デンマークで異色の存在感を示すガニー

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AFFECTUS No.361

北欧のデンマークと聞き、何を思い浮かべるだろうか。きっと、真っ先に家具のことを思い浮かべる人も多いだろう。ハンス・j・ウェグナー(Hans J Wegner)、アルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)、カイ・クリスチャンセン(Kai Kristiansen)といったデザイナーたちが生み出した名品たるソファやチェアは、シンプルなデザインながらも独特の存在感を放ち、その人気は今なお健在だ。

ウェグナーがデザインしたソファと言えばGE290が有名だが、僕が最も惹かれるのはGE236になる。GEシリーズの中でも最も幅が大きいソファで、アームがファブリックに包まれ、安定感のあるフォルムに惹かれてしまう。外観のデザインという意味では、洗練された雰囲気のGE290の方がかっこいいと思うし、僕自身も好きだが、GE236の水平ラインに安定したフォルムには座るという行為を心地よく促すような、不思議な魅力がある。

デザインでは家具が非常に有名なデンマークだが、ファッションブランドでもデンマーク発のブランドは注目を集めており、中でも人気なのが「ガニー(Ganni)」だ。デンマークブランドから共通して感じられるデザインの特徴は、家具と同様にシンプル&クリーンであり、ガニーのコレクションにもデンマークブランド特有のクリーンさはある。だが、シンプルなデザインかと言うと、ガニーは少々趣が異なる。

2023SSコレクションを見ていて、まず印象深いのが色使いだ。パープル、レッド、ピンク、オレンジ、ターコイズといった鮮やかで明るいカラーが、コレクションの前半で一気に登場する。とりわけ彩度の高さは、一種のけばけばしさを覚えるほどだ。下品と言いたいわけではない。だが、華麗とも違う。強いエネルギーが迫ってくる鮮やかさなのだ。

シルエット自体はシンプルだが、テーラードジャケット、マウンテンジャケット、スイムウェアを思わせるアイテムなど、異なるスタイルのアイテムが混じり合い、爽快なムードが全面に出ながら、そこはかとなく健康的な色気が混じっている。

コレクションの空気感は、1990年代後半から2000年代前半のファッションを思い出させた。脚に貼り付くほど細いスキニージーンズ、着丈が短くて身体にフィットするTシャツなど、ボディラインを露わにすることが主流だった時代のファッションである。2023SSコレクションのファーストルックで登場した、ジーンズにGジャンをスタイリングしたデニムオンデニムルックは、まさにジーンズが人気だった1990年代を思わす。

ガニーのコレクションを見ていて浮かんできた言葉が「アグリーなフェミニン」だった。ただ、アグリーと言ってもデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)時代の「ヴェトモン(Vetements)」ほどに強烈ではない。もっと上品で控えめなアグリーで、そこに溌剌とした色気伴うフェミニンが表現されている。

現在、東京では2023SSコレクションの発表が本格化し、様々なブランドがショーや展示会で最新ルックを発表している。僕自身も展示会やショーへ実際に足を運んで観察し、あらためて思ったのは文脈の重要性である。ファッションは感情に左右されるカテゴリーであるために、好きであるかどうかが非常に強力で、デザイナー自身の好きなものに対する熱い感情はコレクションにエネルギーとして表れる。

ただし、コレクションがエネルギーにあふれていたとしても、必ずしも消費者の購買意欲を刺激するわけではない。市場で人気のブランドには、モードの文脈に乗った上でデザイナーが自身の好きを表現したデザイン性が感じられる。デザイナーのエネルギーとモードの文脈、この二つが一体になった時、コレクションは独創性と時代性を獲得する。

ガニーを見ていて感じたのが、独創性と時代性を一つになったデザインだった。ストリートウェア旋風以降のモード文脈に登場したアグリーを代表とするスタイルの系譜を吸収しながら、溌剌とした色気伴うフェミニンを用いての解釈をデザインし、上品で控えめなアグリーとしてモードの文脈上に提示している。また、昨今散見される異なるスタイルの混合感が感じられる点も、現代の文脈に一致している。

ルックを見れば、すぐさま直感的にフェミニンな魅力を感じられるガニーだが、コレクションを詳細に見ていくと、非常にスマートなデザイン性が潜んでいたことが判明した。現在は、コペンハーゲンで最新コレクションを発表するガニー。現在の人気と注目ならば、いずれ発表の場をパリに移行する日が訪れるのではないか。その時、ガニーはどんな進化を果たすのか。もしスタイルが進化したなら、コレクションの背景にはきっとスマートなデザイン性が隠されていることだろう。

〈了〉

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