ハイクが見せるワークウェアの向こう側

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AFFECTUS No.362

ある服に持っていたイメージが書き換えられる。そんなコレクションには心が揺れてしまう。2013AWシーズンのデビュー以降、「ハイク(Hyke)」は徐々にシルエットとディテールのデザイン性を強め、気がつくとモード感が迫るコレクションへと転換していた。そして迎えた2023SSシーズン、ハイクはワークウェアのイメージに品格のある美しさを生み出す。

現在のハイクを見ていると、前身ブランドの「グリーン(Green)」が思い出されてくる。ただ、グリーンとは違う魅力がハイクにはある。それを如実に感じたのが今回発表された最新2023SSコレクションだった。今回のコレクションは、近年のハイクのデザインでは控えめなデザインの部類に入るだろう。モード性を高めた現在のハイクは、極端に短い着丈のブルゾンなどカッティングに妙を見せるデザインが多かったが、2023SSコレクションはいつもよりカッティングがベーシックに感じられた。

もちろん、単純なシンプルデザインが発表されたわけではない。素材の組み合わせに関しては特異な点が見られた。主に登場したのがネット状の素材だ。これがワンピースやスカートのように使用され、ネットワンピースの上からトップスやジャケット、ボトムの上からネットスカートがレイヤードされてスタイリングの中に組み込まれ、シンプルなカッティングのスタイルのイメージを、良い意味で捩れさせる効果が働いていた。他にも透け感のプリーツ素材がスカートに用いられるなど、2023SSシーズンのハイクは透け感がキーになっている。

組み合わせが面白い素材、いつよりもシンプルだが完璧にシンプルではないカッティングなど、コレクションに特徴は確かにあるが、やはり僕は今回のハイクには地味な印象を覚えてしまう。ブランドサイトで公開された今コレクションのショー映像を観ても地味な印象は変わらず、この感覚はまるでワークウェアを見ているかのようだった。もちろん、今回のハイクはデザイン的に本物のワークウェアを作っていたわけではない。あくまで、僕の中の感覚が、ワークウェアを見た際と同じ感覚を覚えたという個人的体験であり、今回のAFFECTUSは僕が抱いた感覚について語っていく。

では、今回のハイクに特別な印象を持たなかったのか。そんなことはない。特別な印象を持ったからこそ、今回書きたいと思えたのだ。先ほど述べた通り、ワークウェアに通じる感覚を覚えさせた今回のハイクだが、一方でワークウェアからは通常感じられないはずの、静かで上質な美しさが感じられた。その瞬間、頭の中に「ワークウェアの先にあるエレガンス」という言葉が浮かんできた。

作業服であるワークウェアはエレガンスと無縁の服で、耐久性、機能性を追求したテクニカルな服とも言える。そのような服に、モード伝統のエレガンスを感じることなど通常ならありえない。だが、ハイクはあり得ない体験を僕にもたらした。

要因は何にあっただろう。やはりカッティングにある。ハイクはシルエット自体はとてもベーシックだ。アヴァンギャルドな要素は微塵もない。だが、ベーシックなシルエットを作るカッティングに冴えを見せている。シンプルな造形であっても、シンプルな造形を形作る構造が挑戦的であれば、人の目を惹きつけ、人の心を揺らす個性が生まれる。

シルエットそのものではなく、シルエットを作り上げるカッティングにモード感を出し、かつそのカッティング自体も極端に複雑な作りはせず、控えめに静かにデザイン性を強めることでモード感を演出している。スマートにも感じられるアプローチが、ワークウェアには感じられないはずの静かなで品格あるエレガンスを生み出した要因だと思えた。

僕にとって、ハイクの前身であるグリーンは衝撃的だった。何が衝撃だったかというと、デザインアプローチが驚きだったのだ。モードシーンに登場するブランドは、シルエット、ディテール、素材、スタイリングなど、あらゆる要素でダイナミックなデザイン性が感じられ、それがモードの定義に感じられていた。今までにない服を作る。そんな野心を滲ませるのがモードウェアだった。

だが、グリーンは違った。ジーンズ、トレンチコートなど服装史の名品をデザインソースにし、素材やシルエットなどをグリーンが求める理想のバランスへと書き換える。そうして作られた服は一見すると、ありふれたベーシックウェアに見えながら、これまでのベーシックウェアにないバランスの美しさが感じられ、人々を魅了した。今までにない服を作るのではなく、今までにあった服を今までにないバランスに作り変える。それが僕にとってのグリーンで、このアプローチでモードを生み出させるのかと驚きだった。

今、日本にはベーシックウェアをベースに、デザイナーが理想とするシルエットや素材にデザインするブランドが多く、人気になっているケースが多い。これはヨーロッパやアメリカのブランドでは珍しいデザインで、日本独特の文脈でもある。この文脈の発端が、グリーンだったと僕は思っている。

そしてハイクにもその文脈は受け継がれ、2023SSコレクションは日本が生んだデザインの代表作と言えるクオリティを披露する。ハイクのデザイナー、吉原秀明と大手由紀子はワークウェアの向こう側にある美しい世界を僕らに見せてくれた。その世界へ渡るための橋となったのが、2023SSコレクションである。イメージが書き換えられる体験は、何度味わっても心地よい刺激に満ちている。

〈了〉

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