グッチの新ディレクターを考えよう

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AFFECTUS No.383

ラフ・シモンズ(Raf Simons)がシグネチャーブランド終了を発表したと思えば、また新たなビッグニュースが明らかになる。11月23日、2015年から「グッチ(Gucci)」のクリエイティブ・ディレクターとして牽引してきたアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)の退任が発表された。

近年、グッチの売上が伸び悩み、ミケーレ退任の噂は上がっていた。「WWD」によると、ミケーレは「デザインにおける大きな方向転換を求められた」が、その要請に応じなかったとのこと。こうなると、注目が集まるのは後任のディレクターである。現在のところ、後任は未定であり、新ディレクターが決定するまではデザインチームが率いることも合わせて発表されている。

そこで今回は、グッチの新ディレクターについて勝手気ままに考えてみよう。具体的に2人のデザイナーの名をあげて、選んだ理由も述べていきたい。ただし、はっきり言おう。私の独断と偏見と興味で考える。真っ当な予想にはならないはずだ。逆に言えば、それを楽しんでもらえたらと思う。

それではまず1人目のデザイナーを紹介したい。

No.1
フイ・ルオン(Huy Luong)、ディラン・カオ(Dylan Cao )、ジン・ケイ(Jin Kay)

「え?誰?3人??」

そう思われそうだが、私が今注目しているブランドのデザイナーたちだ(厳密にいうと全員がデザイナーではないが)。2019SSシーズンにデビューしたニューヨークブランド「コミッション(Comission)」を率いる3人である。コミッションのデザインはシンプル&クリーンだが、どこかレトロで、私は1990年代のアジアファッションを思い浮かべる。「トレンディドラマ」という言葉が、日本で人気となっていた時代のファッションである。

なぜ、コミッションの3人がふさわしいと思ったかというと、1990年代的ファッションがまずあげられる。ミケーレのデザインは1970年代的香り、ヒッピーやフォークロアのテイストが香る。現在、グッチが求めているのは、売上が鈍化していたミケーレグッチからの転換だろう。ただし、大胆に変えれば良いわけではない。時代=トレンドに即した変化がなければ廃れてしまうのがファッションだ。

トレンドを観察すると、1990年代テイストのファッションは絶妙なセンスを持っており、またアジアのカッコよさというのは、これまでのヨーロッパ・アメリカが中心となっていたカッコよさとは違う新しい魅力があり、現代では注目のエレガンスとなっている。

また、コミッションはジーンズが秀逸でもある。私はグッチのディレクターは、ジーンズのデザインがうまいデザイナーが務めるべきではないかと考える。グッチはラグジュアリーブランドではあるが、「サンローラン(Saint Laurent)」や「ルイ ヴィトン(Louis Vuitton)」などのラグジュアリーブランドと比べると、カジュアルウェアの要素が強く、それが魅力的だ。私がそう思う要因は、グッチ復活を成し遂げたトム・フォード(Tom Ford)時代のグッチが記憶に残っているからだろう。

フォード退任後のグッチもカジュアルウェアの要素は強く、先述したようにミケーレのスタイルもヒッピーやフォークロアが連想され、カジュアルが強い。そのため、カジュアルベースのデザインを得意とし、魅力的なジーンズも作れるデザイナーはグッチのディレクターとして適任だ。

ミケーレのグッチとは異なるスタイルでありながら、ブランドのDNAであるカジュアルを尊重でき、現代のトレンドにあげられる1990年代スタイルを踏襲したグッチ。そんなブランド像がコミッションの3人なら可能だ。アジアにルーツを持つニューヨークブランドのデザイナーが、イタリアのラグジュアリーブランドを率いる。私はこれだけで、夕食のおかずになりそうな面白さを感じる。

では、次に2人目のデザイナーを取り上げよう。

No.2
アントニー・アルヴァレ(Anthony Alvarez)

