ラフ・シモンズが自身のブランドを終了

AFFECTUS No.382

11月22日早朝、驚きのニュースを目にする。現在、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)と共に「プラダ(Prada)」でクリエイティブ・ディレクターを務めるラフ・シモンズ(Raf Simons)が、自身のブランド「ラフ・シモンズ」の終了を発表した。ラストコレクションは、ロンドンでショーを開催した2023SSコレクションとなり、1995年に設立したブランドは、27年の歴史で幕を閉じる。

ラフ・シモンズというブランドはいったい何を成してきたのか、どんな新しさをメンズファッションの歴史に刻んだのか。なぜこれほどの注目を集めてきたのか。

現在、男性がスリムなシルエットの服や、繊細なニュアンスを持つデザインの服を着ることは特別珍しいことではなく、当たり前のメンズファッションになっている。しかし、この当たり前のスタイルを確立した一人がシモンズだった。彼はメンズウェアの歴史を変え、新しい男性像を生み出したのだ。シモンズが生み出したコレクションは、メンズとウィメンズの違いはあるが、女性が自立して働くという価値観とライフスタイルを打ち立てたココ・シャネル(Coco Chanel)と重なるものがある。

シモンズ登場以前、メンズウェアは強さが象徴だった。具体例としてわかりやすいのは、1980年代のメンズスーツだろう。肩パッドを用いて広い肩幅を作り込んだパワーショルダージャケット、タックがボリューミーなシルエットを描くパンツのスーツは、男性をパワフルに見せるための服であり、男性に求められるのは強さや逞しさ、渋さであるという、メンズウェア伝統の男性像を反映した服だと言える。

だが、シモンズは男性のための服を「強さ」から解放する。

イギリスの伝統的なスクールボーイスタイルに、アメリカのカジュアルでスポーティなスクールボーイスタイルが渾然一体となり、シモンズは少年性にフォーカスする。

最も特徴的なのはシルエットだった。初期のシモンズの代名詞となった、ナローラペルの一つボタンジャケットは狭い肩幅で、アームホールは狭く、身体にフィットしてスレンダーなラインで作られていた。このコンパクトなシルエットこそが、当時のメンズウェアでは異端だった。まるで痩身の少年が着るような服は、メンズモード史を彩ってきた服とは完全に異なる別世界のものである。

繊細なシルエットに、イギリスとアメリカが混じり合ったスクールボーイスタイルに、メンズウェア伝統の強い男性像は微塵も感られず、シモンズのコレクションから漂うのは、男性の内面に潜む繊細さを美しいとする新しい価値観だった。男性の個性は強さだけではない。儚く壊れそうな弱さも、男性のエレガンスなのだ。シモンズはそう訴える。

またモデルの起用にも、シモンズは独自性を発揮した。彼が好んだのはプロのモデルよりも、ストリートで出会う10代の少年たちだった。素人の少年たちに、ブリティッシュとアメリカントラッドを混ぜたファッションを着用させて、ランウェイを歩かせる。その姿は凛々しく、美しい。

私がため息が出るほどに魅了されたのは、1999SSコレクションである。ショーのフィナーレで、黒いベスト、ノースリーブの白いシャツや黒いジャケット、黒のワイドパンツにスニーカーを履いた少年モデルたちが、整然と一列になって歩く様子は、オートクチュールのドレスに比肩するエレガンスを放っていた。

シモンズが提示した少年性は、メンズウェアの歴史を見事に更新する。

胸にワッペンをつけたライトグレーのジャケット&パンツは、まるで学生たちが制服を着てパリのランウェイを歩いているようで、まさかそんなスタイルに未来のファッションが眠っていたとは、誰が想像できただろうか。

また、シモンズを語る上で外せないのは音楽だ。シモンズはパンクやロックミュージックのイメージをたびたび引用しており、当時のコレクションを見ると、アーティストたちがCDジャケットから飛び出してランウェイを歩いている錯覚を起こさせる。「ダフト・パンク(Daft Punk)」や「クラフトワーク(Kraftwerk)」は、シモンズのコレクションを彩るモチーフとなり、若者たちの心へ深く強く響く。

シモンズが発表する服は、驚く造形や素材が見られるわけではない。それは、アントワープの伝説、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)の実験性にあふれたコレクションと比較すれば顕著にわかる。シモンズの服は極めてオーソドックス。誤解を恐れず言ってしまうなら、メンズウェアのベーシックアイテムのシルエットを細くしただけだ。

だが、少年性というイメージをスクールボーイスタイルを通して表し、若者たちが熱狂する音楽というカルチャーをさらに組み合わせて、シルエットが細くなったメンズベーシックがそれまでにない新しいファッションとなり、メンズウェアの歴史を変える事件となった。

シモンズは、服にテクニカルな仕掛けを施すタイプのデザイナーではなく、シンプルなテクニックを使い、イメージの組み合わせでコレクションをデザインするデザイナーで、私は彼のことを「イメージ作りの天才」と呼んでいる。

男性の中に潜む少年性にエレガンスを見出し、男の弱さを新時代の新しい男性の魅力としてファッションを通して提示する。これは現在のジェンダーレスに繋がる起源と言え、男性がフェミニンな繊細さを身に纏うことがスタンドードになるきっかけを生み出したのがラフ・シモンズというでデザイナーだった。

もし、シモンズが現れなかければ、ジェンダーレスが浸透するのはもっと遅れていたのではないか。それほどに、1990年代にシモンズが行ったことは、ファッションの領域を超えて、男性の生き方に大きな影響力を及ぼした。

プラダでクリエイティブ・ディレクターを務めているため、シモンズのデザインが二度と見られないわけではない。しかし、やはりプラダはシモンズのブランドではなく、彼のパーソナリティを完璧に表せるブランドではない。デザイナーが自身を120%投影できるブランドは、シグネチャーブランドだけだと私は思っている。ただ、エディ・スリマン(Hedi Slimane)のように、既存のブランドをまるで自分のブランドのように変貌させるデザイナーもいるが、それは稀なケースだと言っていい。

メンズウェアを革新したブランドが終了するというニュースは、歴史に一つの区切りがついた知らせに思える。新時代の革新者は、どこから現れるだろうか。私は新たな歴史の始まり静かに待ちたいと思う。

〈了〉

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