ルカ・オッセンドライバーが再始動

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AFFECTUS No.365

9月に入り、最新2023SSコレクションシーズンが幕を開けた。このタイトルを書いている時点でニューヨークが終了し、ロンドンへと舞台が移っている。いつもなら、連日発表されるコレクションの中から面白かったコレクションをピックアップし、このAFFECTUSを書くのだが、今回はコレクションシーンから離れよう。

ある一人のデザイナーが、久しぶりに表舞台へと帰ってきた。2018年に「ランバン(Lanvin)」のメンズアーティスティック・ディレクターを退任し、以降まったくその名を聞かなくなっていたルカ・オッセンドライバー(Lucas Ossendrijver)が、「セオリー(Theory)」とのカプセルコレクションで復活を果たす。

僕はこのニュースに驚きと同時に、「いったい今まで彼は何をやっていたのだろう?」と疑問を感じた。だが、そんな疑問は今やどうでもいい。ランバンを退任してから何をしていたかなんて気にすることではない。重要なのは、再びオッセンドライバーのデザインが見られことなのだから。

カプセルコレクションのニュースが配信された日、僕は何か面白い話題がないかと「Vogue Runway」を眺めていた。すると、すぐに1枚のビジュアルが目に飛び込んでくる。

「お!?なんだこれ!?けっこういいじゃないか!」

昨今トレンドのビッグシルエットやプリント、装飾的なデザインとはまったく違い、ディテールはシンプルで、リラックス感が滲むスマートなシルエットと、ブラックやダークなパープルなど渋みのある色との組み合わせは、モデルたちが着用するテーラードジャケット、シャツ、フードコートなどベーシックアイテムに上品なムードが立ち上げていた。

エレガンスとは、この服のためにある言葉。そう断言したくなるルックだった。

僕は新しいブランドのデビューなのかと思い、これは良いブランドが出てきたと一瞬にしてテンションが上がった。しかし、すぐに記事の見出しに気づき、新ブランドのデビューではないことに落胆しながらも、驚きで再びテンションを上げる。そこで僕は初めて気づく。この美しい服が、オッセンドライバーとセオリーのカプセルコレクションだということに。

4年もの間、モードの第一線から離れていたオッセンドライバーだが、彼のセンスは錆び付いていなかった。2023SSウィメンズコレクションが開幕し、散見されるのが「これまで美しいとされたものを、美しくみせない」というデザインである。レトロでフェミニンなはずのフラワープリントのシャツが、不気味で怪しい。そう感じさせる類のデザインが今シーズンは目立つ。だが、現在のモードシーンにおいて、オッセンドライバーが見せるクリーンなデザインは逆に新鮮だった。彼のデザインは4年前と何一つ変わっていない。

「美しい服とは何か?」

その問いに対して王道の美しさで答えるのが、オッセンドライバーのコレクションである。変わらない彼の姿勢が、時代が変わったことで新しく見えたということだ。

そしてカプセルコレクションで僕が驚いたのは、いや嬉しかったと言う方が正しいだろう、オッセンドライバーがデザインしたウィメンズウェアが見られたことだった。僕にとって待望の瞬間である。

2018年にオッセンドライバーがランバンを去った時、メゾンはボロボロの状態に陥っていた。ビジネス上のゴタゴタから、ウィメンズラインのアーティスティック・ディレクターを務めていたアルベール・エルバス(Alber Elbaz)が2015年に退任し、エルバス去った後のウィメンズコレクションは酷い有様だった。後任ディレクターの名をあげることはしないが(調べればすぐにわかることだが……)、よくもエルバスが築き上げたエレガンスを、ここまで落とすことができるなと怒りを覚えるほどのクオリティで、いったい経営陣は何を考えているのか、どうしたらこんな選択ができるのかと疑問と憤りを感じた。

エルバスの後任選びにランバンの経営陣は迷走するわけだが、当時の僕は無理に新ディレクターを呼ぶよりも、メンズラインを担当していたオッセンドライバーにウィメンズラインを任せればいいじゃないかと思っていた。彼ならできると、僕はそう確信していた。

オッセンドライバーが発表してきたランバンのメンズコレクションは、上質なエレガンスで満ち満ちていた。このセンスは、ウィメンズラインでも十分に発揮されるはずだ。

「ディレクター探しなどやめて、今すぐにオッセンドライバーに任せればいい」

エルバス去った後のウィメンズラインを見ればみるほど、僕はオッセンドライバー就任への思いは強くなる。だが、そんな瞬間は訪れなかった。とうとうオッセンドライバーも、ランバンを去ってしまう。

そして4年の時を経て、セオリーを舞台に僕が願っていたオッセンドライバーのウィメンズデザインが実現する。ビジュアルだけを見てすぐにテンションが上がった、彼のウィメンズウェアは本物だ。エレガントな服をデザインする才能は健在で、彼にとっては男性の服も女性の服も関係ない。ただ美しい服を作る。それだけのこと。

セオリーとのカプセルコレクションを終えたら、オッセンドライバーはどうするのだろう。ラグジュリーブランドのディレクターに就任するのだろうか。だが、それはいささか面白味に欠ける。かといって、僕はオッセンドライバーに自分のブランドを立ち上げることを望んでいるわけではない。願っているのは、サムエル・ドゥリラ(Samuel Drira)が1930年代に設立された歴史を持つが、休止状態にあったチェコスロバキアブランド「ネヘラ(Nehera)」を世界的人気ブランドに変貌させたようなケースだ。

もしくはグレン・マーティンス(Glenn Martens)が「ディーゼル(Diesel)」のクリエイティブ・ディレクターに就任したように、既存カジュアルブランドのディレクターに就任するケースもいい。

つまり、僕が見てみたいのはラグジュリーブランドのディレクターという、わかりやすい選択ではなく、意外性と驚きを感じるオッセンドライバーの選択が見てみたいということだ。もちろん、新しいブランドでは、オッセンドライバーにメンズラインと共にぜひともウィメンズラインも手がけてもらいたい。

セオリーとのカプセルコレクションは、まだ僕の願いの一部が叶っただけだ。僕は、僕の願いが完璧に叶う瞬間が見たい。ルカ・オッセンドライバーの未来を注視していきたいと思う。

〈了〉

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