迫力を失わせて惹きつけるシャンシア

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AFFECTUS No.373

モードにおいてデザインに迫力を感じられるか否かは、人々を魅了する上で重要なポイントになる。だが、服から迫力は感じられないのに、不思議と惹き付けられたコレクションと2023SSシーズンを発見する。それが中国ブランド「シャンシア(Shang Xia)」だ。

私はシャンシアについて知ったのは今シーズンが初めてだったが、調べてみるとブランドの成り立ちが興味深かったため、コレクションに言及する前にシャンシアの創業について話していきたい。

シャンシアが創業されたのは2009年で、中国の伝統技法を取り入れたアイテムを展開する中国発のライフスタイルブランドとして、ジャン・チョン・アー(Jiang Qiong Er)最高経営責任者(CEO)兼アーティスティック・ディレクターが立ち上げたブランドである。このライフスタイルブランドの創業に、パリのラグジュアリーメゾンが一役買っている。この手の話になると、「LVMH」を思い浮かべることが多いが、実際に深く関係しているのは「エルメス(Hermès)」だった。

CEO兼アーティスティック・ディレクターのジャンは、元々エルメスチャイナのウィンドウディスプレイを担当していたデザイナーで、このシャンシア事業をエルメス側に提案したところ認められ、エルメスが全株式の95%を保有する形でスタートした。そのような経緯があるため、「エルメスが立ち上げたブランド」と称されることが多い。その後、2020年にエルメスはフェラーリやエコノミスト・グループの株を所有する投資会社「エクソール(Exor)」にシャンシアの過半数株式を売却し、エルメスとジャンは少数株主となった。

ライフスタイルブランドとしての側面が強いため、シャンシアは本格的なコレクションを展開していなかったのだが、前述のエクソール参加後、2022SSシーズンから中国人デザイナー、ヤン・リー(Yang Li)をクリエイティブ・ディレクターに起用し、パリファッションウィークでデビューを飾る。

ここまでの経緯を読んで、本格的なモードファンが興味を持つのが難しいブランドかもしれない。私もブランドの成り立ちだけを読んでいたら、シャンシアに興味を持つことはきっとなかっただろう。だが、9月にパリファッションウィークで発表された2023SSコレクションを見た際、不思議な感覚にとらわれた。

ヤンによるシャンシアのコレクションはミニマリズムで、ピンクやブルーの歪んだ楕円形が生地にプリントされたアイテムが登場するが、コレクションはプリントやロゴといった装飾性はほぼ見られず、シルエットもスレンダーで非常にクリーンな印象を受ける。逆に言えば、服に驚くシルエット、ディテール、素材が見られるわけではなく、面白みに欠けるデザインかもしれない。冒頭で述べたように、迫力とは無縁のコレクションだ。

しかし、その迫力のなさがコレクションを印象深いものにしていた。一見するとスマートでシンプルな服に見えるが、各ルックをじっくり見ていると奥行きが感じられず、二次元のイラストを見ているようなフラットな感覚に襲われ始め、この平坦で抑揚のない感覚が刺激的なモードの舞台で逆に新鮮に思え始めてきた。リアルな人間が着ているのに、イラストを見ているような感覚。こんな感覚を覚えるコレクションは私にとって初めてだった。

このフラットなデザインを生み出した要因は、直線的なカッティングとペールトーンの色使いにあると思われる。シャンシアの服はほとんどが直線的なカッティングで形作られ、立体感が乏しく感じられる。ドレープやボリュームを持たせて、シルエットに膨らみを持たせたアイテムも多数登場するのだが、パープル、ブルー、グリーンなど使用されたカラーがペールトーンであるために、シルエットの立体感が抑えられているような感覚を覚えた。モードで重視されてきたデザインの迫力を、あえて出さないようにするアプローチは聡明さも感じ、非常に不思議なコレクションである。

コレクションのディレクションを務めるヤンは、2014年に「LVMH PRIZE」のセミファイナリストに選出された実績を持ち、自身のシグネチャーブランドでコレクションも発表していた。シグネチャーブランドは2020SSシーズンを最後に、本格的なコレクションは発表していないないようで、現在はシャンシアに専念しているものと思われる。

インパクトあふれるデザインを生み出すアプローチとは逆のアプローチで、コレクションから迫力を失わせて、奥行きのない平面的な感覚を抱かせて見る者に印象付ける。正直に言えば、自分の中で注目ブランドになった今も、私はシャンシアに対して高揚感があるわけではない。何度コレクションを見ても、自分の心はいつまでもフラットなままだ。しかし、それでも見たくなってしまう。このクリーンでミニマムでカラフルな服を。この心が高鳴らない感動が癖になってしまいそうだ。

〈了〉

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