AFFECTUS No.386
マシュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)の「ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)」がいい。2022SSコレクションがブレイジーによるボッテガ・ヴェネタのデビューだが、2シーズン目となる最新2023SSコレクションは、ブランドに新しい側面をもたらす面白さが披露されていた。
コレクションの中心は、前任ディレクターのダニエル・リー(Daniel Lee)に通じるスレンダーシルエットで仕上げたダークカラーのドレスやコートが主役となり、シャープなムードに振ったクラシックスタイルだった。しかし、このコレクションで最も注目すべきは冒頭から登場した6ルックである。全73ルックのうち、わずか6ルックが新生ボッテガ・ヴェネタの始まりを印象づける役割を果たしていたのだ。
オーバーサイズのチェックシャツ、色褪せたワイドなブルーデニムにライトグレーの半袖Tシャツ、冒頭の6ルックに登場したのはカジュアル王道のベーシックアイテムで、例えるならカリフォルニアで発掘された古着のような、美しく怠惰なファッションが現れた。これまでのボッテガ・ヴェネタとは一線を画す、カジュアルスタイルのアメリカンウェアである。
冒頭の6ルックは、ウィメンズルックが3つ、メンズルックが3つとバランスを取る形で発表されていた。私はこの6ルックが見られただけで、2023SSシーズンのボッテガ・ヴェネタに満足する。特に私が惹かれたルックは、2番目に登場したTシャツ&ジーンズのメンズルックだ。
トップスに着用したライトグレーの半袖Tシャツに、斬新なデザイン性はどこにも見当たらず、私が高校生の時に着ていた「チャンピオン(Champion)」のTシャツを思い出すほどに究極に普通の服である。Tシャツはかなりワイドなシルエットに形作られ、通常よりもあえて2サイズほど上のサイズを選んで着用する、若い男性の姿が浮かんできた。
Tシャツは前身頃の裾だけを褪せたブルーデニムにタックインし、ベージュの長袖トップスを両肩に掛け、胸の前で両袖を結ぶスタイル(いわゆる、昭和の時代に「プロデューサー巻き」と呼ばれたスタイリング)を披露し、右手にはダークブラウンの大きなバッグを抱えている。
生産されて店舗で販売されたものの、売れることなく誰にも着られず、ただ時間だけが10年、20年経ってしまった古着のチノパンやポロシャツ。そんな服があるとは思えないし、長い歳月が経っているとはいえ、未使用の服を古着と称することが正しいのかはわからないが、ブレイジーが発表したコレクションは、王道のベーシックウェアに奇想なイメージを抱かせるデザインだった。
このカジュアルなアメリカンウェアスタイルは、デビューシーズンの2022AWコレクションでも発表されているが、同コレクションでは冒頭から2ルックのみ発表されただけで、その内訳はタンクトップとジーンズのウィメンズルック、ストライプの長袖シャツとジーンズのメンズルックだった。2シーズン目となる2023SSコレクションでは、アメリカンウェアスタイルを6ルック発表し、前シーズンの2ルックから数を増やしたことになる。
もしかしたら、ブレイジーはボッテガ・ヴェネタのイメージを刷新しようしているのかもしれない。しかし、刷新を一気に行うのではなく、徐々に、少しずつ実行しようとしているように感じてしまう。
ボッテガ・ヴェネタは創立1966年と、50年以上の歴史を持つブランドだが、モードシーンでは注目を集めるようになったのは、2001年にクリエイティブ・ディレクターに就任したトーマス・マイヤー(Tomas Maier)の時代からだろう。
マイヤーは革紐を編み込んだバッグ「イントレチャート(intrecciato)」を発表し、ブランドのシグネチャーアイテムを確立することで、ボッテガ・ヴェネタの再生を果たす。伝統工芸とラグジュアリーブランドの融合は、今や珍しいものではないが、私の印象ではマイヤーによるボッテガ・ヴェネタが本格的な始まりだったように思う。
その後、マイヤーは2018年までクリエイティブ・ディレクターを務める。新しさをひたすらに追求するモードにおいて、18年もの間、クリエイティブ・ディレクターを務めるのは異例であり、マイヤーがどれほど評価されていたか、セールスに貢献してきたか、就任期間の長さでわかっていただけるだろう。
そしてマイヤーが退任した2018年、後任に指名されたデザイナーが冒頭で述べたリーであある。
マイヤーとリーのデザインは、リーの方がダークかつシャープだったが、両者ともクラシックがコレクションの根幹を成していた。リーの退任は2021年になるため、マイヤー時代を含めて21年もの間、ボッテガ・ヴェネタではクラシックが続いてきたことになる。それはブランドのDNAだとしてポジティブに捉えることもできるが、たとえセールスが好調であっても、そろそろ新しさをブランドに呼び込みたいタイミングではないだろうか。
新しさを探求するモードでは、常に変化が必要だ。売上が落ち込んでからデザインに変化を加えるのでは遅い。むしろ、ブランドのセールスが堅調の時から新しさを取り入れるべきだろう。11月23日、「グッチ(Gucci)」はアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)の退任を発表したが、グッチの売上が決して大幅に大きく落ち込んだわけではなく、成長が鈍化したという状態だった。だが、それでもグッチは危機感を抱いて、ミケーレに新しいデザインを求めたが、ミケーレはその声に応じることはなく、結果的にブランドを去ってしまう。
リーのボッテガ・ヴェネタは好評だったため、リーの路線は引き継ぎながら、徐々にブレイジーが新しいブランド像を注入していく。そんな計画が新ディレクターの頭にあったとしても不思議ではない。そう思いたくなるほどに、2023SSコレクションで発表されたアメリカンウェアスタイルは、魅力にあふれたものだった。
徐々にボッテガ・ヴェネタでルック数を増やしつつある、アメリカンウェアスタイルは、このままさらに拡張していくのか。それともアクセント程度の位置付けに終わるのか。ボッテガ・ヴェネタはアメリカンウェアスタイルをブランドの新しい象徴として、カジュアルウェアのラグジュアリーブランドというポジションに進出するのも面白いのではないか。3シーズン目となる2023AWコレクションで、今後のボッテガ・ヴェネタを占えるかもしれない。おそらく2月には最新コレクションが発表されるはずだ。まずはその日を楽しみに待とう。
〈了〉