ミニマリズムを書き換えるトーガ

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AFFECTUS No.253

ファッションとはイメージの産物であり、ファッションから感じられるイメージが価値を決定づける。スタイルを例にあげて考えてみよう。クラシック、トラッド、アウトドア、ストリート。それぞれのスタイルを耳にした時、頭の中に浮かび上がってくる服装イメージがある。消費者にどのようなイメージを頭の中に呼び起こすか。ファッションデザインは、服をデザインすることではなくイメージをデザインすることと言っても差し支えない。

だからこそ、従来のスタイルやファッション概念に結びついていたイメージが崩されたコレクションに遭遇すると、僕は新鮮な驚きを感じてしまう。2021AWシーズンにもそんなコレクションを発表するブランドが現れた。古田泰子による「トーガ(Toga)」である。

発表されたルック数は22ルックと数は少ないが、今シーズンのトーガはあるファッション概念に対して僕が抱いていたイメージを崩し、強い印象を刻む。僕のイメージが崩されたファッション概念とはミニリマリズムだ。トーガのコレクションルックを見始めるとすぐに僕は「ミニマリズム」の単語が浮かび上がってきて、けれどルックを見ていくに従ってトーガの服がミニマリズムとは異なる要素を備えたデザインであることが判明する。僕のイメージは混濁し、だけど意外性あるイメージの訪れに心地よい驚きを感じる。

2021AWコレクションの構成において、トーガの主軸となった色はブラック&ホワイトの2色。その2色にイエロー系とブラウン系の色がほんの少し挟み込まれてアクセントを作り出しているが、コレクションから受ける印象は圧倒的にブラック&ホワイトだ。色は人間に強いインパクトとイメージを刻む。僕の場合、ブラックであればクールで強い印象が思い浮かび、一方で喪服のイメージを呼び起こして悲しみや暗さも連想させ、色にはイメージが付随していることが実感できる。

ブラック&ホワイトに僕が抱いているイメージはミニマリズムだった。このツートンカラーが徹底的にコレクションで展開されていることによって、僕は今回のトーガにまずはミニマリズムというイメージを抱くに至った。しかし、トーガのコレクションがミニマリズムとは対極を成すデザインであることは瞬時に判明していく。

トップスの衿や袖、スカートのアウトラインとヘムライン、服の至るところに植物的な曲線のカッティングが施され、花びらが布として整形されて衣服に取り付けられているような印象で、そこにはアヴァンギャルドな空気さえも滲んでいた。直線で簡潔なカッティングを主とするミニマリズムとは対極の造形である。

しかしながら、アヴァンギャルドな空気があると言っても服の造形全体に表現されているわけではなく、シャツやダウンコートなどリアルでベーシックなアイテムの中に溶け込んだコンパクトな仕様になっている。その印象がまた僕の中でミニマリズムへと繋がっていく。

ミニマリズムと言えば、衣服から装飾性を排除したデザインが浮かび上がってくる。素材では無地が圧倒的に多い。しかし、もちろんトーガは異なる。植物を連想させる、見るからに花とわかる柄もあれば、完全に花の形ではないが花のようなものを連想させる抽象的色植物的イメージの柄も使われ、イエロー系やブルー系で彩色された柄もあるが、それらの柄のほとんどがモノトーンカラーで展開されている。ここにまたミニマリズム的イメージを感じさせるもの=モノトーンカラーと、ミニマリズムとは対極のもの=植物的柄を用いた装飾性が混在している。

このように2021AWコレクションのトーガは、ミニマリズムのイメージとミニマリズムとは対極のイメージが服の中で入れ替わり立ち替わり現れてコレクションが構成されているのだ。現実世界の服でありながら、その現実は僕らの知る現実とは異なる世界の住人たちのための服。トーガはリアリティを持ちながら、フィクションを見せてきた。

東京から海外に発表の場を移してから古田泰子のモードは、成熟味を増してきた。その完成度は派手はないかもしれないがクオリティの高さを実感させる。彼女の創造性が凝縮されてる。そんな印象だ。リアルな服の残像が迫ると同時に、リアルとは遠い世界へ僕らを導いていく。そこにあったのは従来の概念を崩す世界のイメージだった。今トーガは、至高のレベルに到達する。

〈了〉

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