ルードが更新するエディ・スリマン スタイル

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AFFECTUS No.349

「既視感がある。けれど新しく感じる」

こんな矛盾を「ルード(Rhude)」が2023SSコレクションで体験させてくれた。思い出されたのは、エディ・スリマン(Hedi Slimane)のカリフォルニアスタイルだった。ルックを初めて見た際は、「ディオール・オム(Dior Homme)」時代のエディを連想したが、発表から時間を経て見る今は、「サンローラン(Saint Laurent)」時代のエディを見る思いである。いや、その両方を感じる気もするし、「セリーヌ(Celine)」で披露する現在のエディにも感じられてくる。

いずれにせよ、カジュアルな古着をセクシーでロックに着るエディスタイルがオーバーラップしたのが、ルードの2023SSコレクションだった。では、ルードのデザイナー、ルイージ・ビラセノール(Rhuigi Villasenor)がエディスタイルをコピーしているのかと言うと、それは違う。ルイージはエディのロック&セクシーという成分はそのままに、服をアメリカントラッドウェアに移行して再構築している。加えて、シルエットにルーズさを多く取り入れ、現代らしさも表現した。

赤いアワードジャケット、赤いストライプのシャツ、膝に穴のあいたホワイトジーンズ、どれもがアメリカファッションを代表するアイテムであり、モデルはサングラスをかけてシャツの裾を出して、足元にはサンダルを履き、シリアスな表情で黒いランウェイを歩く。その姿からは、肌を大胆に見せているわけではないのに、色気が全身に匂う。ただし、強烈濃厚な色気ではなく、ルードの色気は漂うように滲み出す。シルエットは量感が適度に作られ、身体に余裕をもたらしているが、印象はスレンダーでスマートだ。

6番目に登場するルックに目が止まる。パープルの長袖ストライプシャツを着たモデルは、右身頃の裾だけを外に出したラフな着こなしを見せ、パンツは裾にクッションを作り出し、ストレートシルエットのパンツはシャツと同様に色はパープルだ。そしてシャツの上から、色はまたもパープル系の長袖アイテム(カーディガンなのかニットなのか、写真からは詳細が不明)は両肩から掛けて、左右の袖を胸元で結んでいる。

その着方は、日本のバブル時代にテレビ局のプロデューサーが着ていたスタイルとして知られ、「プロデューサー巻き」と言われるもので、2010年代前半に若者たちの間で復活したが、ルードはパリのランウェイで披露する。このプロデューサー巻きに加えてトラックスーツも発表していて、エディスタイルであまりお目にかかれないスタイリングとアイテムが違いをもたらす。

おそらくルードのデザインは、エディのデザインを意図して発展させたのではなく、デザイナーであるルイージの人生から自然発生的に生まれたものだろう。フィリピン出身の彼は、幼少時から香港、サウジアラビア、タイなど様々な国で育ち、11歳でアメリカに移り住み、現在はロサンゼルスを拠点に活動している。ルードのコレクションを見ていると、ルイージが11歳から暮らし始めたアメリカの影響が強く見て取れる。彼が子供の頃から親しんできたアメリカファッションを、青年に成長したルイージが現在の視点からデザインした服がルードというブランドに思える。

そこで思うのが、もし意図的にエディのスタイルを発展させたらという考えである。

今回登場しているアメリカントラッドのように、クラシック、ストリート、スポーツとファッションには様々なテイストのスタイルが世界中に浸透していて、それらスタンダードスタイルをデザイナーが自身の解釈で更新した、新しいスタンダードスタイルが発表されることは珍しくない。

その方法を、モードシーンに現れたスタイルでも実践するのはどうだろうか。

トラッドやスポーツなど匿名性を帯びたスタイルを更新するように、モードシーンを席巻したデザイナー固有のスタイルを、後年のデザイナーが新たに解釈して更新する手法があってもいい。

アートの歴史を見てみると、過去のアーティストが発表した作品を更新するように生まれた作品があり、それが文脈として連なっていき、新しい価値観、美意識が生まれ出したように感じた。そんな文脈的創作がモードにも必要ではないか。さらなるファッションの発展のために。

近年、文脈的デザインを実践したデザイナーがいる。デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)がそうである。デムナは2000年代前半にマルタン・マルジェラ(Martin Margiela)が発表したエクストリームなビッグシルエットを、デムナのアイデンティティであるストリートウェアと融合させてマルジェラのスタイルを更新し、新しいファッションを生み出して世界を席巻した。ヴェトモンが誕生させた超巨大シルエットは、その後世界中のブランドに影響を及ぼし、各々のブランドが独自の解釈を施したビッグシルエットスタイルをデザインするまでに至った。

マルジェラが創始者となった文脈は、あらゆる方向へと伸張していき、新しいファッションを次々に誕生させた。

このように文脈を読み合うデザインは、新しいファッションを創造する一つのアプローチとして有用に思える。そして、僕にはルードの2023SSコレクションがエディスタイルを更新したスタイル=コンテクストデザインに感じられ、非常に興味深かった。

現在、ストリート以降の時代を担う新スタイルはまだ現れていない。そのことが僕に、現在のモードに若干の物足りなさを感じさせている。時代を破壊する新しいファッションが見たい。それはどこから、どのようにして生まれるだろうか。どんなデザインをするかはもちろん重要だが、どのようにデザインするかも重要だ。デザインの手法をデザインする。もしかしたら、そこから新時代のファッションが生まれるのかもしれない。

〈了〉

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