チープでサイケデリックに変わるメリル・ロッゲ

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AFFECTUS No.322

2020AWシーズンのデビュー時からNYタイムズ「T Magazine」で特集記事が組まれ、新人としては異例の注目度を浴びてスタートしたメリル・ロッゲ(Meryll Rogge)。AFFECTUSでも2020年6月9日公開「上品な下品というファッション」にて取り上げたが、デビューから約2年経過し、彼女の現在地を知るために再び今回取り上げることにした。

ロッゲは2008年にアントワープ王立芸術アカデミーを卒業後、ニューヨークの「マーク・ジェイコブス(Mark Jacobs)」で経験を積み、その後ベルギーに戻って「ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)」でウィメンズヘッドデザイナーを務めた後、自らのブランドをスタートさせた。

デビューコレクションに対する感想は、前回公開のタイトル「上品な下品というファッション」が表している。猥雑でけばけばしい色使いが光沢ある素材と一体化することで、鮮やかではあるが上品ではないという特殊な雰囲気を生み出していた。ただし、スタイルから醜さを感じることはなく、牧歌的かつスマートなエレガンスのスタイルだったと言え、相反する要素がコレクションの中に表現され、上品で下品という言葉が浮かび上がった。

では、デビューから3シーズン目を迎えた現在のロッゲは、どのような進化を果たしているのだろうか。今年3月に発表された最新2022AWコレクションを見ていきたい。

まず、全ルックを見た感想から述べたいと思う。デビュー時で印象深かった猥雑で下品な雰囲気がほとんど消え、全体的にまろやか印象のコレクションに仕上がっていた。ただし、下品さの代わりに登場した違和感がある。それがサイケデリックな柄や色だった。それでは、ルックから感じたことに触れていこう。

2022AWコレクションは、デビューコレクションと同じAWコレクションだったが、デビュー時よりもカジュアルな印象を抱いた。2020AWコレクションでは、登場回数は少ないがテーラードコートやジャケットの印象が強く、各アイテムのフォルムは比較的フラットというか、パターンが作り込まれた系統の造形デザインは見られなかった。

今回の2022AWコレクションでは造形的にはシンプルな点は同じだが、コートよりもニットやデニム、シャツの印象が強く、ドレスが数多く発表されているのだが、そのデザインはドレスと称するよりもワンピースと称した方がふさわしいカジュアルデザインである。まるで古着屋で見つけた1970年代のワンピースのような、レトロなデザインが多い。

色数の多さには変わりはないし、色の明るさ自体も同様だ。ロッゲの色使いにダークさは皆無と言っていいだろう。だが、本当の意味では明るく鮮やかな色使いではない。イエロー、ブルー、ピンクが多用されるが、いずれの色も褪せた色味で、やはりここでも古着的なイメージを抱く。明るいはずの色の明るさを減退させる手法は、デビューコレクションと同じだが、当時と今回では趣が少々異なる。

デビューコレクションが先ほど述べた通り、下品さを感じさせる色の雰囲気だったが、同じく明るさの魅力を衰えさせた色であっても、今回の2022AWコレクションでは安っぽさに振れたと言った方がいいだろう。チープなファッションの素材に使われた色と呼べばいいだろうか。今コレクションでは、チープな色がカジュアルさをより強める効果を発揮している。

シルエットは全体的に緩く、身体をオーバーサイズで包む。ニットには穴あきディテールも見られ、古着感がますます強くなる。

そして2022AWコレクション最大の特徴は、サイケデリックなプリントだ。1960年代に流行したファッションが、ロッゲの手によって吸収されている。原色や蛍光色を配した抽象柄をプリントした素材が、ミニワンピース、シャツ、パンツに使用され、コレクション全体に漂うレトロな香りを強く濃くする。

2022AWコレクションのロッゲは、プリントデザインにチープやキッチュという感覚を覚え、スタイルそのものもスポーツ&カジュアルで、師であるドリスのクラシックエレガンスとは逆方向に振れていることが面白い。どちらかと言えば、ロッゲの志向はもう一人の師であるマーク・ジェイコブスに近い。現在のマーク・ジェイコブスは「ニューヨークのコム デ ギャルソン」と呼びたくなるアヴァンギャルドなコレクションを発表するシーズンが多く、1960年代から70年代のファッションを、オーバーサイズとレトロなカラーで表現したカジュアルウェアを発表した現在のロッゲと同じ匂いを感じる。

デビューからそこまで年数が経っていないため、極端な変化は見られなかったが、デビューコレクションに見られた下品さという違和感が、今回の2022AWコレクションではチープ、キッチュ、サイケデリックという方向へ表現を変えていた。ロッゲは、ラグジュアリーとは対極のファッション感を持っているように思う。高級感や上質感を感じない服にも、人々の心に響くエレガンスがある。路上からハイファッションの文脈へ挑む。それが、メリル・ロッゲというデザイナーだろう。大きな注目の下にデビューした新しい才能は、堅実に成長しているようだ。

〈了〉

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