展示会レポート Juha 2023SS

スポンサーリンク

「あ、いい」

一目見るなり、心の中でそう呟いていた。考えるよりも先に魅力を感じてしまい、感情が反応してしまう瞬間がファッションにはある。「ユハ(Juha)」2023SSコレクションの展示会で、僕はファッションの面白さを体験する。

展示会場は中目黒駅からほど近いビルだった。会場までの道のりはシンプルで、改札を抜けて信号を渡って曲がれば、あとは真っ直ぐに歩くだけでいい。目的地のビルが近くなると、遠目からはっきりとわかるほど、人がたくさん並んでいる様子が見えた。どうやらビルの1階が何か食べ物のお店で、入店の順番を待っているようだった。こんなに人が並ぶとはいったい何のお店か一瞬気になるも、すぐに意識から消え失せて、その列を横目に僕は会場へ向かう。今は食べ物よりもコレクションだ。

ドアを開けた瞬間、目の前に飛び込んできたラックに掛かっていた服を見て、1秒も経たない内に冒頭の呟きを内心で発していた。そして、会場全体を見渡すと、その思いはより深まっていく。やはり「いい」と。まだ実際に服を手に取っていないし、細部を見たわけでもない。それでも良さを感じてしまう。これまで幾度も感じたファッション体験が訪れた。

会場に到着してすぐにデザイナーの武長遼と挨拶を交わす。

ユハは2015年に武永が立ち上げたブランドで、メンズウェアの印象が強いが、2020AWシーズンからウィメンズをスタートさせ、ジェンダーの流動性、多様性をキーワードにコレクションを発表している。そのため、基本的にメンズ、ウィメンズのアイテムは共通しており、男性であれ女性であれ、自身のサイズに合う服を着ればいい。ユハの卸先店の一つ、新宿伊勢丹では小さいサイズを揃えて、ウィメンズウェアのフロアで扱っているとのことだった。

ユハの展示会を取材したのは、前回の2022AWコレクションが初めてだった。エレガンスを感じるが、シンプルにデザインされた服ではない。性別の境界を曖昧にし、服を着る人間の色気を滲み出すように表現する。癖と色気を実感させるコレクションだった。

前回の展示会で感じた癖と色気は、今回の2023SSコレクションも健在。だが、僕がブランドの特徴と捉えた癖と色気はそのままにエレガンス濃度をアップさせ、春夏シーズンらしい爽やかさが加わり、癖のあるが爽やかな人物という混沌がイメージされる。

シルエットは流動的でボリューミーなシルエットで、身体を束縛せず自由にする。だが、量感にあふれたシルエットでも、ストリート的ビッグシルエットとは正反対のタイプだ。基本的には柔らかい素材が多く、ドレープ性が現れているため、ボリューミーな形でも布が身体を滑らかに辿って落ち感を表すため、コレクションルックから受ける印象は艶かしく麗しい。

シルエットはボリューミーなタイプだけでなく、スリムシルエットのアイテムも作られていた。代表的なのは、腹部を晒すほどに着丈の短いタンクトップ。身体にフィットするタンクトップは、スリムを超えてスキニーと言う方が正しいだろう。シンプルなデザインだが、このアイテムは一見すると、奇抜なデザインに思えた。だが、ルックを見ると、憂いある雰囲気のモデルの魅力もあって奇抜さは感じられず、むしろ自然な装いに感じられるスタイルだった。

今コレクションで注目したいアイテムが二つある。

一つは、シャネルツイードを使用したテーラードコートとパンツだ。素材はライトグレー、ベージュ、ブラックの3色展開で、各色素材の組成が異なるというこだわり。中でも目を惹いたのが、ベージュのシャネルツイード。和紙を使用して、あえて毛羽立ちを作り出し、クラシカルでエレガントな素材に粗野な表情を生み出していた。

このシャネルツイードを使用したテーラードコートは、厚い肩パッドを入れてショルダーラインを硬く大きく仕上げ、メンズウェアの伝統である強さと一体化させていた。2023SSシーズンは「ベッドフォード(BED j.w. FORD)」もシャネルツイードを使用していたが、ウィメンズウェアのコンサバスタイルを代表するシャネルツイードが、積極的にメンズウェアに使用されるチャレンジは見ていて面白い。

そして、もう一つの注目アイテムはGジャンだ。色はブラックとブルーの2色だが、より魅力を感じたのはブルーだった。通常なら色褪せたブルーデニムはヴィンテージテイストを感じるものだが、ユハのブルーデニムはそのような時間の経過が生むデザイン性は皆無。アイスブルーと称された冷たく静かなトーンのブルーデニムは、この色を生み出すためだけに作られた完成度を誇る。ややフレアシルエットのジーンズとGジャンのデニムオンデニムルックは、僕にとってユハ2023SSコレクションのベストルックである。なんてことのないベーシックなスタイルに、ユハの癖と色気が独自性を生んでいる。

前回の2022AWシーズンでは、「インターナショナルギャラリービームス( International Gallery Beams)」での取り扱いも決まり、ユハは着実に評価を高めている。今回の2023SSコレクションは、春夏シーズンの持つ爽やかさがブランドの特徴である癖と色気を際立たせ、個性を磨き上げている印象を受けた。海外での取り扱いについて武永に尋ねると、現在はないとのことだった。だが、遠くない内に海外へ進出する可能性を感じさせる。そして、さらに海外モードの文脈に乗ることで、ユハの持つ癖と色気が磨き上げられ、コレクションをいっそう個性を増すのではないか。そんな予感と期待を抱く。

コレクションを堪能し、会場を出ると僕は昼食について考え始めた。今度は食べ物について考える時間だ。今年になってスパイスカレー作りが趣味になった僕にとって、カレー店のリサーチは自分の味を探求する上で重要な意味を持つ。取材前日に中目黒のスパイスカレー店をリサーチし、一つのお店をピックアップし、そのお店を展示会取材後に訪れようと決める。

本日の昼食に選んだカレー店の名前は「フォレスター(Forester)」。中目黒を代表するカレー店のようだ。フォレスターにした理由はカレーのルックスにある。どうやら僕は、たくさんの具材が使われたカレーよりも、シンプルにルーとお肉が味わえるカレーが好みだということがわかってきた。フォレスターはそんな僕の趣向を見事に捉えるカレーを作っていた。

やや勾配が急な短い階段を登り、木製のドアを開けると、そこはヴィンテージな趣のインテリアで、これぞ中目黒というお洒落なカレー店だった。メニューはバターチキンカレー、ビーフカレー、キーマカレー、やさいのカレーの4種類があり、1種類だけを選ぶシングルと、4種類の中から好きな2種類を選べるコンビの2パターンがある。

僕はコンビにして、バターチキンとビーフを選んだ。

待ち時間少なく運ばれてきたカレーを見て、僕はテンションを上げる。特にビーフカレーのルックスに惹かれた。スプーンでルーを掬うとシャバッとしたスープ状に近く、自分の好みであることが一目瞭然。まずルーだけを口に運ぶ。味は僕の期待を裏切らなかった。コリアンダーを多く使う基本のスパイスカレーとは全く違う、個性的な癖のある香りと味。ああ、僕は服もカレーも癖のあるものが好きなようだ。好きな人は大好き、嫌いな人は大嫌い。それぐらい個性が際立つ方が楽しい。じっくり味わう癖のあるビーフカレーは、僕にまたも心の中で呟かせる。

「あ、いい」

Official Website:juha-tokyo.com
Instagram:@juhatokyo

スポンサーリンク