リチャード・クインに闇を覗かれたい

AFFECTUS No.367

ジョン・ガリアーノ(John Galliano)、アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)、クレイグ・グリーン(Craig Green)、キコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)……。名前をあげればきりがない。今回注目するデザイナーも、ファッション界に名を馳せる幾多の卒業生を輩出してきたセントラル・セント・マーティンズ(Central Saint Martins)が送り出した、稀有な才能を持つ若手デザイナーだ。

ロンドンの名門を卒業後、2018AWコレクションでロンドンファッションウィークにデビューしたリチャード・クイン(Richard Quinn)は、2023SSコレクションでロンドンデザイナーらしいエネルギッシュでヒストリカルなデザインを披露する。

黒いベールを被る女性モデルは、フラワーモチーフのブラックドレスを着用し、黒いロングブーツを履き、ランウェイを歩く。次々に登場するモデルたちも、ロングレングスのブラックドレスを着て現れ、彼女たちの姿には妖しく暗い雰囲気が立ち込めていた。

クイーンのドレスは非常に装飾的で、ミニマリズムと対極のデザインだと言える。ドレスのシルエット一つひとつをじっくりと見てみると、クールやモダンといった表現とは遠く離れたデザインであることがわかる。むしろ感じるのは、数百年前の服を眺めているような歴史的古さで、それは西洋服装史の教科書を眺めている感覚に近い。クイーンは歴史上の衣服を、ダークで魔術的な感性で現代に蘇らせることで新しさを生み出した。

そしてクイーンの特異な才能は、ショーの後半から本番を迎える。

前半に発表されたレングスの長いブラックドレスとは違い、突如イエローのミニドレスが登場する。「イエローのミニドレス」という文面だけを読めば、そこにアヴァンギャルドを感じることはない。だが、実際に発表されたイエロードレスは完璧にアヴァンギャルドだった

ドレスは左右の肩を異様に盛り上がらせ、ショルダーラインはモデルの顔の両耳付近にまで到達している。この異様な造形を見て思い出したのは、『ウルトラマン』に登場した怪獣ジャミラの姿だった。もし、ジャミラの姿形がわからなければ、一度検索してみて欲しい。ジャミラが、クイーンの発表したミニドレスと非常に近い造形であることがわかってもらえると思う。

とても奇抜な造形のドレスがミニレングスで作られ、ドレスの素材は花々が咲き誇っているような装飾性に満ち、モデルは黒く艶やかな素材のグローブを両手にはめて、両脚にはグローブと同素材で作られたサイハイブーツを超えたスーパーロングブーツを履き、クールでシャープな佇まいを見せていた。

ジャミラシルエットのドレスは、イエロードレスの後も続いていく。今度はピンクやレッド、パープル、イエローなどに彩られた小花柄のテキスタイルで仕立てられていた。小花柄プリントのドレスを見て通常なら「かわいさ」や「甘さ」という感覚を感じるに違いない。

だが、クイーンは違う。感じるのは得体の知れないパワーだ。何せ登場したのは、ジャミラシルエットの小花柄プリントドレスだ。このファッションにかわいさや甘さを感じるのは、かなり困難だと言えよう。両肩を異様に盛り上がらせた造形はパンツと一体化したと思えば、ボディスーツとして作られたりと、アイテムのカテゴリーを変えてきながらアヴァンギャルドなイメージを強烈に発信していく。

ショーの終盤になると、前半に登場した魔術的クラシック、後半に登場した都会的アヴァンギャルド、双方のイメージが絡み合うようにミックスしたドレスが姿を現す。大胆なフラワープリントも発表されるのだが、やはり感じるのはフェミニンよりもマジックリアリズム的ダークな世界観である。

2023SSコレクションのクイーンを見ていると、本来なら抱くはずのイメージが捻られて生み出されているように思えた。美しいはずのフラワードレスが妖しく不気味に感じられる。クイーンはイメージの常識を捻って止め、見る者の感覚を歪めてしまう。

ロングドレスやミニドレスなど、ドレスの着丈に注目するとクラシックあるいはモダンといったファッション伝統のエレガンスが感じられるのに、クイーンがアヴァンギャルドイメージを注入することで、感じ始めていたエレガンスを断絶させ、全く別の世界へ迷い込ませる。そして、この曖昧模糊とした感覚がクイーンのコレクションを印象深いものにする。

僕はクイーンに願い始める。僕の知っている美しいイメージを捻って不気味にして、見せてくれと。美しさが美しくない状態に陥ったものが見てみたい。自分の中に潜む妖しさを刺激するクイーン。この闇のさらに深いところまで、僕は覗いてみたい。リチャード・クイーンならきっと心の深淵にまで案内してくれるはずだ。

〈了〉

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