雑多で知的で美しいアンブッシュ

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AFFECTUS No.226

時間を遡る。2020AWメンズコレクションで一つ気になる現象が見られていた。その現象の数は多くはないが少なくもなく、次のトレンドとなり得る可能性を僕は感じていた。新たに現れたネクストトレンドの兆しがウィメンズにも波及するかどうか注目していたが、2021SSシーズンに「アンブッシュ(Ambush)」がその波に乗る。果たしてこのデザイン兆候はビッグウェーブとなるのだろうか。

2020AWメンズコレクションで散見され、2021SSシーズンにアンブッシュも見せた新たなる波とは、裏トレンドと称せるものだ。単純にコレクションを見ているだけで気づくことは困難。ブランドのコレクションを、継続的にシーズンを重ねて見ることで初めて気づくことができる現象だった。

そのトレンドとは、ブランドが象徴としていたスタイルとは逆のスタイルへのシフトである。たとえば、プリントや柄を大量に用いて装飾性の高いデザインを発表していたブランドが、白やグレーなどベーシックカラーの無地素材を用いてシンプルでエレガントな服を披露する。あるいは、ミニマムなデザインを真骨頂としていたブランドが、フラワープリントを大量に使用してカラフルなコレクションを披露する。そういった逆シフトを起こす現象が、2020AWメンズコレクションで現れ始めていたのだ。

一見すると、トレンドと言えるまとまりは感じられない。だが、その裏では「逆へシフトする」という現象が一つの集合体として現れていた。つまり目で見ることのできない、視覚では認知することのできないトレンドなのだ。

そして今シーズンのアンブッシュも逆シフトを起こす。2008年にユーン(Yoon)とバーバル(Verbal)がスタートしたアンブッシュは、無骨なシルバー&ゴールドジュエリーが象徴であるように、ヒップホップテイストに包まれたストリートファッションをブランドのシグネチャースタイルとしていた。ジュエリーで評価を高めたアンブッシュが始めたアパレルラインから僕は、これまで一度たりともミニマリズムに通じるクリーンさを感じたことはなかった。

しかし、だ。2021SSシーズンのアンブッシュは違った。発表されたビジュアルは1枚目から空気を一変させている。男性モデルが着用する服にプリントや柄は皆無で、全身がオフホワイト一色で覆われていた。アンブッシュがこれまで無地の素材を用いてこなかったわけではない。過去のコレクションでも、無地素材を使用したアイテムは幾度も発表している。

しかし、今回ほどクリーンでピュアなムードを醸していることはなかった。いつだって、ストリートなエッセンス香る危うさが漂っており、そこにミニマリズムに通じるクリーンさを感じることなど無理だった。だが2021SSシーズンのアンブッシュはクリーンと呼ぶしかないほどに装飾性を排除し、知的で麗しいスタイルを披露している。

発表されたメンズウェアではノーカラージャケットが目にとまる。柔道の道着を連想させるノーカラージャケットはボタンレスで、フロントの前端から垂れる細いベルトでゆるく結び、これまでのアンブッシュを思わすルーズなムードを演出している。だが、アウトローではない。静けさと共に男性モデルはカメラに視線を向け、そこには一種の美しさがあった。

ウィメンズウェアではリネンを使用したトップスとロングスカートが発表された。ストリートがイメージのアンブッシュから、まさかリネンを用いたアイテムが登場するとは。しかもトップスの造形は結びをディテールとして取り入れ、柔らかくふんわりとしたフォルムに仕上げ、ロングスカートはややAラインを描き、サイドにスリットを入れた実にシンプルなシルエット。

それだけではない。左肩から布を垂らしたようなドレープを取り入れたトップスを着用し、ボトムにはシックな、ややワイドシルエットのブラックパンツをスタイリングしている。ノマドという単語が浮かぶロングレングスのベージュカラーで展開されたケープも現れ、僕はかつてサムエル・ドゥリラ(Samuel Drira)がディレクターを務めていた頃の「ネヘラ(Nehera)」を思い出すまでに至った。

僕は過去にアンブッシュが発表してきたどのコレクションよりも、今回の2021SSコレクションに惹かれた。ピュア&クリーンが感じられるのは確かだが、モデルたちには都会でスマートに過ごす男女のイメージよりも、正道とは異なる自分の信じる道を進むストリートのアティテュードが匂ってくる。このニュアンスがミニマムデザインと溶け込み、アンブッシュだからこその雑多で知的なエレガンスが生まれていた。

異文化が混じり合ったようにかすかにノイジーで、けれど色や柄を大量に大胆に使用するのではなく、装飾は最小限にとどめ、ホワイト&ブラックをメインにした色展開でクリーン&ミニマムにまとめ上げ、新たなる一面を提示したアンブッシュ。ユーンとバーバルはファッションコンテクストに登場した新たなる波に乗り、自分たちのポテンシャルを証明した。

〈了〉

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