ヴェトモンからVTMNTSがデビュー

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AFFECTUS No.274

2014年にデビューし、世界をストリート旋風で席巻した「ヴェトモン(Vetements)」。ブランドの中核人物であったデザイナーのデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)は、2019年にヴェトモンから離脱し、2017年からクリエイティブ・ディレクターを務める「バレンシアガ(Balenciaga)」に注力しているが、今年に入り、ヴェトモンから新ブランドのデビューがアナウンスされる。

ブランドの名を「VTMNTS」と言う。

2021年7月、VTMNTSのデビューコレクションとなる2022SSコレクションが披露された。詳細なブランド背景に関しては、既出の情報を調べてもらえたらと思う。このAFFECTUSでは、早速コレクションへとフォーカスしていきたい。

今回発表されたルック数は全100ルックと、なかなかのボリュームだ。コレクション全体からは、ヴェトモンに通じるストリート感、アウトローな空気は感じられるが、スタイルとしてはラッパー、ヤンキー、トラッド、スポーツなど様々なファッションの残像がヴェトモンよりも強く感じられ、それらを混ぜ合わせて上品に着こなす若者というイメージを抱く。

VTMNTSのルックからは、以前のヴェトモンが見せていた人間の身体を誇張した、驚くべきシルエットなど、強烈なインパクトを放つ要素は感じられない。ヴェトモンよりもスタイルそのものの構築に、集中している印象だ。

ボトムを見てみると、クラシカルなタックパンツが何度も登場し、煌びやかで贅沢だった1980年代を思わす柄とムードのトップスがスタイリングされている。このトップスを見ていて、僕の中に浮かんできたイメージは昭和の時代に活躍していた、日本人プロ野球選手たちがプライベートで着るニットだった。なんともクセの強い柄と色、洗練とは程遠い野暮なシルエットのトップスに、チェーンネックレスを首元に飾る男性モデルたちの姿に、僕はエレガンスとかクラシックとか、従来のファッション的価値観を当てはめられない感覚を覚える。

醜さの中に潜む美しさを訴えてきた時代を経た今、このスタイルをシグネチャースタイルとする若者が確実に現代にはいるだろう。同じ文脈上に位置するブランドがあるかどうか、僕は自分の中の記憶を辿ると、以前の「ゴーシャ・ラブチンスキー(Gosha Rubchinskiy)」が浮かび上がってきた。ゴーシャより野性味を強め、クラシカルな匂いを加味したような、そんな印象のスタイルが僕の捉えたVTMNTSだった。

デザインのアプローチで言えば、デムナよりもエディ・スリマン(Hedi Slimane)に近い。エディとVTMNTSではスタイルは異なるが、ブランド(デザイナー)が愛する人間たちを思い、その人間たちが最も美しく見える服を完成させるというアプローチである。味気ない表現だと思われるかもしれないが、次のように言い換えることもできる。明確なターゲット像があり、そのターゲットに向けた作った服である。僕はこのタイプのデザイナーの最高峰に、先のエディや、シグネチャーブランド始動を発表したフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)の名が挙げられる。

ヴェトモン、とりわけデムナが在籍していた時期のヴェトモンは、ファッション史の文脈を書き換えるパワフルなコレクションを発表していたが、VTMNTSはもっと人間に近づいた服を作っているリアリティがある。

しかし、リアリティがあると言っても、先ほど述べたようにストリート、トラッド、スポーツなどいくつものファッションスタイルが混じり合い、それをアウトロー&ストリートの空気でまとめ上げ、従来の枠を超えた感覚は確かにある。このような雑多な混合スタイルは以前のファッションには見られなかったもので、近年見られるようになったものだ。

最近、コレクションを観察していると、「綺麗にまとめない綺麗さ」というものがあることに気づく。ルーク・メイヤー(Luke Meier)の「OAMC(オーエーエムシー)」もそうであり、誰もが魅了される美しいバランスのシルエット・素材・色で服を作り上げるのではなく、野暮っさを残したままスタイルを完成させたコレクションに、僕は惹かれることが多くなってきた。

たとえば、高級な質感と発色を見せるウール素材に、グレー、ベージュ、ネイビーなどクリーンでベーシックな色を使いながら、ジャケットの肩幅はやや広く肩先が落ちていて、ウェストにシェイプは見られずほぼストレートであり、袖幅も太めに仕上がっている。こういう服に、僕は魅力を感じるようになってきた。これまでファッションで良いとされてきた美の価値観に、僕は飽きてきたのかもしれない。

VTMNTSも「綺麗にまとめない綺麗さ」を探究されたスタイルに思えてくる。ルックだけを見れば、エレガンスとは言えない。しかし、このスタイルを好む人間から見た時には、VTMNTSはエレガンスだと思われるのではないか、そう感じられるコレクションに僕は思えた。

何を美しいと思うか。それは人間によって変わって当然だ。別の立場から見たエレガンス。そういう存在に気づかせるコレクション。VTMNTSやOAMC、加えていうならば近年のキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)もそのグループに属すると言える。

街ですぐに着られるリアリティがあるがゆえに、コレクションのインパクトは弱く感じられるが、インパクトが弱いからといって新しくないとは言えない。現実的な服で新しさを問い直す。この行為を僕は新しく感じる。

売上の大きさは会社の評価を高めるが、売上の大きさだけではブランドの評価は高まらないこともある。それが、モードの一面でもある。果たしてVTMNTSは、今後のコレクションをどう進化させていくだろうか

〈了〉

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