色と柄とアメリカントラッドのザンコフ

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AFFECTUS No.390

「ファッションデザインとは何か?」と聞かれれば、多くの人たちが「服をデザインすること」だと答えるかもしれない。あるいは「スタイルをデザインすること」だと述べるこもあるだろう。たしかにファッションは、服と服を組み合わせたスタイルを作っている側面があり、注目と人気を集めるブランドは、独自性のあるスタイルを確立していることが多い。

私は「イメージをデザインすること」も加えたい。たとえばスーツスタイルと言っても、肩幅の広さやパンツのシルエットでクラシックなイメージが感じられたり、モッズのイメージが感じられたりもする。そう考えると、スタイルの発するイメージが、私たちにブランドを記憶させる効果を発揮しているとは言えないだろうか。服はスタイルを作り、スタイルはイメージを作っているのだ。

ニットウェアを得意とする、2019年設立のアメリカブランド「ザンコフ(Zankov)」は、非常に興味深いイメージを発している。ニットが得意とだけ聞けば、このブランドに関心を抱くのは難しいだろう。「ミッソーニ(Missoni)」や「サカイ(Sacai)」などのように、ブランドの新旧・規模を問わずニットを武器にするブランドは多く、この素材カテゴリーは非常にライバルが多い分野である。だが、ザンコフはスタイルのイメージにオリジナリティを発揮することで、ニットカテゴリーにおいてブランドの差別化に成功した。

ザンコフのスタイルを一言で言えば、アメリカントラッドになる。ボタンダウンシャツ、カーディガン、クルーネックニット&シャツの組み合わせ、ザンコフが発表するルックを見ていると、古き良きアメリカンファッションの匂いが漂う。もちろん、それだけでは目を惹きつける魅力を感じることは難しい。アメリカントラッドもニット同様に、ライバルの多いカテゴリーだからである。

ニットウェアを軸にしたアメリカントラッドスタイル。差別化の難しい要素を二つ掛け合わせて作られたコレクション。それがザンコフなのだ。なぜ、そのようなブランドに私は個性を感じたのだろうか。

それは、素材の色使いと柄に、従来のアメリカントラッドにはあまり見られなかったアフリカ的・民族衣装的イメージが、デザインされていたからだった。ザンコフのコレクションを見れば、まずはニットの色と柄に目が惹きつけられるはずだ。

2022SSコレクションでは、イエロー・ブルー・グリーン・レッド・ブラックなどの色を複数組み合わせ、鮮烈な印象を残す。とりわけ印象的なのは、クルーネックの半袖トップスである。シルエット自体はややオーバーサイズ気味な点のみが特徴といったところで、服の形そのものに特段目を惹く箇所は見られない。だが、ストライプとボーダーという2種類の伝統的柄を、色を変えながらパッチワークするように組み合わせ、柄使いに個性が滲む。

右前身頃はブラック&オフホワイトのストライプだが、前中心を境に左前身頃はレッド&オフホワイトのボーダーが配置されている。前身頃の個性的柄使いはそれだけに終わらない。右前身頃の下1/3にはイエロー&オフホワイトのボーダーが、左前身頃の下1/3にはブルー&オフホワイトのボーダーが配置され、加えて左右のボーダー幅が異なるという徹底ぶりである。脇や袖でも柄の色や幅は異なり、1着のトップスに単純な柄の、複雑な色の配置が至る箇所に施されていた。

明るい色を何色も大胆に使うデザインは、私にアフリカ的民族衣装をイメージさせ、クルーネックニットやボタンダウンシャツといったトラッドアイテムと一体化することで、ザンコフのデザイナーであるヘンリー・ザンコフ(Henry Zankov)は、これまでのアメリカントラッドスタイルにはない新鮮な一面を生み出すことに成功する。

2022AWコレクションでは、モヘアニットなど毛羽立ち感のある素材を使用し、ピンク&グレーの温かみと渋みのあるブロックチェックのジャカードニットを発表し、粗野な素朴な風合いと色味は美しく、合わせて幾何学模様の柄ニットも発表され、それがまた私にアフリカ的民族衣装のイメージを掻き立てた。

2022AWコレクションは、2022SSコレクションよりも正統派アメリカントラッドというスタイルが披露され、そのことがアフリカ的世界観との対比を強く引き起こし、コレクションをより印象深いものに仕上げている。

ここまで私はザンコフの軸はアメリカントラッドだと述べてきたが、2023SSコレクションになると様子が変わってくる。これまでメンズとウィメンズにスタイルに差異はなかったのだが、2023SSコレクションはメンズとウィメンズで、スタイルの差別化が行われていたのだ。

アフリカ的色使いや柄使いにこれまでと大きく異なる点は見られず、色というブランドの特徴を引き継ぎながら、ウィメンズは、これまでザンコフが発表してきた正統派アメリカントラッドをよりしっとりとさせた、大人のワードローブ的落ち着きが見られるスタイルを発表する。一方、メンズは色に関してはウィメンズと同様だが、スタイルは非常にストリートウェア的で、ヒップホップのリズムが聴こえてきそうな雰囲気があり、シリアスとユーモアが混じり合う曖昧さ伴うザンコフの新スタイルが誕生していた。

ザンコフのコレクションを見ていて思うのは、イメージの重要さである。ファッション界普遍のスタイルであっても、デザインされたイメージに面白さがあるなら、そのブランドは多くの人々を魅了できる。対極に思えるイメージ、それまで無縁に思えたイメージを組み合わせることで、既存のイメージは新しいイメージへと進化する。

ここ数シーズン、ザンコフに限らずアフリカ的イメージがモードシーンで散見される。そのため、これからのブランドは、違う観点のイメージで新たなデザインを作ることが必要になると思われるが、ザンコフはアフリカ的イメージはそのままに、メンズラインでスタイルをアメリカントラッドからストリートウェアに転換するアプローチを見せた。これが1シーズン限りの変化なのか、それとも今後も継続していくのか注目していきたい。

〈了〉

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