イフアニ・オクワディはイエール発のニュースターとなるか 2

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AFFECTUS No.335

昨年10月に開催された第36回「イエール国際フェスティバル(International Festival of Fashion, Photography and Fashion Accessories in Hyères)で、グランプリを獲得したイフアニ・オクワディ(Ifeanyi Okwuadi)。前編となる前回は、彼のこれまでの歩みとイエールで発表されたコレクションのテーマについて触れた。後編となる今回は、イエールでグランプリを獲得したオクワディのコレクションをモード文脈の観点から見て、加えて「グッチ(Gucci)」のアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)、「エス エス デイリー(S.S.Daley)のコレクションとも対比させながら、オクワイディのデザインが持つ特徴を明らかにしていきたいと思う。

オクワイディのデザインで最も大きな特徴は、少年的ファッションだという点である。イエールの最終審査で発表された7ルックのモデル全員がショートパンツを穿いていて、ショートパンツは「半ズボン」と称した方がこのコレクションの印象により近づく。子供が着るファッションを成長した若者が着ている。そんなイメージなのだ。このデザインは、数は少ないながらもここ数シーズンのメンズシーンに見かける傾向で、前回述べた通りエス エス デイリーも全く同じタイプのデザインを披露している。

今は大人と呼ばれる年齢に成長した男性だが、子供のころに着ていた服が好きで、それを今でも変わらず愛していて着たいと思っている。大人の男性のための子供服のエッセンスを汲んだメンズウェア。そこに少し中世ヨーロッパ的な空気も感じられ、コレクションの根底には無垢な空気が流れる独特なメンズウェア。それがエス エス デイリーである。

また、ミケーレにも同様のファッションが見てとれる。僕がミケーレから子供服テイストを初めて感じたのは、2018Pre Fallウィメンズコレクションだった。子供は無邪気で自分の好きをめいいっぱい反映させる傾向がある。好きに妥協がない。このシーズンのグッチは「大人になったら、こんな服着たい!」と思っていた子供が、成人となってその希望を叶えたようなデザインだった。だから子供の描いた絵みたいに奇妙なバランスがあちこちに見られ、それが楽しさにもつながっている。

エス エス デイリーとミケーレと同様に、オクワディも子供のファッションを大人の男性が着るスタイルだが、両者よりもクラシックテイストが強い仕上がりになっている。オクワイディは黒をメインカラーに使用し、ルックのほとんどがトップスもボトムも黒で埋め尽くされている。素材はスーツに使用されそうな上品さを備え、それらの素材を用いてアイテムはダブルブレステッドコート、M-65、ショート丈のステンカラーコートなどメンズウェアの王道が作られていた。

足元にはストラップを用いた黒い靴を履いているのだが、それはモンクストラップというよりも黒い革を使った上履きのように見えてしまう。そのシック&カジュアルなシューズに、ふくらはぎの真ん中を少し超えたあたりの丈のソックスを合わせ、色は濃いパープル・ベージュ・濃いブラウンなどが使われ、ソックスもシックな雰囲気とスクールテイストが混合している。

ストラップ型の黒いシューズにソックスを合わせ、黒い半ズボンに白いシャツを着てアウターに黒い生地のブルゾンやコートを羽織る。どうだろう、もしこんな子供がいたら、かなり大人びたファッションではないだろうか。クラシックなキッズファッションを、20代と思われる男性に合わせてサイズが調整された服。簡潔に言えば、それがオクワディのデザインである。

ジェンダーレスが浸透して数年が経過するが、その後現れ出したのが時代を曖昧化するスタイルで、エイジレスでも呼べばいいだろうか。決して多く出現しているわけではないので、言及されるケースはあまり見かけないのだが、近年のモード文脈の観点から見ると新しい傾向になっている。エス エス デイリーやミケーレはエイジレスの特徴が、は子供らしい幼さやかわいさを不可思議さが強いデザインで具体化されている。一方オクワディは幼さがほとんど消えたクラシックなキッズファッションを大人が着ているという点が、幼さが先立つエス エス デイリーとはミケーレとは違う独自の価値を文脈上に創り出し、さらには前回述べた社会性もコレクションテーマに結びつけ、さらに独自性を強めている。

以上がオクワディのメンズコレクションになる。

デザイン的に見ると面白い特徴を持っていたことが判明した。この独自性がイエールでグランプリを獲得するほどの存在感を、コレクションにもたらしていたのではないだろうか。ただ、当時のオクワイディのコレクションをプロのマーケットに並べて見た時、インパクトがまだ弱く、この大人のためのキッズファッションにニーズがどれほどあるかという点が気になってくる。このデザインがトレンドの主流にならない背景には、ニーズの小ささがあるような気もする。デザイン的に面白くても実需ではそこまでは響かない。そんなケースは珍しくない。

イエールでグランプリを獲得したデザイナーは、遅かれ早かれ自身のブランドで本格的デビューを果たすの通例である。過去に倣うならば、おそらくオクワディはこれから本格的にブランドデビューすると思われるが、どこかのブランドに入ってさらにキャリアを積んでから数年後に本格デビューという可能性もある。どの道を選んだとしても、イエールで証明されたセンスを磨き、驚きと、時には困惑すらも感じさせるほどの創造性を発揮するデザイナーへと成長していって欲しい。ファッション界にはいつだってニュースターが必要なのだ。

〈了〉

参考資料
VOGUE “The Hyères Winners Are In—British Designer Ifeanyi Okwuadi Takes the Top Fashion Prize”

FASHIONUNITED “British designer Ifeanyi Okwuadi wins top prize at Hyères Fashion Festival”

WWD “British Designer Ifeanyi Okwuadi Wins Top Prize at Hyères Fashion Festival”

装苑「第36回イエール国際フェスティバル、受賞者決定!」

WWD JAPAN「『第36回イエール賞』グランプリはアフリカにルーツを持つ27歳 平和活動が着想源」

fuguja.com 「グリーンハムコモンウィメンズピースキャンプ」

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