パペッツ アンド パペッツと着せ替え人形

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AFFECTUS No.339

コレクションシーンを観察していて、面白さを感じるブランドが最も多く登場するのはパリだ。ロンドンからも多彩な才能が次々に登場するが、パリにデビューするブランドの方がコレクションの完成度は高いと感じる(だが、ロンドンは荒々しさが魅力でもある)。そして、僕が今注目するのはニューヨークだ。注目ブランドがニューヨークから出現する回数が増えていることは以前も述べたが、2022AWシーズンでまた新たに面白いニューヨークブランドと遭遇した。

そのブランドの名は「パペッツ アンド パペッツ(Puppets and Puppets)」。このちょっと不思議な名前のブランドは、デザイナーのカーリー・マーク(Carly Mark)が2019AWシーズンにスタートさせた新進ブランドだ。パペッツ アンド パペッツが日本メディアで取り上げられているか確認したところ、僕の調べた範囲では見つけることができず、海外メディアでは主にコレクションを紹介する形で「ヴォーグ(Vogue)」や「WWD」で取り上げられているぐらいで、まだ情報が非常に少ないブランドだと言える。

しかし、ブランドの背景がわからずとも、コレクションがあればブランドの特徴を見出すことはできる。まずは僕が興味を抱いた2022AWコレクションに触れていこう。

「人間であるはずのモデルが歩いてるのに、まるで着せ替え人形のような違和感」。

すべてのルックを見終えて感じたことがそれだった。

幼い女の子が自分の好きな人形に着せている服を、大人の女性用にサイズを拡大したような服がランウェイに登場していた。ただ、フェミニンやガーリーという表現は似合わず、どちらかと言えばクラシックやクールと言った方がしっくりくるデザインだ。

なぜモデルたちが人形のように感じたのか。それは奇妙なバランスが理由だろう。

パペッツ アンド パペッツの服は基本的にはシンプルで、ジャケット、ニット、パンツ、ワンピースといったベーシックアイテムがスリムシルエットで作られている。色は黒、茶、濃い紫、明るめの紺、渋い青などダークトーンが中心で、ビビッドやペールトーンの色は使われておらず、鮮やかさや甘さは皆無だ。そのような色使いのため、コレクション全体から先ほど述べたクラシックやクールを感じたのだろう。

このように基本的にアヴァンギャルドは感じられないパペッツ アンド パペッツだが、シンプルな形の中に唐突なデザインが入り込む。

ショーで7番目に登場したスーツが奇妙だ。シンプルな形のジャケットだが、2種類の素材で切り替えられている。一つは紫系のチェック柄(シンプルなブロックチェック)素材で、もう一つは黒いツイード調の素材なのだが、切り替え方が少々変わっている。切り替えというよりも、まるでチェック柄素材で作ったジャケットの上から、子供が無邪気に鋏で切ったツイード調素材を貼り付けたようなのだ。

奇妙な点はパンツにもある。スーツなのでジャケットと合わしてパンツもチェック柄だが、よく見ると柄の色がジャケットと同じ紫系ではなく、ミントに近い色と茶系の色によるチェック柄で、チェックのパターンもジャケットとは異なる(グレンチェックだろうか?)。ただ、パンツもジャケットと同様に異素材が貼り付けられていて、こちらはジャケットと同様の黒いツィード調素材だった。通常ならジャケットとパンツは同じ素材でツイード調素材の貼り付けを行うのがよく見られるデザインアプローチである。しかし、パペッツ アンド パペッツは王道のルールには乗らず微妙にバランスを崩す。

パペッツ アンド パペッツの奇妙さは、素材や色の組み合わせ方だけではない。素材がスーツと同じシンプルな紫系ブロックチェックのミニワンピースは、袖が別素材で切り替えられている。袖の素材は、外観からするに太番手のウールを用いた無地素材に見える。そして、このミニドレスもスーツと同じ不可思議なバランスが入り込む。身頃と袖のシルエットの組み合わせ方がおかしいのだ。

ミニドレスのシルエットはウェストがシェイプされ、とてもスレンダーなシルエットで、レングスも膝上30cm近くはあろうかというぐらいにかなりのミニレングス。だが、袖は太幅に作られ、まるで筋肉質な男性人形の腕を華奢な女性人形に取り付けたような奇妙さだ。

他にも、胸のブラが見えるほど極端に着丈が短くカットされた黒いシャツ(逆に袖丈は地面に届きそうなほどに長い)、左右の大腿部側面が丸くカットされたミニディアムレングスのワンピースなど、ベーシックアイテムがシュールにデザインされている。

だが、そのような奇妙さはあるのだが、スレンダーシルエットを基本にしたアイテムはダークな色がクールで、それはニューヨークモードの伝統スタイルを思い浮かべる。非現実と現実が混じり込んだ不思議なバランスを見ていると「カイダン エディションズ(Kwaidan Editions)」が思い出されてきた。カイダン エディションズはマニッシュなイメージもあるが、パペッツ アンド パペッツはウィメンズウェアの側面がかなり強く、ドレッシーな印象も抱く。とは言っても、スタイルそのものはカジュアルで、イメージはドレッシーという変わり種なのだ。

ドアを開けて自宅に帰ったと思ったら、廊下は歪み、天井も波打っている。見慣れているはずの家がおかしなことになっている。そんなふうに、パペッツ アンド パペッツは現実世界の見え方を超越させる。

ニューヨークモードに出現した着せ替え人形は、どんな服を次のシーズンでは着るのだろうか。

〈了〉

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