ルーツのすべてをデザインするブルーマーブル

AFFECTUS No.345

1972年12月7日、歴史上世界に最も知られた写真の一つが誕生する。地球から約45,000km離れた場所から、アポロ17号の乗組員が撮影した地球の写真は、大きな青いガラス玉のように見えたことから「ザ・ブルーマーブル(The Blue Marble)」と呼ばれ、世界中の人々が自分たちが暮らす青い惑星の美しさに魅了された。

このエピソードに惹かれた一人の子供は、後に自身が立ち上げたファッションブランドに「ブルーマーブル( Blue Marble)」という名をつける。2019年にアンソニー・アルヴァレス(Anthony Alvarez)が生み出した青いガラス玉は、開幕したばかりの2023SSパリメンズコレクションで記憶に残るエレガントなメンズウェアを発表した。

ファーストルックに登場したのは、文字通りブランドを象徴するアイテムだ。スタジアムジャンパーをベースにデザインされたブルゾンは、シャイニーな青い生地が放つ光沢が美しく、まさにブルーマーブルのオープニングを飾るにふさわしい逸品である。

アルヴァレスは、ブルーマーブルを立ち上げる以前に「ワン カルチャー(One Culture)」というストリートブランドで短期間だけ活動していたのだが、現在のブルーマーブルはアルヴァレスが生まれたアメリカの伝統的カジュアルウェアと、ワン・カルチャー時代に培ったであろうストリートスタイルの融合が見られる。

それがどう現れているかというと、ブルーマーブルは服そのものはストリートなカジュアルウェアなのだが、服から受けるイメージはテーラードに通じるエレガンスが感じられるのだ。服とイメージの間に興味深いギャップを生じさせ、それが今やファッション界の中では特別珍しいモチーフではない、アメリカントラッドとストリートウェアをデザインの素材に使いながらも、新鮮なエレガンスをもたらすことに成功していた。

コレクションの中で幾度も登場するブルーは青々とし、高貴な印象さえ抱かせる光沢が非常に印象的だ。また褪せたブルージーンズも頻繁に登場し、ストレートシルエットというスタンダートなシルエットが今とても新鮮に感じられる。デニム生地の色落ち具合が非常にナチュラルかつ綺麗で、真っ直ぐ綺麗に落ちるシルエットも美しく、たとえ奇抜さはなくとも美しさのレベルを高めることができれば、服は特別な服にデザインすることが可能なのだと証明するかのようだった。

しかし、ブルーマーブルはいわゆるシンプルで綺麗な服ではない。そのことを物語るのが柄素材の使用だ。ブルーマーブルが使用する柄は幾何学的な柄、アールヌーボーを連想させる植物的曲線を描く柄、レオパード柄、カラフルなスプレーで制作したようなグラフィックなど、柄が雑多的に素材として多用され、上品でエレガントなカジュアルウェアにノイズを起こす。ただし、そのノイズは煩わしいものではない。このバリエーション豊かな柄がなければ、むしろブルーマーブルのコレクションは物足りなく感じるほどに、服に良いアクセントを加えていた。

今回の2023SSコレクションで特に目を惹いたのが長袖のシャツだ。シルエットはオーバーサイズなゆったりとしたもので、襟やカフスなどディテールに特別なデザインは見られず、形そのものはシンプルと言えよう。しかし、ブルーマーブルがただのシンプルなシャツを作るわけがない。襟周り、前立て、カフス、肩線のあたりに紋章のような柄が連なって配置され、ルーズな着こなしのシャツが王族的な香りを立ち上げていた。

また、コレクションから感じる雰囲気にスペイン的な、もしくは東南アジア的な世界観が感じられ、これはおそらくアルヴァレスの父親が、スペインの血を引くフィリピン人であることが関係しているのではないか。アルヴァレスは幼少時に、父親からフィリピンやスペイン的なカルチャーを目にした体験があったのではないだろうか。子供の頃に受けた体験は、ファッションデザイナーにとってブランドの根幹を成す重要なもの=アイデンティティや作家性の礎となることが多い。

こうしてブルーマーブルの2023SSコレクションを見ていると、このブランドはアルヴァレスがこれまで歩んできた人生の結晶と思えてきた。そしてそんなデザインのブランドが、僕は好きだった。だから、この2023SSコレクションで初めてブルーマーブルを知ったにも関わらず、一瞬にしてルックに目が止まってしまったのだろう。やはりデザイナーが人生を表すコレクションは非常に面白いし、魅力的だ。物語に触れているような感覚さえ覚える。

地球を写した一枚の写真、自身のルーツ、かつての短い間だけ活動したブランド、アルヴァレスが体験したすべてが融合して服となって現れたブランド、それがブルーマーブルだ。ファッションデザイナーにとって、無駄な体験は何一つない。考え方次第、手法次第でその体験はブランドに強力な個性を生み出す。自らの歩みを否定することはない。自分の体験は解釈次第で、大きな武器にすることが必ずできる。

アンソニー・アルヴァレスはブルーマーブルを通して、世界の捉え方を教えてくれた。世界は見方次第で、モノクロの景色もきっと青く美しい景色にできる。

〈了〉

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です