クイラが披露したミニマルウェアを更新するための公式

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AFFECTUS No.389

前回はミニマルウェアをテーマにしたが、今回は具体的に注目のミニマルウェアブランドをピックアップしたい。そのブランドは完全にミニマリズムというわけではなく、遊びと装飾性の高いフォルムも登場し、都市のミニマルウェアというよりも、砂漠のミニマルウェアと呼びたくなるイメージが浮かび上がる。

面白い才能の発生源と言えばロンドン、中でもセントラル・セント・マーティンズ(Central Saint Martins)のMA(修士)出身の学生たちが注目だが、近年はニューヨークからも「ピーター・ドゥ(Peter Do)をはじめとした面白い才能が登場している。しかし、今回取り上げるブランドはロンドンでもなければ、ニューヨークから誕生したブランドでもない。むしろ、今は注目の新しい才能があまり生まれなくなってしまったミラノを、発表の場にするブランドだ。

ブランドの名は「クイラ(Quira)」。デザイナーのヴェロニカ・レオーニ(Veronica Leoni)は、「ジル・サンダー(Jil Sander)」「セリーヌ(Celine)」などで経験を積み、2021年にクイラを設立する。クイラは、デビューしてまだ1年ほどの新ブランドで、ご存知の方は少ないかもしれない。

クイラのブランドサイトで卸先ショップリストを調べてみると、日本では取り扱っているセレクトショップはなかった。イタリアを中心に、ヨーロッパと北米のセレクトショップ22アカウントで扱われ、アジアでは中国のみで発売されている。

私がクイラを初めて知ったのは、昨年2021年の12月だった。毎週録画している「ファッション通信」を観ていると、新ブランドの紹介コーナーが放送され、そのブランドの一つにクイラが取り上げられていたのだ。テレビ画面を通して観たルックに、私は一目で惹かれた。

デザイナーのレオーニが歩んできたキャリアが示すように、クイラのスタイルはテーラードジャケットやシャツ、コートなどシンプルでシックなアーバンウェアを中心に、上品よくクリーンにまとめられている。ただし、ドレスだけは別だ。色使いはホワイトやブラック、シルバーなどミニマルウェアらしい展開だが、ネックラインからタックやプリーツを細かく寄せ、ヘムラインに向かって膨らみを持たせたふくらはぎ丈のフォルム、小さな四角形と思われる形に作られた布上のパーツを、無数に連続して繋げたようなフォルムなど、ドレスのフォルムデザインが民族衣装的で、ミニマルウェアのイメージを書き換えるパワーを備えていた。

またアフリカの大地のようなドライなイメージも感じられる。これはブランドサイトを見た時の印象が強いのかもしれない。ホワイトとサンドベージュがサイトデザインに用いられ、ブランドロゴの「QUIRA」も細い黒字の書体でデザインされ、何か砂漠を思い浮かべる乾いた質感が漂っているのだ。

シャツやコートも、シャープでストレート的なシルエットというよりも、ボリュームを持たせながらスレンダーに見せるパターンが展開され、ドレープを寄せたフォルムデザインも度々披露され、その特徴がノマド的な服のイメージを強めている。それでいて、洗練された都会のムードも確立されているのだから、不思議な印象を抱く。

クイラのコレクションを見た後であれば、このブランドをミニマルウェアブランドと称することに違和感を抱くかもしれない。たしかにシンプルで綺麗な服だが、装飾性が感じられるからだ。一方で、都会的でクールなスタイルも発表されている。従来のミニマムウェアとは異なるが、もしかしたら、複数のイメージを混ぜ合わせてシンプルかつ上品に作る服が、新時代のミニマムウェアの一つになるのではないか。

ミニマルウェアに都会的なイメージが付きまとう。それが伝統と言ってもいいほどに。クイラのコレクションはアーバンテイストが感じられるために、従来のミニマルウェアの文脈上に位置する。だが、都会とは対極の砂漠やアフリカ的な民族衣装のイメージも同時に感じられ、従来のミニマルウェアとは異なるイメージも混在している。

例えば、「ヘド・メイナー(Hed Mayner)」はジャケットやパンツなどのアーバンウェアをビッグボリュームでシンプルに作り、ノマド的美しさとミニマルウェアの要素が混在している。しかし、メイナーはボリュームが過大であるためにシャープさが軽減され、民族衣装的要素が強く(メイナーの場合はアラビア的)、クイラよりもアーバン濃度は低下し、ミニマルウェアと称するにはいささか違和感を覚える。

服のシルエットやディテール、色使いや素材のチョイスに「シャープな要素」を強めに残すことが、ミニマルウェアの基本条件に私は思える。その条件を踏まえた上で、これまでのミニマムウェアとは異なる新たなイメージを投入して、文脈を更新するデザインを完成させる。それを、クイラは都会に対して砂漠とアフリカ的民族という対比を起こすことで、実現していた。

この構成に従来のミニマルウェアとは違う新鮮さが感じられたからこそ、私はクイラに一目で惹きつけられたのだろう。前回述べた通り、ミニマルウェアはシンプルであるがゆえに、差別化を図ることが難しい。だが、不可能ではない。ミニマルウェアを文脈的に更新する公式が存在する。クイラはそのアプローチを証明した。

しばらくの間、ミラノから久しぶりに登場した注目のウィメンズブランドの今後を追いかけようと思う。どんな成長を見せるのだろうか。新たなる面白さを今後のクイラに感じることができたなら、またここで取り上げたいと思う。

〈了〉

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