儚く麗しいエゴンラボ

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AFFECTUS No.399

1月19日、私が注目するブランドの一つ、「エゴンラボ(Egonlab)」が2023AWコレクションをパリ・ファッションウィークの公式スケジュール内で発表した。エゴンラボは、同日にブランドのYouTubeチャンネルでショー映像も発表しており、今回はその映像を観て、この最新コレクションから実感したことを述べていきたい。

ショー会場は、天井の高いコンクリート空間の中で行われた。殺風景に思える薄暗い会場の中央を明るくするのは、左右の観客席上部に設置された照明と、ランウェイの中央に並ぶ街灯。特に、ヨーロッパの街並みに見られそうな街灯デザインと、その灯りが照らすショー会場の雰囲気は、1970年代にヘルムート・ニュートン(Helmut Newton)が撮影した「イブ サンローラン(Yves Saint Laurent)」のスモーキング写真のように妖艶だ。

重く妖しく響くサウンドの中、モデルたちが登場する。序盤で印象的なのは、テーラードジャケットとコートだ。身頃はスタンダードなシルエットだが、袖は袖山を盛り上がらせ、袖幅が通常よりもかなり太く作られていた。異形の黒いジャケットに、私はアンバランスな肉体を見せられた気分になる。

ボトムに目を向けても、ダークなムードが迫ってくる。大腿部をレースアップしたブラックレザーのショートパンツ、錆加工を施したように燻んだ色味のフレアシルエットジーンズ、いずれも「美しい」と表することが憚れる暗く沈んだデザインで、非常にSM的なイメージが迫ってくるルックだ。

黒いジャケットと白いシャツを着て、黒いネクタイを締めた女性モデルは、ウェストに太幅のベルトを巻き、ボトムはレオタード型のボディースを着用し、その上から太腿部の一部を露わにする黒いパンツを重ねて穿いている。私は「ボンテージ」という言葉を思い浮かべ、SM世界のイメージをさらに強めていく。

だが、コレクションにSM的デザインのアイテムが頻繁に登場するわけではない。主役となったのは、テーラードを軸にしたクラシックスタイルと、ニットやジーンズを軸にしたカジュアルなトラッドスタイルだ。冒頭でも登場したフレアシルエットのジーンズはダスティな素材感だったが、今度は同じフレアシルエットのまま、美しく色落ちしたブルーデニムとして現れる。

チェック素材のシャツとマフラー、ピンクとパープルのボーダーニット、アルファベットの“E”を前身頃中央に配置したニット、青白く色落ちしたデニムジャケット、着丈が短くスリムなフラワープリントシャツ、いずれもアメリカンカジュアルの伝統を呼び起こすアイテムばかりだが、全体の雰囲気からはやはりSMイメージが漂う。その理由はシルエットに色気が混じっているからに違いない。スレンダーではあるが、身体に張り付くほど細いわけではなく、緩やかに身体の上を流れていくオーバーサイズシルエットは、布地に覆われた肉体を艶かしく表現する。

ショー中盤の主役と言っていいニットは、ところどころに穴が空き、手首を完全に隠すロングスリーブで編まれ、グランジテイストが立ち上がっていた。ゴブラン織のカーペットで仕立てたようなブルゾンは、深い緑の生地の上にローズピンクの花を咲かせ、ブルゾンの下にレイヤードしたシャツのブルーデニムと、美しいコントラストを描いている。

本来なら上質で上品、クリーンやクラシックと称したくなるはずの服を、エゴンラボはSMとグランジで退廃的に見せていく。私はこの空気感に魅せられていた。コレクション全体から感じるのは、ジェンダーレスなデザインであり、特別な新しさはない。ただ、惹きつけられる何かがあったのは事実だ。

思い出されてきたのは、「ラフ・シモンズ(Raf Simons)」がピッティ・イマージネ・ウォモ(Pitti Imagine Uomo)で発表した2017SSコレクションだった。このコレクションは、フォトグラファーのロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)をテーマにし、今回のエゴンラボと同様に非常にSM的な、ボンテージなイメージが迫ってくるデザインだった。

ラフ・シモンズは2017SSコレクションをビッグシルエットを軸にして構成していた。私がエゴンラボの2023AWコレクションに感じたのは、ラフ・シモンズの2017SSコレクションをボリュームダウンしたシルエットで、新たに作り直された文脈的価値だった。もちろん、二つのコレクションには異なるデザインが多々見られる。しかし、全体のムード、ショーの雰囲気、モデルたちが醸す空気が非常に似ている。

エゴンラボが実践していることは、決して新しくはない。だが、バランスが新しい。服が新しいのではなく、服の雰囲気が新しいと言えばいいだろうか。私はその微妙な感覚が、とても心地いい。時間という縦の軸でモードを観賞する。この体験が得られたからこそ、私にとってエゴンラボは期待のブランドになった。

今後、エゴンラボがどんな成長を辿るかはわからない。もしかしたら、私の好まない方向へとデザインが向かっていく可能性はある。だが、その時が来たなら、その時に考えればいいじゃないか。今は、この儚い色気のエレガンスをじっくりと堪能したい。

〈了〉

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