セルフポートレイトがデザインをデザインする

AFFECTUS No.292

今どんなデザインが発表されているのか、どんなスタイルが街でトレンドとなっているのか。今の動向こそが、ファッションの命であり新鮮さ。古着というカテゴリーであっても、その時着たいと思える古着を選ぶ際は、常に今の新しさと共通点が見られるデザインに惹かれてしまう。現代の価値観と完全に隔絶したデザインの服を選ぶことは、コレクターの域に達しでもしなければ不可能だろう。

今の新しさが最も先鋭的に表現され、最も激しい競争が行われているモードで、僕はあるブランドのコレクションを毎シーズン見るたびにいつも「古臭さ」を感じてしまっていた。しかし、その古臭さがコレクションに個性を成立させるという、非常に希少な現象を引き起こしている。そのことに僕は驚く。こんな方法があるのかと。

「セルフポートレイト(Self-Portrait)」は時代から遅れることで、時代に価値を示す。マレーシア出身のハン・チョン(Han Chong)は、2013年にロンドンで自らのブランドであるセルフポートレイトを立ち上げ、現在はニューヨーク・ファッション・ウィークで最新コレクションを発表している。

ポートレイトのコレクションを見て、まず思い浮かんだ表現は「百貨店のミセスフロアで見る服」だった。最新トレンドとは合致していないが、ある特定の層には好まれるデザインの服。やや辛辣な表現かもしれないが、セルフポートレイトのデザインは、百貨店のミセスフロアを歩いている時の記憶と感覚を蘇らせる。あるいは、令嬢の為のコンサバティブな服と呼ぶこともでき、スタイリングで多く見られるカーディガンや、シャネルツイードを連想させる素材は、僕にココ・シャネル(Coco Chanel)の姿を思い出させた。

当時のシャネルのスタイルをそのまま具現化しただけでは、本当にただのコンサバスタイルになってしまうが、ハン・チョンは絶妙なバランス感覚のアクセントを披露する。それは「モードな曖昧さ」と呼べる類のデザインだった。

例えば2021AWコレクションでは、お嬢様ルックという印象のディテール・シルエット・スタイルを発表するが、イメージに甘さはなく、むしろ辛めで妖しくもあり、幽霊的、ゴーストな雰囲気を持つお嬢様ルックが誕生していた。コンサバスタイルから距離の離れたゴーストイメージを加え、コンサバスタイルが従来持っていたイメージからほんの少しずらすことで、コレクションは印象深いものに仕上がっていた。

2022SSコレクションでも、モードな曖昧さが惹き寄せる。「美しき中庸」という言葉を浮かべたコレクションは、シンプルだがミニマムというほど簡素ではなく、装飾性はあるがアヴァンギャルドというほど大胆な迫力とは程遠いフィニッシュ。あえて強烈なインパクトを刻むことを避けているようにすら僕は思え、この曖昧さが心に引っ掛かりを生む。

セルフポートレイトはいつも掴みどころがない。どう表現したらいいのだろう。

現代ファッションの最先端を追っているわけではなくて、けれど懐古的な古さがあるわけでもない。ファッションはこれまでにない表現をデザインすることで新しさを作ったり、これまでにあった表現を現代の感覚で組み替えた表現をデザインすることで、新しさを作り出す。セルフポートレイトの手法は後者に分類されるが、新しさを求めるはずのファッションで、新しさは控えめにして古さの成分を多く残したまま、コレクションを完成させている。半歩時代から遅れた場所にある美しさ、一昔前の「かわいい」「きれい」を見ているような古さ、その一昔前の美意識を現代的にしようとしているが、新しくさせ過ぎず、古さに傾いた位置にコレクションを留めているのだ。

「セルフポートレイトは、デザインの手法そのものをデザインしている」

今回のタイトルを正確に述べれば、こうなるだろう。デザインとは服の形や色、スタイルを発想する前の段階にも存在する。ハン・チョンは、コンサバティブな服の背後にモダンな感性を持ち、新しさばかりを追いかけるファッション界に疑問を投げかける。

〈了〉

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