人間のパワーをデザインするネームセイク

AFFECTUS No.393

近年、アジアから注目のブランドが頻出しており、デビューして間もないにも関わらず、ヨーロッパや北米のセレクトショップでバイイングされるブランドも現れ始めた。本日のテーマに取り上げた「ネームセイク(Namesake)」も、注目必須の台湾ブランドである。まずはブランドの概要について簡単に触れていこう。

ネームセイクは台湾・日本・アメリカで生活した3人の兄弟、リチャード・シェイ(Richard  Hsieh)、マイケル・シェイ(Michael Hsieh)、スティーブ・シェイ(Steve Hsieh)と彼らの父親が2020年に設立したブランドであり、そのコレクションは愛するバスケットボールからインスピレーションを得たスタイルが基盤となっている。しかし、ネームセイクは、バスケットボールという一つのスポーツだけを反映したブランドではない。ブランドにとって重要な柱となっているのが、父親の存在である。

伝統的な農業の家系に育った父親は、ファッションやアートを愛し、インテリアデザイナーになることを夢見ながらも、農業を生業として生きることになった。かつて抱いた父親の夢を実現するために3人の息子たちが生み出したブランド、それがネームセイクと言えよう。

以上が、簡単ではあるがブランドの概要になる。概要を書くにあたり、参考にした各ウェブサイトは英語であったため(ネームセイクについて詳しく書かれた日本語の記事はほぼ皆無)、私はネームセイクについてすべてを正しく網羅できたわけではないが、アーカイブサイトにアップした今回のタイトルの文末に、参考ウェブサイトのリンクを記すので、興味のある方はアーカイブサイトをご覧になっていただきたい。

私がネームセイクに面白さを感じたのは、コレクションの構成だった。ネームセイクの基本スタイルはバスケットボールにある。ジャージ、ユニフォーム、メッシュ素材、ストリート要素の強いイメージなど、バスケットボールを連想させるアイテムや素材、グラフィックが多用され、コレクションにはストリートの匂いが強い、このボールスポーツが持つ独特の世界観が展開されている。

それではネームセイクは、スポーティ&ストリートなファッションなのかというと、そうとも言い切れない。テーラードジャケットなどのクラシック、スタジアムジャンパーなどのトラッドといった、バスケットボールスタイル以外のファッションもミックスされ、コレクションが構成されているのだ。

服作りのテクニック的にも泥染めを使用したり、日本の工場がションヘル織機で織った生地でスーツを仕立てるなど、服作りの伝統的技法や素材を積極的に用いている。ションヘル織機は、現代主流の高速織機よりも約10分の1の速度という低速で生地を織るが、低速で織るがゆえに生地にストレスを与えず、柔らかく織ることができ、風合いに味のある生地が生産できる。伝統の技法や素材を使用してコレクションを制作する手法は、農業を営んできた歴史を持つ人間たちが創立したブランドという背景が、強く関係しているのだろう。

このようにネームセイクは、彼らのアイデンティティとも言えるバスケットボールだけでなく、クラシックやトラッドなどのファッションや服作りの伝統も融合させ、コレクションを制作している。私は、このアプローチが非常に興味深く感じられた。

デザイナーが愛するカルチャーを、コレクションに反映させる。この手法は珍しいものではなく、ファッションデザイン王道の手法であり、私が思うに最もコレクションにパワーを生み出す手法でもある。デザイナーだけが持つ唯一無二の体験を、コレクションに映し出した時、ブランドに強烈な個性が生まれる。小説家やマンガ家たちの作品と同様に、オリジナリティにあふれる世界観がコレクションに現れるのだ。

エディ・スリマン(Hedi Slimane)がロックミュージックからインスピレーションを得ているように、従来のブランドでは反映されるデザイナーのアイデンティティは、一つであることが多かった。だが、先述したようにネームセイクは異なる。バスケットボールや伝統、父親、農業、台湾といくつものアイデンティティが交差し、コレクションを作り上げている。

この複数のアイデンティティが交差するデザインは、現代ブランドの特徴であり、ネームセイクはまさに最先端デザインを体現している。

本来、人間の趣向(ここではそう言おう)は一つの枠に収まるものではない。一見矛盾に思えるほど、多様な趣向を持ち、それを楽しむのが人間とは言えないだろうか。現在の自分を確立したものがいくつもあるのなら、一つだけに絞る必要はないはずだ。5個でも10個でも影響を受けたカルチャーや体験があるなら、それら全てをコレクションに注ぎ込んでもいいはずだ。そこには混沌があるかもしれない。だが、きっとパワーが生まれているはずだ。エレガンスではなく、パワーをデザインする。それが、現代のファッションデザインではないかと私は思う。

複数のアイデンティティが垣間見えるネームセイクは、人間のリアルを表している。ミニマルウェアを好む個人的趣向から正直に言えば、ネームセイクのコレクションは私の好みではない。しかし、自分たちの全てを曝け出すような、小説的魅力をコレクションに感じたからこそ、私はネームセイクに強く惹かれた。

抑制することはない。すべてをありのままに。ネームセイクは人間のパワーをデザインする。

〈了〉

*参考資料
PARIS FASHION WEEK Brand presentation Namesake

Browns 24Hours With… NAMESAKE

HYPEBEAST NAMESAKE Reminds Us That “FAMILY MATTERS” In FW20 Launch Collection

THE NEW ORDER / FEATURE: NAMESAKE “A FAMILY AFFAIR”

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