トッド・スナイダーはアメトラに色気を混ぜる

AFFECTUS No.324

今ニューヨークには、注目すべき面白い才能が存在する。コレクションの迫力では、パリやロンドンには及ばないが、都市空間で映えるリアリティとデザインのバランスが秀逸で、「凄さ」で圧倒されることは少ないが、「上手さ」で唸らされるクオリティのコレクションがニューヨークでは見ることができる。

「3.1 フィリップ・リム(3.1 Phillip Lim)」が毎シーズン披露するシティウェアは溜息を誘うレベルの高さで、「プロエンザ・スクーラー(Proenza Schouler)」のモードスタイルは円熟の境地に達し、若い世代には今や世界から注目を浴びる「ピーター・ドゥ(Peter Do)」、僕が注目している「アシュリン(Ashylyn)」などが存在感を発揮している。

このようにニューヨークには注目すべき才能が現れているが、今あげたブランドたちのデザインは、モダンという表現が似合うクールなスタイルが持ち味となっており、それはニューヨークを代表するファッションスタイルである。だが、ニューヨークにはもう一つの誇るべきスタイルがある。それは「ラルフ ローレン(Ralph Lauren)」に代表されるクラシックなアメリカスタイルだ。日本ではアメリカントラッドと称した方が馴染み深いだろう。いや、「アメトラ」と言った方がより馴染むかもしれない。

トム・ブラウン(Thom Browne)は、アメトラをアヴァンギャルド化する特殊な立場にいる奇才だが、トム・ブラウンとは逆のアプローチでアメトラの更新を行っているブランドとして、今回は「トッド・スナイダー(Todd Snyder)」に焦点を当てたい。スナイダーはアメトラの伝統からは逸脱せず、伝統に測りながら現実的なデザインでアメトラを更新する。

チェック柄のシャツやコート、コーデュロイやデニム、チルデンニット、アーガイルニットなどアメトラに欠かせない色、素材、アイテムを、スナイダーは自分の世界観で塗り替える。スナイダーのアメトラに見られる特徴は色気だ。ニューヨークのブランドでありながら、スナイダーのコレクションにはミラノブランドのような濃厚な色気がモデルたちの姿から漂う。しかし、濃厚ではあるがミラノブランドよりも爽やかな色気だと付け加えたい。

今年3月に発表された2022AWコレクションから、印象的なルックを取り上げよう。

白いシャツ×ニット×ジーンズというアメトラ王道のスタイルにも、スナイダーの個性が表れていた。白いシャツは裾をタックインせずパンツの外へラフに垂らし、クルーネックニットは深みのあるグリーンの生地が目を惹き、ブルージーンズに古臭さは微塵もなく、とても上品な色味の青いデニム生地がモデルの脚を優雅に覆っている。

シャツの裾を出す着こなしはラフだが、ジーンズの裾はロールアップされて生真面目に感じられる。全体のシルエットはゆったりとした量感で作られているが、ストリートウェアのようにルーズな雰囲気とは無縁な品の良さがある。無造作と上品が入り混じったスタイルが、スナイダーのアメトラだと言えよう。

2022AWコレクションで、スナイダーのアメトラに品の良さを生んでいるのは、何度も登場するブルーだ。主にニットとジーンズに使用されているブルーは淡く甘く生地を染め、その他の色たちと見事な調和を見せている。

僕が惹かれた色の組み合わせは、またも白いシャツ×ニット×ジーンズというアメトラ王道のスタイルに見られた。シャツは白い生地を、ベージュのニットの襟元、裾口、袖口から覗かせ、ニットの裾から垂れ下がる白いシャツの裾は、ジーンズの甘美なブルーの上で上品に佇む。

コレクション全体から滲むセクシーは、カジュアルなデイリーウェアであるはずなのに、まるでナイトウェアのような色気を漂わせている。または、こんなふうにも感じられてきた。

「名門大学に通う良家の学生が、トラッドウェアをオーバサイズで着用している」。

ミラノブランドのように肌を大胆に見せる手法は使わず、色の組み合わせ、シルエットのゆるさ、だらしなさと生真面目さが入れ替わる着こなしを駆使し、王道のカジュアルウェアでこんなにもセクシーに見せることができるアメリカのデザイナーは、スナイダーとトミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)の二人だろう。両者に違いがあるとすれば、それはミラノブランドとスナイダーの間に見られた違いと同じだ。

現在のヒルフィガーが見せる色気は、スナイダーよりもミラノに近く、またスナイダーよりもスタイルがカジュアルで、スナイダーのようにクラシカルな匂いを強く感じることはない。ヒルフィガーのコレクションを見る限り、ヒルフィガーはスナイダーより若い世代をターゲットにしていると思われる。

アメリカ伝統のアメトラファッションの文脈に乗り、ラルフ ローレンよりも若く、トム・ブラウンより現実的で、そしてトミー・ヒルフィガーよりも爽やかな色気を見せる。伝統に新しさは必要で、新しさで更新され続けきたからこそ、伝統のファッションは現在も生き残っている。更新がまったく行われないファッションは、置き去りにされてしまう。トッド・スナイダーは伝統の最前線で、ライバルたちと競う。

〈了〉

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