展示会レポート Yoke 2022AW

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今回の2022AW展示会レポートは、現在日本国内の若手ブランドの中で、人気ブランドの一つに数えられる寺田典夫による「ヨーク(Yoke)」をお送りする。ただし、展示会レポートと称したが、今回は3月14日に開催されたヨーク初のショーに関する内容が主になる。

1月下旬、今回のショーに先立って展示会が開催され、その際デザイナーの寺田と話す機会があり、とても印象深かった。寺田は海外有名ファッションスクールを卒業し、そのまま海外ブランドで経験を積む、あるいは国内大手コレクションブランドで経験を積んで独立といった道を歩いてきたわけではなく、主に他社ブランドの企画生産を行うOEM企業というファッション界の裏方と言える企業で、デザイナーや生産管理として腕を磨いてきた。

彼は強烈な野心を持っているわけではなかった。プロとして経験を重ねていくうちに、自然とブランドをやりたいと思うようになり、「今なら」と自身が思ったタイミングで無理のない規模感でヨークをスタートさせる。

展示会を訪れた時、最初に話したスタッフが寺田だったのだが、僕はその人物がデザイナーとは知らず(顔を事前に把握していなかった)、腰の低さ、話し方の丁寧さから勝手に営業スタッフだと思い込んでいた。後に、展示会の案内を頂いたショールームの方から、デザイナーと紹介されてとても驚く。いわゆるファッションデザイナー像とは全く違う、ナチュラルで穏やかな姿に新鮮な感覚を覚えた。

ヨーク初のショーで、僕は展示会でも実感したことを改めて実感する。いや、展示会以上に実感したと言っていいだろう。服のクオリティの確かさをだ。服の真の姿と魅力は、ラックに掛かった時ではなく人間が着用した時に現れる。まさにそれが現実となったショーだった。素材、縫製、パターンといった服を構成する要素の各々が高いレベルで作られて一体化し、遠目から見ていてもクオリティの高さを実感するほどだった。

ヨークの特徴の一つがディテールのアレンジだ。基本的にヨークは、ベーシックアイテムを基盤に素材とディテールの組み合わせで個性をデザインしている。渋いトーンのベージュ生地で仕立てられたステンカラーコートは、シルエットはスタンダードながら内袖や身頃の脇、ラグランスリーブと身頃を繋ぐ切り替え線から、まるで裏地の生地が覗くように落ち着いたオレンジ系の生地が現れている。

ニットも異なる2種類の編み地をドッキングさせたり、ボアコートのポケットの袋布を表側に大胆に見せたりと、アイテムのディテールを複雑に作り込む。ディテールのデザイン系統で言えば、阿部千登勢の「サカイ(Sacai)」に近いものを感じた。

もちろんヨークとサカイには違いがある。その一つが素材である。ヨークは毎シーズン、海外のアーティストをテーマにコレクションを制作し、アーティストの作品が持つ個性を主にオリジナル素材に投影することで、アーティストの世界観とヨークの世界観を繋げてコレクションを制作している。

2022AWコレクションのテーマは、クリフォード・スティル(Clyfford Still)だった。スティルはアメリカ出身で、主に第二次世界大戦後の数年間に新しい絵画の表現に開花した抽象表現主義者の第一人者となる。スティルの作品は、青、赤、茶といった色彩を一面に大胆な面積で塗りつけた画風であり、スティルの抽象絵画を見ると、色を味わい尽くすための絵画という感覚を覚える。ヨークの2022AWコレクションは、スティルの色彩を素材に反映させ、ベーシックアイテムたちが複雑なディテールと素材の色彩の大胆さでモデルたちの存在感を際立たせていた。

しかし、僕が最も強く感じたヨーク最大の特徴はシルエットだった。特別デザイン性の強いシルエットではない。ボリューム感はあるが、至ってシンプルである。だが、モデルたちが着るヨークの服を見ていると、僕の頭の中に「布が立っている」という言葉が浮かんできた。

布が身体から立つように、非常に立体感を感じるシルエットだったのだ。この特徴は、ラックに掛かっていた状態の服を見た展示会では、僕には気づくことができなかった。ヨークはシルエットのデザインだけで、服に個性を生み出せている。仮に、今コレクションのように大胆な色彩や加工の素材を用いなくとも、無地の素材をヨークのシルエットで仕立てたコートを着て街を歩く人を見かけたら、僕はその姿にきっと目が止まってしまう。ヨークはシルエットに大胆さや迫力を用いなくとも、デザインに魅力を作ることはできると僕らに証明する。

ショーの演出も非常に興味深かった。アーティストをテーマにコレクションを制作してきたこれまでの背景から、初のショーとなった今回は会場をギャラリーに見立て白い壁を配列し、その壁に寺田と縁の深いフォトグラファー、作家の作品を展示することで、モデルたちがギャラリーを鑑賞する演出を行なっていた。

通常のショーでは、モデルは登場すると一定のリズムでランウェイを歩き、出口へと向かっていく。だが、今回のショーに出演したモデルたちは、本当にギャラリーで作品を鑑賞するようにそれぞれ違ったリズムで歩いていた。あるモデルは壁の前に立ち止まり作品を鑑賞し、それから次の作品へ移って再び鑑賞を始める。あるモデルはソファに座って壁に掛けられた作品を眺め、あるモデルは引き返してきて、もう一度作品をじっくりと眺めていた。中には、作品に手を触れようとしてスタッフに注意されるモデルもいた(もちろん演出として)。また、全く作品を見ることなく歩き去っていくモデルもいた。

とてもシンプルな演出だが、通常のショーとは異なるモデルたちのウォーキングが、僕にショーの常識を揺らす面白い感覚を与えてくれた。いいショーだった。そう述べることが最も似合うコレクションが発表されたと言える。

現在、海外のショップにも卸しているヨークだが、これから本格的に海外進出がスタートしていく。そう考えた時、一つヨークの課題になるのではないかという点が浮かび上がってきた。服の良さだけでは評価されない厳しさがモード、とりわけ海外モードにはある。そこで求められるのはファッションの文脈から見た時に、コレクションに独自性があるか否かである。

アーティストをテーマにするというアプローチは、海外のデザイナーにも散見される手法であり、独自性は薄い。だが、もしテーマに設定するアーティストに独自の選択が見られるなら、ヨークの個性がさらに強まるのではないか。他のブランドがテーマにしてこなかったアーティスト、寺田ならではの視点で選んだアーティスト、特に他のブランドがテーマにしていない日本国内でのアーティストを選んだら、よりヨークの個性が強くなりそうだ。

どの国の出身かでデザイナーを語るべきではないと思う。しかしながら、海外モードで評価を得る日本ブランドの特徴を見ると、いずれも日本文化をコレクションから強く感じさせるデザインが多い。日本を拠点に活動する日本人デザイナーならば、そのデザイナーならではの日本文化を、ファッションデザインに投影させた個性が世界レベルでは求められる。

ヨークはレベルの高い服を作る技量を既に証明した。コレクションがファッションの文脈上に、世界レベルの独自性あふれる価値を築けた時、きっと飛躍が待っている。ブランド名には「繋ぐ」という意味がある。日本と世界を繋ぎ、唯一無二の存在感を示すため、寺田典夫の挑戦が今始まる。

Official Website:yoketokyo.com
Instagram:@yoke_tokyo

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