ミニマルウェアのこれからを考えてみる

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AFFECTUS No.388

本日は、あるデザインの未来について考えてみたい。すでにタイトルで表記しているとおり、今回取り上げるデザインはミニマルウェアである。グラフィックや柄の最小限であり、色はブラック・グレー・ベージュなどオーソドックスなタイプを多用して控えめさを演出し、ディテールに複雑さは皆無。無装飾かつシンプルな形で、クリーンな雰囲気を漂わせ、シルエットと素材感で勝負する服。これはあくまで私が思うミニマルウェアの特徴だが、おそらく似たようなイメージを持つ人は多いのではないだろうか。

ミニマルウェアを特徴とするモードブランドは多い。ニューヨークの「ザ・ロウ(The Row)」は、現代のミニマルデザインを代表するブランドの一つだ。日本で瞬く間に人気ブランドへと躍進した「オーラリー(Auralee)」も、1990年代から2000年代前半にかけての「ヘルムート・ラング(Helmut Lang)」のようなクールで未来的、同時代の「ジル・サンダー(Jil Sander)」のようなピュアな空気がミニマルウェアの必須条件となると該当しないが、冒頭で述べたミニマルウェアの特徴を基準に考えれば、広義ではミニマルウェアの範疇に入る。そうなると「マーガレット・ハウエル(Margaret Howell)」も、ミニマルウェアと表現できるだろう。

とりわけ日本では、ミニマルウェアの人気が高い印象だ。「無印良品」の人気を見るとモードファンだけでなく、一般層の消費者の間でも好評に感じる。そういう私も、ミニマルウェアが好きな人間の一人である。

最近ミニマルウェアのブランドを見ていて感じていたのは「差別化の難しさ」だった。ミニマルウェアはその特徴上、どのブランドも比較的似たデザインにたどりつく。もちろん、各ブランドのコレクションをしっかりと見れば、使用する素材、ディテールやシルエット、スタイリングによって違いがデザインされ、個性が生まれている。ただ、一瞬の見た目はどのブランドも似ている服に感じてしまい、ブランドの個性を明確に感じる難しさがあった。

これは致し方ない部分でもある。私自身、あれほど好きだったラングも、毎シーズン同じようなデザインが発表され(当時はそう見えた)、「このニットは先シーズン買ったから、今シーズンはいいか……」と次第に買わなくなった。今の私なら、微妙なデザインの差異を味わうように楽しめるのだが、20代の私はラングのミニマリズムに物足りなさを覚えてしまった。

「シンプルさが特徴のミニマルウェアが、これからインパクトを起こすにはどうすればいいのだろうか?」

そんなことを漠然と考えていると、新たなイメージを加えることが有効ではないかと思い始めた。

刺繍をはじめとした素材の徹底的加工、ヤンキーやコギャルといった日本独自のファッションを織り交ぜ、パワフルでストリートなコレクションを発表する「ダブレット(Doublet)」は過激なまでの装飾性が特徴で、アグリーな魅力を備えている。

このアグリー上の文脈で、装飾性豊かな外観を持つはずのストリートウェアをミニマルウェアの手法で作り出したら、新しいイメージが生まれる予感もする。例えるなら「ミニマリズムなダブレット」だろうか。ヤンキーやコギャルスタイルを一体化したファッションを、上質素材とベーシックカラー、シンプルなシルエットで作り出す。アグリーなコレクションは装飾性の高いデザインが多い。その文脈上に対して、シンプルなアグリーという新たな解釈を刻むというアプローチである。

ミニマルウェアはクリーンなイメージも強い。そこで、まったく異なるイメージを用いて、コレクションを作ってみたらどうなるだろうか。例えばホラーイメージのミニマルウェアといった具合である。厳密に言えば装飾性はあるのだが、「ウェルダン(We11done)」や「アートスクール(Art School)」には、ホラーなミニマルウェアの匂いを私は感じる。

私はミニマルウェアというカテゴリーが非常に好きだ。好きがゆえに、このカテゴリーの未来が、ミニマルウェアがこれ以上進化するにはどうしたらいいのだろうかと、考えてしまう。まわりくどい言い方はやめにしよう。私は、素材とシルエットにこだわって作るというコンセプトのミニマルウェアには、新鮮さを感じなくなってしまったということである。

ミニマルウェアは「シンプルで綺麗」と評価されることが多い。しかし、ベージュで染められたウール100%のシンプルなステンカラーコートを見て、「なんだこれは?異形だ」と思わせる異端のアウターがデザインできたなら、その時、真に新しいミニマルウェアが誕生する。果たして、そんなデザインが可能なのだろうか。私は、そんなコートが見てみたい。

〈了〉

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