変態性に惹きつけられるロルフ・エクロス

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AFFECTUS No.343

あなたは「フィンランド」と聞いた時、この国からどんなファッションブランドを思い浮かべるだろうか。おそらく多くの方は「マリメッコ(Marimekko)」を思い出すのではないか。鮮やかな色彩を色数絞って大胆な大柄プリントを施したテキスタイルは、とてもかわいらしいものだが、甘さとは距離を置いた辛さも感じる。

あるいはモードファンの方なら「アールト(Aalto)」の名をあげるかもしれない。アールトをすぐに思い出す方はかなりのモード通だ。ブランドの拠点はパリだが、デザイナーのトーマス・メリコスキ(Tuomas Merikoski)はフィンランド出身で、2016年には「LVMH Prize」でファイナリストにも選出されている。

しかし、フィンランドからファッションブランドを連想することは稀だろう。正直、僕はもうこれ以上のブランド名が出てこない。それほどフィンランドに対してファッションで注目したことがなかった。だが、2023SSシーズンが開幕すると、一つのフィンランドブランドのコレクションに僕は目が止まる。

ブランドの名はロルフ・エクロス(Rolf Ekroth)だ。

デザイナーの名前はブランド名と同じくロルフ・エクロスで、彼はフィンランドのヘルシンキに拠点を持つアールト大学の出身だった。アールト大学はデザイン教育において優れた大学で、エクロスは2015年に卒業して学士号を取得している。また、エクロスのキャリアで面白いと思ったのが、元プロのポーカープレイヤーだったということ。ポーカーのプロ経験を持つデザイナーを初めて知った(他にいるのだろうか?)。また、エクロスはブランドを始めるまでは、様々な販売の仕事にも従事していたようである。彼の歩みを振り返るに、パリのファッションエリートたちとは全く違う道を歩いてきたようだ。

2023SSコレクションで発表されたルック数は合計23型と、少なくはないが決して多いとは言えない。ルック数とブランド規模は関連性があり、エクロスはまだ規模の小さいブランドなのだろう。「ハイプビースト(Hypebeast)」にエクロスのインタビュー記事があったのだが、初期は資金面でスポンサーがいたようだ。しかし、「ヴォーグ・ランウェイ(Vogue Runway)」によると2021AWシーズンのころにはスポンサーから離れて、完全に独立した形でブランドを再始動させたようである。

肝心のデザインはというと、非常に不思議なメンズウェアという印象だ。

ヒッコリーストライプのワイドパンツには、クルーネックの半袖Tシャツがスタイリングされ、身頃は白いレースのような生地を使って、袖は黒い無地の生地で切り替えられている。なぜか男性モデルは右手にギプスをはめている。ワイドパンツのシルエットとトップスがウィメンズウェアに近しい雰囲気で、ジェンダーレスデザインの輪郭も感じる。

だが、ここで僕は一つの間違いに気づく。

先ほど、半袖Tシャツの身頃は白いレースのような生地と述べたが、それは全く違っていた。身頃をよく見てみると“CAMP BROKEN ARM”という言葉が前身頃中央にプリントされ、その言葉の周辺を動物だろうか、昆虫だろうか、ミミズのようなものや、キノコに羽が生えたように見えるものなど、正体不明の生物がプリントされている。ジェンダーレスデザインの中にシュールな世界が紛れ込んでいるのだ。

カーキ色のシンプルなスウェットを着ている男性モデルのボトムは、イエローとブラックで染められた大量の房を繋ぎ合わせてスカートにしたようなアイテムがスタイリングされ、ここでもジェンダーレスデザインが形を表しているが、やはりシュールだ。

服一点一点のフォルムを見るとシンプルで、かわいらしさも感じるメンズウェアなのに、ディテールや色の使い方が奇異で、おかしな雰囲気を醸し出している。そこにウィメンズウェアの要素も紛れ込むのだから、何とも形容し難い。

2023SSコレクションのルックを見ていると「シリアスなメルヘン」という言葉が浮かんできた。幻想的な物語を見ているようで非常に現実的。リアルな服を不思議なイメージに持っていき、かわいさをかわいく感じさせない不思議系メンズウェアが、僕の捉えたエクロスだった。

しかし、この文章を書く直前にYouTubeにアップされていた2023SSコレクションのイメージムービーを観ると、また違った印象を抱いたのだ。ちなみに映像をアップしていたのは、エクロスの公式チャンネルで、登録者数はこの文章を書いている時点で16人だった。

モノクロで始まる映像は、若者たちの繊細な心情が表現された美しさが投影されている。ルック写真で見るのとは全く違う印象だ。この雰囲気、何かと似ている。僕が思い出したのは1990年代後半の「ラフ・シモンズ(Raf Simons)」だった。あの頃のラフが、2023年の社会を投影させて若者たちのために作った服で、誤解を恐れず言えば「変態的なラフ・シモンズ」がエクロスに感じられてきた。ラフなら決して見せない変態性が、露わになったようなブランドだ。

僕はルック画像を見た時よりも、映像を見た時の方がエクロスに対して惹かれた。ショーで見てみたいとも思った。やはりモードブランドはどこか変態性を感じる方が魅力的だ。僕はロルフ・エクロスの変態性を何度でも体験したい。次を楽しみに待とう。

〈了〉

参考資料
Hypebeast “Building a fashion brand in Finland is no small feat. Rolf Ekroth is leading two”

Rolf Ekroth YouTube Chanel “ROLF EKROTH FW21 PREVIEW”

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