展示会レポート Stein 2022AW

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ここまでお送りしてきた2022AW展示会レポートだが、今回で一旦最終回となる。ラストを飾るのは、3月17日にランウェイ映像も発表された浅川喜一朗による「シュタイン(Stein)」。前回の「ヨーク(Yoke)」と同じく今日本国内で人気ブランドの一つに数えられる存在で、デザイナーの浅川自身がオーナーを務めるセレクトショップ「キャロル(Carol)」でシュタインの新アイテムが発売する日には、若者たちがオープン前から列を作るほどと聞き、その人気に驚く。

シュタインに注目したきっかけは、今から4年ほど前に読んだ「WWD JAPAN」の記事だった。浅川は原宿の古着屋「ナイチチ(Naichichi)」で経験を重ねた後、2016年にセレクトショップのキャロルをオープンし、同じく2016年にシュタインをパンツ3型から始めていく。ショップに自ら立ち、顧客に接客していきながら、ショップの営業時間外でシュタインのデザインをしているという内容の記事だった。

言葉にすると数行で終わってしまうが、ショップの営業をしながらブランド運営をするというのはかなりタフな日常だ。服への情熱が強く感じられ、僕はシュタインに強い興味を持っていく。

2月上旬、代々木上原の某所を訪れ、シュタインの展示会を体験する。到着早々、ショールームの方の案内でデザイナーの浅川と挨拶をした。事前にメディアに掲載された写真での印象はとてもクールそうだったが、もちろん展示会場という場や自らの店舗での接客経験の豊富さもあったと思うが、物腰柔らかく丁寧で、いわゆるファッションデザイナー像とは違う新鮮な印象を前回の「ヨーク(Yoke)」と同じく抱く。現在人気の若手ブランドのデザイナーたちは親しみやすい空気を持ち、これが新世代デザイナーの特徴なのだろうかとも感じた。

展示会場を訪れていると、次第に感じるようになったことがある。人気ブランドの展示会というのは、その場に熱がある。訪れているバイヤーやメディア、関係者から熱が滲み、会場に盛り上がりを感じるのだ。そしてシュタインの展示会場には、その熱があった。

かなりの型数がラックに並んでおり、2022AWシーズンはこれまでにない多い型数ということだった。早速、僕はラックに掛かった一点一点をじっくりと見ていく。黒がメインカラーとなってプリントや柄などの装飾はほとんどなく、シンプルにデザインされた服はクールだが、素材感に質の上質さが感じられ、生地に触れた指先が気持ちよさと優しさを覚え、服の印象とは対極の体験が手から伝わってきた。まるで古着を見て触っているような感覚、だけど、服のイメージはとてもクールという、イメージと触感の間にギャップが生じるデザインだった。

特に印象深いアイテムはニットで、ダークカラーがメインのシュタインだが、2022AWシーズンのニットはグリーン、イエロー、ミントと明るさや淡さを感じる色が使用され、コレクションに視覚的な柔らかさをもたらす役目を果たしていた。ニットの素材も他のアイテムと同様に触り心地が気持ちよく、シルエットは緩やかな量感を描き、個人的に欲しくなる完成度で、冬には一着は欲しくなるニットである。

デザイナーの浅川に2022AWコレクションについて聞く機会があった。今回のテーマは「対照的な視点」であり、「静かで強く、美しい表現」という常に彼が大切にしている部分をベースに、少しだけ対照的な視点を取り入れてコレクションを制作していた。

例えばボアとフラノという外観が異なる素材を用いてベストを作るなど、素材や色を対比的に用いてベーシックなウェアの中に細かな差異を生み出す。素材の多くをオリジナルで開発しており、浅川の話ぶりからも素材へのエネルギーを感じた。色と質感に秀でた素材を、身体を束縛しない柔らかなシルエットで仕立て、コレクション全体には冷たい強さが漂う。

対照的視点というテーマは、3月17日に公開されたショー映像からも感じられた。その体験は実際に服を見て触っていたから、得られた体験と言えるかもしれない。ショーは無観客で、打ち放しの無機質なコンクリート空間の中を、高い天井の下でモデルたちが歩いていく。映像に使われたBGMも、クールな雰囲気をより強調する曲調である。浅川が思うエレガンスを、突きに突き詰めて辿り着いた東京モードの到達点。それが2022AWコレクションのシュタインに感じられた。

映像からはそのように冷たい強さが感じられたが、僕が思い出すのは展示会で触れた上質で気持ちいい素材感だった。実際の体験と視覚から得られるイメージの体験に生じたギャップ、まさにコレクションテーマの対照的視点を感じる思いだった。

良い時間を過ごしてきたと思われる服が、今ニュアンスを新しくして再生された服。シュタインとは「新しい古着」。人間を冷たく緊張感を持って見せる服は手に取った瞬間、暖かく穏やかな空気で身体を包み込む。

Official Website:ssstein.com
Instagram:@ssstein_design

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