パトゥのモダンガール

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AFFECTUS No.351

「パトゥ(Patou)」の2023SSコレクションを見ていたら、ふと気になり始める。「カワイイ」の語源とは何なのだろうか、と。「ウィキペディア(Wikipedia)」で調べてみると、次のように書かれていた。

「かほはゆし(顔映ゆし)」が短縮された形で「かはゆし」の語が成立し、口語では「かわゆい」となり、「かわゆい」がさらに「かわいい」に変化した。「かほはゆし」「かはゆし」は元来、「相手がまばゆいほどに(地位などで)優れていて、顔向けしにくい」という感覚で「気恥ずかしい」の意であり、それが転じて、「かはゆし」の「正視しにくいが放置しておけない」の感覚から、先述の「いたわしい」「気の毒だ」の意に転じ、不憫な相手を気遣っていたわる感覚から、さらに「かはゆし」(「かわゆい」「かわいい」)は、現代日本語で一般的な「愛らしい」の意に転じた。
*Wikipedia「可愛い」より

古文が非常に苦手だった僕は、この説明の2行目を読んでいるあたりでもう億劫になってしまったが、「カワイイ(可愛い)」の意味が移り変わる過程で「気の毒だ」、「いたわしい」という意味を持っていたことを知り、興味が惹かれる。カワイイに潜む辛さ。それが、この一文から浮かんだイメージで、そしてそのイメージはまさにギョーム・アンリ(Guillaume Henry)が手がけるパトゥそのものだった。最新の2023SSコレクションは甘さと甘さの間に辛さを挟み込んだカワイイを、アンリは完璧なレベルで形にしていた。

パトゥのコレクションへ言及する前に、カワイイを感じるファッションについて考えてみたい。一般的にカワイイと評される服に「渋い」、「強い」といった感覚を覚えることはないだろう。「甘さ」、「幼さ」、「柔らかさ」、先ほども登場した「愛らしさ」という感覚を自然と感じるのではないか。2023SSシーズンのパトゥは、カワイイが持っていた従来のイメージに辛いイメージを加え、カワイイの文脈を更新した。

しかし、辛いカワイイはパトゥの専売特許ではない。

たとえば「セシリー・バンセン(Cecilie Bahnsen)」も、辛さのあるカワイイがブランドの特徴となっている。このデンマーク生まれのウィメンズブランドは、色は白、素材にレースを多用して外観は完璧にピュアなドレスをデザインするが、ルックに登場するモデルたちの表情は一様にシリアスで、甘くフェミニンな匂いをカットし、毒味のあるメルヘン世界を披露している。

モードの文脈で言えば、パトゥはバンセンと同系統に属する。だが、両ブランドは基盤となるスタイルが異なるため、文脈上では枝分かれを起こす。バンセンはガーリーな綿菓子のように甘いドレスがコレクションの軸だ。一方、パトゥは上品で気品のあるオートクチュール的エレガンスを、スカート、パンツ、コートなどベーシックアイテムを通して表現してコレクションを構成している。

正直に述べれば、僕はパトゥのエレガンスがやや古く感じる。コレクションを見ていて感じるのは現代的な美しさではなく、1950年代や1960年代といった時代のエレガンスなのだ。7月に発表された2023SSコレクションにも、僕はやはり古いエレガンスを実感する。

2023SSコレクションのパトゥを見れば、僕の意見に疑問を持つ人もきっといるだろう。むしろフレッシュで若々しいイメージを感じるはずだ。ピンクをメインカラーに、ミニスカートやミニワンピースが幾度も登場して、キャップを被るモデルたちの姿は健康的で爽やかな色気を発散し、スポーティにも感じられてくる。腹部を晒すほど着丈が短いピックのタックトップに、黒いフレアパンツを合わせたスタイルなどはまさに1960年代的、いやシンプルな色構成でまとめられた1970年代スタイルにも見える。ただ、コレクション全体で見ると、やはりミニスカートやミニワンピースの印象が強いために、「クレージュ(Courrèges)」や「マリー・クワント(Mary Quant)」が活躍した1960年代を思わせる。

たしかに今回のパトゥは、これまで以上に若々しくフレッシュだ。しかし、スタイルに1960年代を連想してしまい、やはり古いエレガンスを僕に感じさせる。しかし、それはネガティブな意味ではない。未だビッグシルエットが主流で、カジュアルウェアが主役の時代に、ギョーム・アンリはスレンダーシルエットにスポーティも混ぜ合わせたエレガンスを披露し、現代のモード文脈に別の道を切り拓く。

色にピンクを多用し、フリルのミニスカートが現れることでカワイイと感じつつも、女性モデルたちは1960年代テイストとスポーティなイメージがコレクションの空気を引き締め、辛くも甘い=辛味のあるカワイイがランウェイを堂々と歩く。カワイイとは甘く愛らしいものとは限らない。別の形も存在するのだ。カワイイをフェミニンに着たくない人だって、きっといるに違いない。そんなあなたにこそ、パトゥが似合う。来年の夏、今度はランウェイではなくストリートをモダンガールが歩く。

〈了〉

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