ラルフローレンはアメリカファッションの愛すべき拠り所

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AFFECTUS No.394

モードを好きになってしまうと、常に新しさを欲しするようになってしまい、その状態は新しさ中毒と言ってもいい。ただ、ファッションは新しさだけが唯一無二の魅力ではないのも確かだ。特別な新しさは感じない。けれども、心を打つファッションが世界にはある。見たことのない先鋭的デザインを見せるブランドは刺激的で面白いが、見たことのある服を安定の美しさで作ってくれるブランドも、ファッションでは欠かせない存在である。

「ラルフローレン(Ralph Lauren)」は、間違いなくそんなブランドの一つだろう。昨年10月に発表された2023SSコレクションを見ていると、伝統のアメリカファッションが持つ美しさを再認識することができる。

ベージュのセットアップは、カウボーイハットに黒いシャツを着用し、襟元には同色の黒いネクタイを締め、ウィンドウペンチェックのネイビージャケットに、着古されたように色落ちして燻んだジーンズが、装いに渋さと軽さを両立させる。シャツ&ネクタイにデニムベストをレイヤードし、頭にはハンティングキャップを被るスタイルも現れ、次々に登場するアメリカファッションの王道アイテムをスタイリングした、王道スタイルに目が奪われていく。

ワンピースもアメリカらしさを漂わせる。ブルートーンのパープルに染まった生地にはシックなフラワープリント、ノースリーブのVネックワンピースはスレンダーなシルエットで、ミドルレングスから垣間見える両足にはウェスタンブーツが履かれ、頭にはカウボーイハットを被ったスタイルは、アメリカの文化をファッションとして表現した、ヒストリカルなテイストが香るデザインだ。

ショーの後半では、ビビッドカラーの生地、チルデンセーター、ストライプシャツやチェックシャツ、カーディガンを軸にしたアメリカントラッドスタイルも登場し、ラルフローレンはドレススタイルだけでなく、カジュアルスタイルでも伝統のアメリカファッションをカバーする。登場するモデルたちの多くが、30代から40代と思われる年齢層であることも、コレクションに成熟味を加える要素になっていた。

ラルフローレンには先端的な新しさは感じられない。だが、コレクションには伝統のファッションを重んじる重厚さが滲み出ており、ドレスからカジュアルまで、あらゆるシーンに対応するアメリカンスタイルを、ラルフローレンの世界観で表現していく。そこに歴史を更新するモードな新しさはなくとも、伝統のアメリカンスタイルを愛する者の心を捉えるエレガンスが確かに存在する。

コレクションシーズンが開幕すると、様々なモダンデザインに触れられる面白さを体験できる。ショーや展示会で最新コレクションを目の当たりにした際には、そのコレクションが持つムードや、アイテムのディテールまで詳細に感じられる面白さもある。

そういった新しさが刺激的な一方で、普遍的ファッションの美しさに触れたくもなるのも事実だ。たとえば「マーガレット・ハウエル(Margaret Howell)」や「A.P.C.(アーペーセー)」のコレクションには清涼感が感じられ、心がなごみ、リラックスできる。昨秋に訪れた日本ブランド「ネプラ(Nepla)」の展示会でも、ジーンズやTシャツはベーシックなデザインだが、素材感・色・シルエットのどれもが味わい深く、インパクトよりもバランスの美しさを探求されたコレクションに、私は滅多に着用しないプリントTシャツをオーダーしてしまうほどだった。刺激と安心の両方を体験することで感じられるギャップが、ファッションがより面白いものにするのだ。

ラルフローレンのコレクションに、変わり映えがしないという印象を抱いたとしても不思議ではない。ラルフローレンと同様にアメリカを代表するブランド「トミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)」は、トレンドを積極的に取り入れ、ストリートな個性を持った若々しいファッションに変貌を遂げたが、ラルフローレンにはそのような大胆な変化は見られない。

だが、「変わらないこと」が魅力のファッションもあり、それを愛する人々もいるのだ。アメリカファッションの美しさを、最小限の変化にとどめて永遠に伝え続けていく。ある意味、博物館のような役割をラルフローレンを果たしているとも言えよう。

常に新しさを求めてしまうことに疲れてしまったら、一度立ち止まり、モードなファッションから距離をおこう。そしてもし、あなたが伝統のアメリカファッションを愛する人なら、その時はラルフローレンに手を伸ばしてみないか。見慣れたはずのボタンダウンシャツやジーンズが、慈しみのある服に見え、ファッションへの愛を自覚することになるだろう。

〈了〉

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