メルヘン、クレージュ、オテイザ

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AFFECTUS No.317

メルヘンと言われるスタイルがある。童話的な、幻想的なイメージを抱くファッションで、甘さや幼さが感じられ、主にウィメンズウェアの領域で現れることが多いスタイルだろう。今回取り上げる「オテイザ(Oteyza)」は、このメルヘンをメンズウェアとして料理するのだが、コレクションの仕上がりに僕は新鮮さを覚えた。

読者の中にオテイザを知っていた方はいるだろうか。僕は今回の2022AWシーズンで初めて知り、世界には本当にさまざまなブランドがあるのだと改めて感じた。ちなみにブランド名の「Oteyza」だが、スペインのマドリッドを拠点に活動するブランドであるため、正しい発音は違うかもしれない。海外ブランドの日本語表記は難しい。

ではコレクションを見ていこう。

オテイザは2022AWコレクションをルック写真で発表するのだが、1枚目に登場したメンズルックに僕は瞬時に目が釘付けになった。男性モデルは、紺もしくは深く濃い緑に見えるケープを羽織り、クリーム×黒の細いボーダーのインナーを着て頭にフードを被っている。穿いていた白いパンツはスレンダーなシルエットで、パンツの裾を長靴的デザインの黄色いブーツに中に入れていた。

通常なら成人男性が着るとは思えないスタイルに、僕は「赤ずきんちゃん」という言葉がすぐさまによぎる。大人の男が着る服を見て、童話のタイトルを思い浮かべるなんて。これはいったいどういうことなんだ。本来なら一緒になることはない成人の男性とメルヘン世界が一つになり、違和感を立ち上げていた。

冒頭で僕は、オテイザはメルヘンをメンズウェアとして料理していると述べたが、実はオテイザからメルヘン要素を感じたメンズルックは、トップに登場したこの1体だけだった。しかし、トップに登場した1体がフックとなって、その後登場するルックにもメルヘンのイメージが引きずられていく。

オテイザの基本デザインは、ミニマリズム×フューチャリズムだ。色数を抑え、ベーシックカラーを多用し、シルエットはスレンダーで装飾要素は皆無に近い。2022AWコレクションで唯一と言っていい装飾が、アイテムの表面に用いられたライン使いである。かつてのヘルムート・ラング(Helmut Lang)を思い出すライン使いで、服に太幅のテープを貼るようにオレンジ色のコートにオフホワイトのテープを袖や肩へ配置し、フューチャリズムを演出する。

テープ使いのアイテムを何度か見ていくうちに、僕は1960年代に発表された「クレージュ(Courrèges)」を思い出した。メンズとウィメンズの違いはあるが、オテイザのフューチャリズムはラングよりも60年代のクレージュの方がずっと近い。シャープやクールと呼ばれる硬質で鋭いシルエットとは異なり、端正なシルエットで柔らかさと丸みが感じられ、オテイザの優しい輪郭が僕にクレージュのドレスを思い出させた。60年代のクレージュが見せていた丸く柔らかくクリーンなシルエットを、メンズウェアに転用する。そんな文脈の更新がオテイザには感じられる。

だが、それだけでは終わらない。オテイザのルックを見ていると、今度は中世ヨーロッパの貴族たちを思い浮かべてきた。スタイルは重心が高く感じられ、クリーンな美しさとセットになって上品なイメージを作り出している。近未来的に感じられるコレクションかと思いきや、歴史上の衣服も感じさせ、複数の文脈を少しずつ混ぜながらシンプルにデザインし、メルヘン世界が味付けとなっている。

オテイザは、メルヘン、ミニマリズム、フューチャリズム、中世ヨーロッパ、それぞれが薄く繋がり断片的にイメージが重なった不思議なメンズウェアだ。当初男性のためのメルヘンウェアと思われたコレクションは、背景に複雑な文脈を隠し持っていた。

一方で、オテイザは服そのものはリアリティがあり、実際に街で着ることもできる。ただ、リアルでシンプルな服だが、全身をオテイザでスタイリングして街を歩けば存在感が生まれるに違いない。もし僕が街中でオテイザを着た人と遭遇したら、きっとすぐに凝視するだろう。オテイザは、人間の記憶に甘い違和感を残して未来へと進む。

〈了〉

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