コペンハーゲンから時代を変えるブランドは誕生するか

AFFECTUS No.402

歴史的に見ても、注目度の点で見てもモードの中心はパリだろう。だが、モードの世界に影響を及ぼしてきたブランドはパリ以外から多く出現している。東京とアントワープは、数多くのデザイナー、ブランドを輩出し、モードの歴史を彩ってきた。2010年代に入ると、今度は街ではなく集団がファッション界を席巻する。ストリートに端を発するデザイナーたちが一大勢力となって、時代のスタイルを変え、ビッグシルエットで世界を覆い尽くし、ラグジュアリーブランドのクリエイティブ・ディレクターに次々と指名されるようになっていった。

このようにパリとは別の場所から、世界のファッションを変革するデザイナーが出現することが、モードの面白さでもある。1月にパリとミラノの2023AWメンズコレクションを終え、2023AWシーズンはこれからニューヨーク、ロンドン、東京、そしてパリとミラノのウィメンズコレクションの発表を控えているが、私はある都市のファッションウィークに面白さを覚えた。デンマークのコペンハーゲンで発表するブランドたちが、興味深いデザインを見せているのだ。

「北欧」と聞くと、どんなデザインを思い浮かべるだろうか?

「白やベージュなどの色を多用し、シンプルでナチュラル、クリーンなイメージのデザイン」

インテリアデザインの影響もあり、そう感じる人はきっと多いのではないかと思う。私もそう感じる人間の一人である。

しかし、ファッションブランドに限って言えば、現代の北欧デザインは新たな進化を見せている。私がそのことに気づいたのは、昨秋とかなり最近だった。

スウェーデンのストックホルムを拠点にする「アクネ ストゥディオズ(Acne Studios)」も、初期のコレクションから変貌した北欧ブランドである。ジーンズを中心にしたクリーンなカジュアルウェアのコレクションは、色・柄・素材を複雑に組み合わせたインパクトを、シンプルなシルエットで表現する「リアルなアヴァンギャルド」というコレクションへと生まれ変わった。

そしてストックホルム以上に北欧デザインの進化を実感させるのが、コペンハーゲンである。

代表的なブランドとして、私はまず「The Garment」を取り上げてたい。2023AWコレクションの素材に用いられた色は、グレーが主役となっている。チャコールグレーからライトグレーまで、灰色を濃淡のバリエーションで見せ、ホワイト、クリームも挟み込み、色使いはまさに北欧デザインそのものだ。服のデザインも、複雑なパターンで作られたフォルムは皆無で、シンプルなカッティングのベーシックウェアを披露している。

ここまでなら、The Garmentのデザインは伝統の北欧デザインに則したものに感じられる。しかし、目を凝らして見てみると、奇妙な違和感がデザインされていることに気づく。

ダブルブレステッドのロングコートは、サイドのポケット位置がやや高く、モデルがポケットに両手を入れた姿は少々窮屈そうだ。ストレートシルエットのミドルレングスカートは、よく見てみれば、ボトムのバックスタイルを前面に持ってきたパターンになっている。チャコールグレーのスレンダーなカーディガンは、肘の少し下あたりに切り替え線が入り、肩先から肘に向かって膨らみ、袖口に向かって萎んでいくシルエットを描いている。裾を引きずるロングスカートと思われたアイテムは、マフラーを腰に巻きつけて垂らしているように見え、奇妙なアイテムはいくつも登場する。

The Garmentの服は何かがおかしい。シルエット、ディテール、服の構造が通常のベーシックウェアから崩れ、しかもその崩れが美しいわけでもなく、迫力溢れるアヴァンギャルドというわけでもない。

「ジャケットを描いてみて」

そう言われ、真っ白なA4サイズの紙にジャケットを描いてみる。ただし、実際のジャケットや写真を参考にせず、あくまで頭の中での想像を参考に描く。服の絵を描くことに慣れていない人が描けば、白い紙の表面には確かにジャケットだが、何か奇妙なバランスの服が現れているのではないか。

The Garmentの服とは、そんな服なのだ。現実の服なのだが、現実とは何かがずれている。まさに「リアルなアヴァンギャルド」である。クリーンでナチュラルな北欧デザインの延長線上にありながら、別の文脈へと枝別れてしていくコレクションがThe Garmentだった。

「Stine Goya」も興味深い。クラシックやトラッドなどいくつかのスタイルが混ざり合い、明確にブランドのシグネチャースタイルを定義することはできない。一方で、コレクションイメージは、銀色の光沢が眩しい宇宙飛行士を連想させる素材のパンツやアウターなど、フューチャリスティックでクール。スタイルは雑然としているのに、イメージは近未来感で芯が通っている。だが、Stine Goyaもフォルムは基本的にシンプルなのだ。複雑なパターンのアヴァンギャルド造形は見られない。

「Baum und Pferdgarten」は、トラッドファッションを、少女の視点と大人の女性の視点からデザインした服を混ぜ合わせ、そこに夜の街で遊ぶことがライフスタイルの女の子のファッションも混ぜ合わせ、このブランドも一言では言い表せない混沌のコレクションに仕上がっている。

「(Di)vision」は、今回コペンハーゲンで発表されたブランドの中で、私が最もストリートを感じたブランドだった。コレクションはデニムやトラックスーツ、フーディ、チェックシャツ、ボーダーニット、スウェットパンツなど、王道のカジュアルアイテムが登場している。モデルたちが着ている服を見ていて、私が感じたのは雑然だった。服の作りがどこか荒々しく、大雑把な仕上がりに感じる。「美しい」とは決して表現できない服だ。しかし、その粗々しさが個性を生み出す。綺麗な服だけが、面白い服ではない。

「Latimmier」も不思議なコレクションだった。このブランドは2023AWコレクションをコペンハーゲンで発表したが、活動拠点はフィンランドのようで、創業も2021年と新しいブランドである。

コレクションから感じられたのはジェンダーレスデザインだ。しかし、ルックを見ていると性別の境界を曖昧化する服を作ろうとしたのではなく、男性の持つ妖しさを引き出すためのツールとしてウィメンズウェアのモチーフが使われている印象を抱いた。全体的にはどこかの民族、あるいは集団の儀式的雰囲気が漂っていた、非常に不思議なコレクションである。

他にも「Mark Kenly Domino Tan」「Henrik Vibskov」「A. Roege Hove」なども、コペンハーゲンで2023AWコレクションを発表した注目ブランドだった。これ以上書くと、文章量がさらにボリュームアップするために、今回はここで終わりとしたい。

コペンハーゲンブランドは、一目で面白さを感じる確率としては、正直パリよりも高かった。一方で、強烈なインパクトを感じるブランドはまだなかった。しかし、それは現在のパリにも言えることで、そもそも一時期の「ヴェトモン(Vetements)」のような、見る度に心の内側から強烈にかき乱されるブランドというのは、そう簡単に現れるものではないし、10年に一度現れるぐらいだろう。

だが、それでもコペンハーゲンには注目したくなる魅力がある。果たしてこれから、時代を変革するブランドが現れるのだろうか。私は、スカンジナビアの地で発表するブランドたちを、しばらく観察していきたい。

〈了〉

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です