケの世界観が強くなった」ということである。

コレクションで発表されたニットアイテムの6割は、島精機製作所のホールガーメント機を用いて制作されたということであり、オリーブ・ブラック・イエロー・オレンジの4色が平行線で切り替えられたワンピース、イエローのブルゾンにブラックのボトム、深みのあるブルーのトップスとブラックのボトムという、スタイリングに見られる平面的な色の組み合わせと色の種類は、イッセイ ミヤケのカラーパレットを呼び起こし、ワンピースとブルーのトップスに見られた浮遊感ある簡素なフォルムも、服をシンプルな形に抽象化するイッセイ ミヤケ独特の造形を僕に連想させた。

CFCLはニットを中核にしてコレクションを構成しており、スタイルではなくアイテムをコンセプトの軸にする点も「プリーツ プリーズ イッセイミヤケ(PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE)」のように、一つの技術や素材にフォーカスして商品をデザインしていくイッセイ ミヤケのプロダクト的アプローチを思い出す。

2000年代から約20年、僕がイッセイ ミヤケを独立したデザイナーのデザインを見てきて感じたことは、独立後にデザイナーたちはイッセイミヤケ出身であることを忘れさせるぐらいに自らの新しい世界をデザインする点にあった。「アタッチメント(ATTACHMENT)」はストイックでシャープなスタイルが印象強かっために、デザイナーの熊谷和幸がイッセイミヤケ出身ということを知ったとき、僕はとても驚いた。

一方、高橋悠介はイッセイ ミヤケ メンのデザイナーを務めていた際には、むしろそれまでのイッセイ ミヤケとは異端のファッション性が強いメンズウェアをデザインしていた。イッセイ ミヤケのDNAである素材開発やテクノロジーを生かした服作りが強く押し出されたプロダクト的デザインではなく、ブランドのDNAを時代のファッション性の中に忍び込ませ、ストリートテイストのメンズウェアへと昇華させる高橋の手腕は見事であった。

僕はあのメンズウェアのデザインを引き継いだブランドがCFCLになるのかと予想していたが、僕の予想とは逆にCFCLのデザインはイッセイ ミヤケの世界へと還流するものだった。もちろん、CFCLには高橋のセンスが感じられる独自性がしっかりと表現されている。

高橋のセンスはプロダクト的アプローチをファッション性強くデザインできる点にある。現時点でCFCLから発表されたイメージビジュアルの数は少数だったが、そこから僕が感じたのはイッセイ ミヤケのウィメンズラインをよりリアルな日常に近づけた現代的な衣服である。テクノロジーをより身近に、よりファッション的に。そんなフレーズが浮かんでくる。

また、CFCLのデビューコレクションでは素材の9割に再生ポリエステルが使用されており、キャップ以外は自宅での洗濯も可能な速乾性に優れた商品になっている。自宅で簡単に洗えて、メンテナンスが容易な衣服は現代の消費者生活に寄り添うものであり、それはユニクロと同様の姿勢である。CFCLはユニクロと同じく消費者生活へ寄り添いながら、ユニクロにはないデザイン性の強い商品へとデザインされている。そしてそれは、イッセイ ミヤケをさらに消費者の生活に近づけたリアリティが伴っている。ユニクロとイッセイ ミヤケの狭間にある市場の需要を満たしていくブランド。それがCFCLではないだろうか。

アノニマスなイメージとモードとは異なる文脈を感じたCFCLだが、デビューコレクションの一旦を観察していくと、実験的精神で消費者のための現実的な衣服を、日常的リアルなファッション性と共に現代の生活に必要な技術を忍び込ませながら提案するという姿勢こそが、高橋の文学性に感じられ、やはり彼はモード性を備えた作家性のあるファッションデザイナーなのだと思うに至る。

現時点で発表されているビジュアルは枚数が少なく、デビューコレクションの全貌は判明していない。これからCFCLが市場でどう評価されていくのか、ブランドの今後に注目していきたい。

〈了〉

スポンサーリンク