サンフラワーが披露する魅力的な普通

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AFFECTUS No.403

前回はコペンハーゲンを特集し、いくつかの注目ブランドをピックアップしたが、前回の時点では最新コレクションが未発表だったブランドで、今回取り上げたいブランドが一つ現れた。それが「サンフラワー(Sunflower)」である。このブランド、情報があまりに少なく、インターネット上においても国内外のメディアで特集される記事がほとんど見つけられなかった。

ブランドサイトの「ABOUT」を見ても、服作りの哲学が語られるのみで、ブランドのデザイナーについての記述がない。ブランドサイトでアイテムの購入はできるが、卸先セレクトショップに関するリストも明記されておらず、日本のセレクトショップで取り扱われているかも不明。サンフラワーは、ブランドの打ち出し方は情報を極力控えた手法をとっているようだ。

しかしながら、サンフラワーを知る手がかりとなる記事を一つ発見する。サンフラワーと同じく、デンマークのコペンハーゲンを拠点に活動するファッションブランド「ウッドウッド(Wood Wood)」のブランドサイトで、サンフラワーの創業者二人のショートインタビュー “Sunflower in conversation with Ulrik Pedersen and Alan Blond”が掲載されていた。

ブランドの設立は2018年と比較的新しい。創業者兼デザイナーの名は、Ulrik PedersenとAlan Blondの二人。サンフラワーは二人の男性デザイナー(外見からして40代、もしくは50代だろうか?)によって立ち上げられていた。コレクションは素材探しからスタートするようで、このアプローチは「オーラリー(Auralee)」など日本の人気ブランドとも共通する。

記事の中で面白いコメントがあった。

コペンハーゲンを含むスカンジナビアのデザインは、ミニマリストのスタイルとして知られ、その中でサンフラワーをどのように位置付けたのかという質問が、二人のデザイナーに訊ねられていた。質問の趣旨としては、ミニマルデザインのサンフラワーだが、同様の特徴を持つ他のスカンジナビアブランドとは、どのように差別化を図っているのか、ということだろう。

それに対してPedersenは、デンマークのメンズブランドはラベルを剥がせば、見分けがつかないぐらいに似ているブランドが多い旨を語っている。私は少し笑ってしまった。「それを言ってしまうのか?」と。これはミニマルブランド全般に言えるが、服そのもののデザインだけで、どこのブランドなのかを即時に認識してもらうことは確かに難しい。

とはいっても、「無印良品」にありそうなシャツなのに、全く佇まいが違うシャツというのもある。そんなシンプルな服が作れるブランドがあるのも事実だ。サンフラワーは間違いなく、そんなブランドの一つだ。先述の質問に対してPedersenは、クラシックでありながら捻りを効かせたものがサンフラワーだと述べている。

2023AWコレクションを見ると、私はPedersenの言葉に頷いてしまう。ただし、サンフラワーは服の形そのものに特徴を出しているのではなく、イメージ、人間像の部分で違いを生み出していると私は感じた。

ここからは最新コレクションを見ての、私なりの解釈を述べていきたい。サンフラワーのデザインを解読していこう。

サンフラワーの服を一見して感じるのは「普通」ということだ。迫力のあるボリューミーなシルエットや、複雑なパターンを駆使したフォルムは一切見られず、程よくスレンダーなシルエットが主役。プリント素材は一部に見られる程度で、ほとんどのアイテムに無地素材が使用され、工夫の凝らされたディテールも確認できない。

色展開はブラックとグレーがメインで、ジーンズのブルー、差し色としてピンクが1ルックに使われ、ショーの終盤でキャメルが登場する。色名を見ればわかる通り、まさにミニマリズムブランドの特徴が、しっかりと現れている。

だが、私はサンフラワーのコレクションから「ミニマリズム」の単語が、まったく思い浮かばなかった。ミニマルウェアならではの特徴である、洗練された空気、クールでシャープなムードを感じられなかったことが、理由だと考えられる。サンフラワーから私が感じたのは、都会的洗練とは逆のムードだった。

シルエットは確かに程よくスレンダーで、クリーンと表現するべきなのだろうが、そう述べることに違和感を覚える。モデルたちを見ていると、微妙に服のシルエットが野暮ったく見えるのだ。綺麗に見えるはずのスレンダーなシルエットが、野暮ったく見える。なぜなのだろう。

コートやパンツを見ていて感じたのは、カッティングが直線的だということである。人間の身体が持つ曲線に合わせる立体的パターンには見えない。サンフラワーの服を纏えば、上半身の所々で身体にフィットできない布のボリュームが生まれ、柔らかさと歪さが混合したシルエットが完成する。サンフラワーのシルエットには、そのような印象を受ける。服にある程度の立体感は持たせつつ、直線的シルエットであるために、雑味に感じられる布の量感が作られている形に見えるため、野暮ったさを覚えたのだと思う。

また、工場で働く従業員が着る作業服を、モデルが着ているというイメージも浮かんできた。

モデルたちの外見も、イメージ作りに一役買っている。美しい容姿を持つモデルというよりも、癖のある表情と雰囲気を持つ人間と言いたくなるモデルたちだ。襟足を長く伸ばし、前髪を上げたウルフカットのアジア系モデルの姿は、1980年代の日本に見られたヤンキーを連想させる。

上質な素材とベーシックカラーを使い、スレンダーシルエットで作られた、複雑さは皆無のミニマルウェアに、本来なら「綺麗」、「クリーン」、「洗練」といった印象を抱くのが一般的だろう。

しかし、サンフラワーは逆だ。綺麗でクリーンに感じられるはずの服に雑味を加え、野暮ったく見せている。それならワイルドな雰囲気になるかと思いきや、シンプルな形、ベーシックカラー、モデルの出立ちが野暮ったさをマイルドにする。このイメージの裏切りの連続が、私の思うサンフラワーの捻りである。

デザインのアプローチが非常に興味深いブランドだ。ミニマルデザインは差別化を図るのが難しい。だが、ミニマルなウェアが通常なら持つであろうイメージとは逆のイメージへ、服のシルエットやモデルのチョイスによって転換させる。そうすることで、他のミニマリズムブランドとの差別化を図る。いやあ、実に面白い。

サンフラワーが披露した普通は、普通ではない。このコペンハーゲンブランドから、今後も目が離せない。

〈了〉

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