「だから誰?」

またそう思われそうなデザイナーの名前である。アルヴァレは、パリを拠点に活動する2019年設立のメンズブランド「ブルーマーブル」のデザイナーだ。アルヴァレは、フランスとフィリピンにルーツを持ち、ニューヨーク生まれという背景を持つ。

ブルーマーブルは、カジュアルなストリートウェアが基盤だが、テーラード的エレガンスが混じり、柄使いがアールヌーボー調であり、ヨーロッパの美も感じられ、複数のエレガンスがパッチワークされたデザインが注目のメンズブランドである。

ストリートウェアの勢いは一時より確かに衰え、モードシーンはクラシックなスタイルが増加した。爆発的ストリートブームを生み出した張本人、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)も「バレンシアガ(Balenciaga)」では、ディレクターに就任してからしばらくはストリートテイストが強かったが、現在ではジャケット&パンツ、コートを中心としたクラシックウェアをベースに、映画のようなSF世界観と融合させ、ストリートウェアも混ぜるというスタイルへ転換し、クラシック成分が強まっている。

ただし、トレンドは完全にクラシックには移行はしておらず、いまだストリートを中心にしたカジュアルの存在感は大きい。事実、ヴァザリアも、ストリートウェアから完全に離脱したバレンシアガを発表しているわけではない。

そういったストリートウェアのテイストを備えながら、クラシックに通じる上品さも同時に兼ね備えているのがブルーマーブルであり、ストライプシャツとジーンズというカジュアルスタイルであっても、スーツと同格のエレガンスを漂わせているブランドなのだ。カジュアルが得意というのはグッチにとって重要な要素であり、アルヴァレはその条件を満たす。

また、ブルーマーブルもジーンズが非常に良い。2023SSコレクションで発表されたジーンズは、ややフレアカットのシルエットに色落ちたブルーが美しいデザインだった。

アルヴァレは柄の使い方も現代的だ。ブルーマーブルのストリートスタイルからは、確かに上品さが香るのだが、素材の色や柄は気持ち悪さが現れ、だが、その気持ち悪さが魅力となる不思議な個性を合わせて持っている。この特徴は、ファッション王道のエレガンスとは違う、混沌としたエレガンスがトレンドに現れている今、非常に重要なセンスである。

そしてブルーマーブルは、1970年代と1990年代がミックスしたテイストも感じられ、その点がミケーレグッチとの共通点が持ちつつ、異なる要素を持っており、ミケーレのデザインのファンとなった顧客を繋ぎ止めながら、新しさを提案するコレクションを可能にするのではないかと考える。

このようにブルーマーブルのアルヴァレは、グッチのカジュアル、ミケーレスタイルを引き継ぐ要素がありながら完全に異なるスタイルを見せられ、現代の重要ファッションであるストリートウェアを得意とし、クラシックなエレガンスという、これまたトレンドに浮上しているデザインも可能という、複数の武器を備えている。これらの理由から、私はアルヴァレもグッチの新ディレクターにふさわしいと考える。メンズブランドのブルーマーブルだが、コレクションを見る限り、アルヴァレならグッチのウィメンズデザインも可能に違いない。

以上が、私が考えるグッチの新ディレクター候補である。

グッチは、バレンシアガやサンローランのようにクラシックなエレガンスに振れない方がいいのではないだろうか。セクシーなカジュアルウェアというグッチのDNAに立ち返り、クラシック市場で競い合うラグジュアリーブランドとは同じポジションに立たず、ラグジュアリーなストリートウェアで勝負する。その市場だと、キム・ジョーンズ(Kim Jones)が手がけるルイ ヴィトンのメンズラインと重なってくるが、グッチ得意のセクシー濃度を高めることで差別化すればいい。

すでに3,000字を超えたため、今回はここで終わりとしたい。モードファッションにとって、ラグジュアリーブランドのディレクター人事というのは、エンターテイメントに似た面白さがある。さあ、いったい誰が新生グッチを率いるだろう。いつか訪れる正式発表の日を楽しみに待ちたい。願わくば、驚く人事を期待したい。

〈了〉

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