リュウノスケオカザキの異相なドレス

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AFFECTUS No.337

2022年3月に発表された「LVMH PRIZE 2022」ファイナリストの中に、一人の日本人デザイナーがリストアップされた。岡﨑龍之祐その人である。彼のブランド「リュウノスケオカザキ(RYUNOSUKEOKAZAKI)」が本格的デビューを迎えたのは2022SSシーズンであり、僅かな期間で世界最高峰舞台に立ったことになる。ブランドコンセプトの「人間と自然の境界線に衣服がある」からデザインされるコレクションは、驚異的な造形の印象深いドレスをいくつも発表している。

今回はデザイナー岡崎龍之祐の経歴やコレクションテーマなどには触れず、純粋にコレクションのデザインのみを見て、何を感じるかを書いてみたい。最近のAFFECTUSではデザイナーの歩みに触れることが増えていたが、そうすることでブランドの世界に入りやすくしようと考えていたのだが、今回はやめることにした。モードファッションのデザイン文脈から見て、そのコレクションにどのような価値があるのかを自分の視点で見出すという、AFFECTUSの原点に立ち返って進めていきたい。

それでは始めていこう。

今回、リュウノスケオカザキを解読するにあたって対象にしたコレクションは、ショー形式によって発表された2022SSコレクションと2022AWコレクションの二つである。この二つのコレクションから捉えたデザインの特徴をまとめて述べていこう。

リュウノスケオカザキ最大の特徴、それはアヴァンギャルドな造形だ。コレクションを見れば、そのことは瞬時に実感してもらえるだろう。ベーシックウェア、リアルクローズといった言葉とは無縁のドレスがコレクションの主役だ。日常生活で着るための服ではなく、舞台衣装やレッドカーペットなど、ある特別な場面で限られた時間のみに着る特別な服、それがリュウノスケオカザキであり、同じ日本人デザイナーで言えば近年では小泉智貴による「トモコイズミ(Tomo Koizumi)」が同じカテゴリーになる。

アヴァンギャルドな造形は強烈なインパクトを放つ。では、巨大で大胆な造形の服を作れば注目を集め、評価を得られるのだろうか。いや、決してそうではないはずだ。デザインに何かしらの特殊な価値があるからこそ、アヴァンギャルド造形に個性が生まれるに違いない。

リュウノスケオカザキの2022SSコレクションのショーを映像で観ていると、まず一つの特徴に気づく。ドレスを見てすぐさま浮かんできたイメージは「魚の骨」だった。ドレスのベースになっているシルエットは、上半身から地面にむかってボリュームが大きく増して広がっていくクラシカルのラインが多く、オートクチュールのコレクションで頻繁に見られる古典的なシルエットだ。そのシルエットに、ボーン状の曲線が畝りながら形を成して巨大化し、あるいは無数のラッフルが重なり合うことで、クラシカルなイメージと同時にアヴァンギャルドがイメージも迫るドレスが完成している。

ただし、オートクチュールのドレスはロマンティックでエレガンスという表現が似合うが、リュウノスケオカザキには逆の印象を抱く。コレクションは自然のイメージを感じるが、僕らが知る自然世界の美しさにフォーカスしているのではなく、植物の蔦、木の根や枝、魚の骨など、美しさという観点ではあまり注目されない自然の姿に注目しているデザインが見られる。普段人々が注目しない隠れた自然の世界、だけど根や骨は自然が生命を維持する上で重要な要素であり、その隠れた自然にフォーカスするからこそ、自然の生が強調されて生々しさが伝わってくる感覚だ。

色使いも「鮮やか」「華やか」という表現とは遠く離れた、暗い色が多用されている。黒、グレー、白、赤、緑、青、ピンクと、色の名前だけを見れば明るさを感じる色もあるのだが、コレクションに使われる色は沈んだトーンで暗く妖しい。ダークなイメージで明るい色を見せる色使いが、余計に自然の生々しさを強く感じさせる。

先ほど述べたが、ラッフルが無数に重なり合ったドレスも多く発表されていて、一見すると花びらが重なりあって自然の美しさがデザインされたドレスに見える。ただし、それは造形のみに注目した時に限る。ラッフルシルエットに、暗く妖しいピンクや青のダークトーンの色が使われることで、やはりドレスはエレガンスやロマンティックとは逆の感覚のデザインへ着地している。

また、色に関して言えば緑や青はスポーツのトレーニングウェアのような蛍光色のイメージも抱き、ボーンが畝って曲線を描く造形と一体化することでSF世界のイメージも立ち上がってきた。

モード文脈でドレスと言えば、「クリスチャン・ディオール(Christian Dior)」のようなクラシカルな甘さが王道だと言え、トモコイズミはその文脈上に位置するだろう。だが、リュウノスケオカザキはベースのシルエットは王道のエレガンスに位置しながら、シルエットを飾り立てる要素が華やかな美とは逆の暗い美しさを表し、自然という雄大な美しさを表現するモチーフを、逆のイメージへと転換している。そこにSFテイストも微かに紛れ込み、王道に乗りながら王道から外れるコレクションが完成していた。

このデザインアプローチが、リュウノスケオカザキのアヴァンギャルド造形に価値を生み出し、じっくりと観察していくと独自のデザイン性があることが判明してきた。

ここで僕が書いていることは、コレクションを見て感じたままに語っていることであり、リュウノスケオカザキの実際のテーマやコンセプトとは違う側面があるかもしれないが、モード文脈から見たコレクション解読という視点で読んでもらえたらと思う。

AFFECTUSは、リュウノスケオカザキやトモコイズミのような、アヴァンギャルド造形のドレスが主役のブランドはほとんど取り上げていない。なるだけ多くのデザインを取り上げようと思いつつも、そこは人間であるために僕の趣味趣向が反映されてしまう。

だが、おそらく初めてになるだろうが、今回は強烈なドレスデザインのブランドを観察して書くことで、僕の中にこれまでとは違うのファッションの見方が立ち上がったように感じる。今後は再びアヴァンギャルドなドレスブランドを書いてみたくもなった(数は少ないだろうが……)。

大胆で迫力があるから注目され、評価されるのではなく、そこに特殊な価値があるからこそ注目され、評価される。それがはっきりと言語化されていなくとも、特殊な価値を持つコレクションは無意識に人々の意識へ響くのではないだろうか。新しいファッションの見方を、僕に教えてくれたリュウノスケオカザキだった。

〈了〉

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