ミニマリズムとマメ・クロゴウチ

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AFFECTUS No.273

今や若手では注目度、実力共にNo.1と言ってもいいコレクションを披露する「マメ・クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」。とりわけ、パリ・ファッション・ウィーク公式スケジュールでの発表が始まって以降、コレクションに凄みが増し、黒河内真衣子は完全に日本の若手世代では別格の存在となった。

僕がマメ・クロゴウチの特徴として捉えているのは、日本の伝統的な美を現代的に昇華し、西洋の衣服の文脈へ融合させるデザインであり、中でも昭和の空気を感じることが多い。昨年2020年9月に発表された2021SSコレクションは、昭和の儚く繊細な美をアンティーク調に綴り、パリで発表する他の日本ブランドは重層的かつ複雑なデザインが特徴であることが多いが、その文脈とは異なる場所への到達を証明する見事なコレクションに仕上がっていた。

しかし、日本の伝統的な美=マメ・クロゴウチという僕の図式が、今年3月に発表された2021AWコレクションでは崩れる。過去のコレクションには見られなかった新しい側面が明らかになり、デザインがネクストステージに移行したと言ってもいいほどの変革である。

いったい、どのようなコレクションが発表されたのか。詳細に触れていこう。

2021AWコレクションの全ルックを見終え、真っ先に浮かび上がってきた言葉がミニマリズムだった。冷たい空気にシャープでソリッドな感覚が、コレクションの至る所に漂っている。それはこれまでのマメ・クロゴウチには感じなかったムードである。しかし、ルックそのものに焦点を当てれば、このコレクションをミニマリズムと称することに違和感を唱えられたとしても、不思議ではない。

ミニマルな服といえば色数を非常に限定し、モノトーンカラーを主流にして素材に柄をほとんど用いないのが通例である。だが、今回のマメ・クロゴウチには柄が複数登場する(このブランドなら、柄の登場は当たり前なのだが)。特に目立つのは、ソフトに表現するなら植物柄、よりストレートに表現するならば、まるで人間の内臓を服地の柄として描き、それらを染色したような不思議でグロテスクな匂いも混ざる抽象的な柄だ。

ミニマルウェアにまず見られない柄が多用されていると言うのに、僕はマメ・クロゴウチにミニマリズムブランドと同じ冷たいクールな感覚を抱く。その理由はコレクションに挟み込まれた、あるイメージに起因する。

キーアイテムとなったのはサングラスだ。モデルたちが掛けているサングラスは、SF映画的世界観を僕に連想させ、その連想が近未来感へと繋がった。それだけじゃない。黒いラインの使い方が「アディダス(Adidas)」のスリーラインを思わせるスポーティさが滲み、颯爽とした空気も立ち上がっている。

このラインの使い方は、もう一つのイメージを僕に浮かばせた。ファッション史に登場した近未来イメージを植え付けるデザイン、例えば古くは1960年代の「クレージュ(Courreges)」、もしくは1990年代に時代を席巻した「ヘルムート・ラング(Helmut Lang)」など未来・宇宙・近未来といった言葉を抱かせるデザインディテールが、今回のマメ・クロゴウチには散見される。

ミニマリズムとは程遠い、スモーキーな色調のグロテスクさもほんのり滲む抽象柄を使いながら、同時に反対要素であるはずのミニマリズムが迫ってきた背景には、近未来イメージを確立した過去のファッションの残像が垣間見えた。

グロテスクな抽象柄とミニマリズムのイメージを立ち上げるライン使い、このコンビネーションがマメ・クロゴウチのシグネチャーである着物に通じるロング&リーンのシルエットに乗ることで、ブランドの世界観を感じさせると同時に、ミニマリズムの影を滲ませるコレクションを完成させていた。

ブランドのDNAをしっかりと組み込んだ上での新しさの表現。深みと凄みを増していくマメ・クロゴウチ。いったい、黒河内真衣子はどのような創造プロセスを頭に描いているのだろうか。いったい、何からインスピレーションを経て、得られたインスピレーションをどのようにデザインへと組み込んでいくのか。日本伝統の美を、これまでの日本ブランドとは異なる方法で、かつモードコンテクストにて発表する海外ブランドとは異なる文脈へ至らせる才能と実力は、これからどのような進歩を見せていくのだろう。僕は、そのクリエティブの過程とブランドの未来に、さらなる興味を抱く。

〈了〉

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