ピーター・ドゥによる男たちの服が始動

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AFFECTUS No.364

始まりを願っていた人もきっと多いだろう。2023SSシーズン、デビューから瞬く間にニューヨークを代表するブランドとなった「ピーター・ドゥ(Peter Do)」が、メンズラインをついにスタートさせた。ショーのファーストルックを飾ったのはメンズルックで、モデルを務めたのは2016年にデビューし、今では強烈な人気を誇るK-POPグループ「NCT」のメンバー、イ・ジェノ(Lee Je-no)だった。

やや幅広なショルダーラインに、ワイドなピークドラペルで仕立てられた黒いダブルブレステッドジャケットは力強く逞しく、高貴な風格を放つ。黒い光沢が艶かしいパンツはルーズなシルエットを描き、こちらもジャケットと同様に力強さと逞しさが表れ、素材の上品さとは打って変わってワークパンツのような佇まいを見せる。着用するモデルは男性だが、ウィメンズラインと変わらないクールなカッティングと、流動的なドレープ性が一体化したドゥのデザインが、初のメンズルックにもデザインされていた。

その後もセカンドルック、サードルックもメンズルックが続き、ファーストルックと同じダブルのセットアップが登場する。冒頭の3ルックは、ベーシックなジャケットとパンツのセットアップとは明らかに異なる、ドゥの才能が活かされたシルエットを持つが、それでも奇抜なデザインというわけではない。しかし、その印象は正面から見た時に限られる。

ドゥはInstagramに、ブランドアカウント(@the.peterdo)とは別に自分自身のアカウント(@doxpeter)を持っているが、ドゥは個人アカウントにショー冒頭で登場した3ルックがバックステージで並ぶ写真をポストしていた。写真は2枚あり、1枚は正面から3人を捉えた写真で、もう1枚はバックスタイルから3人を捉えた写真だった。驚いたのはバックスタイルを見た時だ。

ジャケットとジャケットの下に着用したインナーの後ろ身頃が大胆にくり抜かれ、モデルたちの背中が露わになっていたのだ。肌を見せるアプローチは上半身だけにとどまらず、パンツにも及ぶ。パンツの側面は大腿部のあたりから足首付近まで切り開かれ、男性モデルたちは脚の肌も露わにし、ウィメンズラインで披露していたシンプルなカットで肌を大胆に見せるドゥのテクニックが、メンズラインでも披露される。

ドゥの特徴であるドレープ性が最も表れたアイテムは、シャツだろう。身頃は通常のシャツのようにフロントをボタンで留める作りではなく、生地はひだを寄せながら着物のように両身頃を重ね合わせて着る構造になっていて、ここでも胸元を大胆に晒している。

また、スカートをメンズルックへ積極的に取り入れたことも印象的だった。膝丈のプリーツスカートをスリムなパンツの上からレイヤードし、メンズスタイルとして取り入れやすアプローチを見せたかと思えば、パンツは穿かず、膝上丈のプリーツスカートを脚の上からダイレクトに穿くメンズルックも発表している。

ドゥは2023SSコレクションで、メンズラインとウィメンズラインを同時発表したが、デザインされたメンズルックはいずれも女性モデルが着用しても違和感のないスタイルに仕上がっていた。直線的でクールなカッティング、ドレープ性のあるフォルム、肌を大胆に見せる、透け感のある素材を使うなど、これまでドゥがウィメンズラインで披露してきた数々のテクニックがメンズラインにも多用され、ドゥは女性の服、男性の服という境界を設けないことを意識しているように感じた。

ジョナサン・ウィリアム・アンダーソン(Jonathan William Anderson)の登場以降、ファッション界はジェンダーレスが一気に浸透したが、現在ジェンダーレスデザインは安定期に入っている。当初のアンダーソンのように革新的なデザインというよりも、もっとリアルでシンプルな、街で女性も男性も着られるワードローブとは何か、それをデザイナーそれぞれが独自に探求している。

それはドゥも同様で、彼のコレクションにジェンダーレスデザインの文脈を一気に更新する革新性があるわけではない。これまでドゥが丁寧に作り上げてきたスタイルを、より洗練させていこうとする職人的とも言える姿勢を常に感じるし、2023SSコレクションでも同様だった。

ドゥのデザインはニューヨークモードの隙間を突いている。同じ文脈上に位置するブランドに、「プロエンザ・スクーラー(Proenza Schouler)」と「ザ・ロウ(The Row)」があげられ、両ブランドともクールでシャープなニューヨークモードを代表するブランドだ。この二つのブランドの間に位置するコレクションが、ドゥのデザインだと言えよう。

プロエンザ・スクーラーに比べるとディテールはシンプルで街に着る際により馴染みやすく、ザ・ロウに比べるとカッティングのモード感は強く、デザイン性が強い服に仕上がっている。クールでモダンというニューヨークマーケットに生じていた隙間、ここにニーズがあったのだと思わせるデザイン性がドゥのコレクションに見られる。

ドゥのメンズラインを見て思ったのは、「このポジションのメンズデザインが意外とないかもしれない」ということだった。ストリートでも、トラッドでも、スポーティでも、クラシックでもない。クールでモダン、リアルとモードのバランスに優れたウェア、そこにジェンダーレスデザインも溶け込んでいる。メンズモード市場の隙間を突くデザインの登場である。

ウィメンズラインと変わらないデザインでメンズラインを作り、期待を裏切らないコレクションだったが、今後、メンズラインが独自の進化を果たすのかどうか、それが僕は気になっている。これまで以上にピーター・ドゥに注目していきたい。

〈了〉

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