AFFECTUS No.340
6月2日、本年度の「LVMH PRIZE」グランプリが発表された。今年は誰が受賞するかと発表を楽しみにしていたが、2022年はロンドンを拠点にするブランド「S.S. デイリー(S.S. Daley)」のデザイナー、現在25歳のスティーヴン・ストーキー・デイリー(Steven Stokey Daley)が頂点に立った。
No.278「エス・エス・デイリーで子供の服を着る」では2022SSコレクションを取り上げたが、今回は今年2月に発表された最新2022AWコレクションを観察し、前回と今回でデイリーのデザインに変化はあるのか、また変化があるとしたら、それはどんな変化なのかを調べていきたいと思う。
昨年発表された2022SSコレクションで、デイリーから最も強く受けたイメージは以下のものだった。
「今は大人と呼ばれる年齢に成長したけど、子供の頃に着ていた服が好きで、それを今でも着たいと思っている男性が、デザインはそのままにサイズを大人の自分用に仕立てられた子供服を、中世ヨーロッパの香りをほんのりと混ぜながら着ている」。
文面だけ見れば風変わりなスタイルだが、まさにこのイメージがデイリーの大きな特徴で、コレクションに独自の価値をもたらしていた最大の要因だった。
しかし、最新2022AWコレクションを初めて見た時、僕は前回と違うイメージを受けた。昨年の2022SSコレクションで感じたクラシックと中世ヨーロッパの香りは回も残っていたが、僕がデイリーの核だと思った子供服の要素に変化が見られた。コレクションを通して繊細なムードはある。だが、それは子供服のイメージではなく、大人の人間が内面に持つ無垢さと称した方がしっくりくる。
ルックを見ている最中から僕の頭の中には「成熟」という言葉が浮かぶ。2022AWコレクションは大人になった男性が着用する、無垢でクラシックな服だった。素材にストライプとチェック柄が数多く登場する構成がメンズウェアの伝統を強め、緩やかなオーバーサイズシルエットは、ストリートウェア的ルーズさは感じられず中年紳士が高級コートを着ているような渋い上品さがある。
このようにクラシックが軸となったコレクションに、大胆なプリントが加わることで無垢なイメージが誕生する。
印象的なルックは15番目に登場するシャツルックだ。爽やかなブルーストライプのシャツはモデルの身体をゆったりと覆い、白いタックパンツの中に裾を入れた真面目な着こなしだが、フロントボタンを第3ボタンぐらいまで外し、胸元を見せる面積を少し広げて正統派スタイルに爽やかな色気を匂わす。
ブルーストライプのシャツには、黄色い花がランダムかつダイナミックにプリントされ、幻想的かつ繊細な雰囲気が生まれている。植物プリントを大胆に使う手法は「ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)」を思わすが、ドリスが重厚だとすればデイリーは涼しげで軽やかだ。25番目のルックにもプリントシャツが発表され、このフラワープリントのシャツが登場する回数は2回と少ないが、デイリーの2022AWコレクションの中で最も僕の購入意欲が刺激されたベストアイテムだった。
実際にこのシャツを着て街を歩けばかなり目立つだろう。しかし、素材とシルエットにこだわるシンプルウェアに少々飽きてきた僕には、デイリーが表現したモードに一瞬にして心を奪われる。さらに好印象だったのが、モード性をシンプルに表現していた点だ。刺激あるデザインが着たい。だけどアヴァンギャルドが着たいわけではない。着たいのはあくまでシンプルな服。この僕のわがままなニーズに当てはまるプリントシャツに、心を動かされない方が無理だった。
また17番目のルックでは鳥を柄に使ったカーディガンも登場し、ラストルックとなった25番目のルックにも鳥をモチーフにした柄が現れる。ダブルブレステッドで仕立てられた薄いグリーンのオーバーサイズコートに、ビッグサイズにプリントされた鳥がコート一面に施され、コートはショーの最後を飾るにふさわしい逸品だった。
クラシックなメンズウェアに、動物と植物、中世ヨーロッパ的香りを混ぜて、無垢なイメージも併せ持つコレクションがデイリーの2022AWコレクションである。
プリントシャツに購買意欲が刺激されたように、デイリーの2022AWコレクションに面白い特徴があったのは確かだが、デザインの文脈で見てみると、より際立った価値があると感じたのはむしろ前回の2022SSコレクションだった。今回の2022AWコレクションも前回の文脈を引き継いでいる側面はあり、人によってはデザインに変化はないと感じるかもしれない。だが、それでもやはり僕は、今回の2022AWコレクションは以前よりも成熟度が増していると思う。
人間が成長するように、コレクションも時間を経て年齢を重ねたようだった。
昨年初めてデイリーを見た時、「こんなメンズファッションがあるのか」と驚きを覚えたが、2022AWシーズンは子供服の要素が弱まり、大人の世界に振れたデイリー。デザイナーに変化は必須だ。たとえシンプルな服であってもそうだ。変わっていないように見えて変えている。そうデザインすることで、人々に支持される。2023SSシーズンではどんな変化を見せるだろうか。僕は些細な変化を楽しみたい。ダイナミズムだけがファッションの面白さではないから。
〈了〉