前回の2022AWシーズンでは、パリファッションウィークの公式スケジュールに参加し、浅草でショーを開催して最新コレクションを発表した「メゾン ミハラヤスヒロ（Maison Mihara Yasuhiro）」（以下、ミハラヤスヒロ）。2023SSシーズンも同様にパリファッションウィークの公式スケジュールでショーを開催したが、今回の発表場所はパリだった。先日、そのパリで発表された最新2023SSコレクションの展示会が日本国内で行われ、取材に訪れる機会があったため、今回はそのレポートをお送りしたいと思う。
会場のラックに並ぶ服を見て改めて感じたのが、前回の2022AWコレクションの展示会を訪れた際にも感じた重厚感である。服一点一点の作り込みが複雑かつ大胆で、王道のモードウェアがそこにはあった。複雑かつ大胆なデザインはパリで発表する日本ブランドに共通する特徴でもある。「カラー（Kolor）」や「サカイ（Sacai）」、「アンダーカバー（Undercover）」といったブランドは、シルエット、ディテール、素材、スタイリングすべてにおいて迫力あるデザインが施されている。そういった日本ブランドのデザイン文脈にミハラヤスヒロも連なっているが、他の日本ブランドとは異なる特徴を文脈に刻んでいる。
それは徹底した古着感である。
ラックに掛けられたTシャツ、シャツ、ジャケット、ジーンズ、コート、すべてのアイテムが原宿の古着屋を訪れて見ているような錯覚に陥らせる、使い古された時間の経過を感じさせるのだ。素材は使用感にあふれ、プリントやロゴは数十年前の服を思わせるデザインで、「チャンピオン（Champion）」のロゴを模したアイテムがコレクションの古着感をいっそう強める。
だが、これは古着ではなく、2022年の夏に発表された最新の服で、しかも世界最先端の創造性を競い合うパリで発表されたモードウェア。古着のように感じられた服は、古着には絶対ないであろう重層的な作り込みがなされている。
シャツはカーディガンと一体となり、2つのアイテムがレイヤードされてドッキングするパターンワークは様々なアイテムに展開され、デニムジャケットは着崩した状態をそのままパターンに起こしたようなフォルムを見せ、スパンコールやレースはプリントの状態で生地の上に再現されている。1着の服を見ているようで、異なる数着のアイテムを同時に見ているような多角的視点は迫力に満ちていた。
中でも特別な想像を掻き立てたのが、ドッキングアイテムと、スパンコールやレースが柄としてプリントされたアイテムである。
この世に誕生してから何十年と誰かの手に渡り続けてきた古着のニット。ニットは下にシャツを合わせて着られることもあれば、上にジャケットを合わせて着られることもあったかもしれない。今は無地に見えるワンピースも、かつてスパンコールが一面に飾られていたのかもしれない。僕たち人間に過去の記憶があるように、きっと服にも過去の記憶があるはずだ。ミハラヤスヒロは服が持っている記憶を、服が語れない代わりに代弁者となって僕たちにも見えるように再現した。2023AWコレクションは、服の記憶を見る物語でもあった。
ここで、唐突な例えをしたい。近年の僕は、アニメを観ることが習慣化しているのだが、7月から始まった今期のアニメの中で非常に面白いと思っている作品が『異世界おじさん』というアニメだ。アニメ好きの方ならご存知だろう。今期の話題作である。
主人公が現実世界で死んで、異世界に転生する物語のアニメは数多くあるが、『異世界おじさん』は17歳の時に交通事故にあい、意識は異世界に転生して17年間を過ごしたおじさんが、現実世界の病院のベッドで目を覚ますところから物語は始まる。17年ぶりに戻ってきた2017年の日本は、おじさんにとって新鮮だった。おじさんは異世界で身につけた魔法が現実世界の日本でも使えることができ、甥っ子と共に魔法を活用した映像を武器にYouTuberとして収入を得ながら生きていく。
物語の進行中、おじさんが異世界での体験をホログラムのように映像で甥っ子（と甥っ子の同級生の女の子）に見せて語るシーンが毎回必ずあるのだが、ミハラヤスヒロの服を見ていると『異世界おじさん』で異世界の体験をホログラムで観るシーンを思い出されてきた。
通常なら目の当たりにできない記憶を、今見ることができている。それがミハラヤスヒロの2023SSコレクションなのだ。服はいったいどんな記憶を持って、今まで生きてきたのだろうか。それを僕らが知る術はない。三原康裕を除いては。
三原康裕は服の声に耳を傾け、服へと仕立て、僕らに届ける。ミハラヤスヒロは服を着る共に記憶を着る服でもある。
Official Website：miharayasuhiro.jp
Instagram：@miharayasuhiro_official