ジョン・ガリアーノは海賊のように食い尽くす

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AFFECTUS No.404

ジョン・ガリアーノ(John Galliano)の才能がほとばしる。まさにガリアーノ・ワールド全開のコレクション。2023AWコレクションで「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」は、ドラマティックな演劇を鑑賞しているかのようなランウェイショーを披露する。会場に響くMax Brhonによる“The Future”のサイバーなサウンドとは打って変わり、モデルたちが着用する最新ルックはコンサバファッションの趣を漂わす。

もちろん、ガリアーノが普通にコンサバな服を発表するわけがない。そこには奇才ならではの独特の世界観が立ち上っている。

「彼女は、ミドルレングスのタイトスカート、ラウンドカラーのブラウス、ベージュのトレンチコートといったベーシックアイテムを好むが、その着こなしはアヴァンギャルド。コンサバの服を、コンサバに着る必要はない。奇妙に大胆に着用してもいいはずだ」

まるでそう述べるように、ガリアーノが伝統を破壊していく。

それだけでは終わらない。ガリアーノは、様々なファッションを合流させる。オートクチュール黄金期のドレスを思わせる、Aラインシルエットのドレスやバルーンシルエットのコート、英国テーラードの匂いが漂うピークドラペルのジャケット、パンクマインド全開のチェックシャツ、ミッキーマウスがプリントされた古着テイスト濃厚のアメリカンなトップス、時代も国もスタイルもバラバラの服が一つになっていき、ランウェイを歩くモデルたちの姿はまさに混沌を纏った異形の出立ち。

ただ、ガリアーノが特異な点は、これだけアヴァンギャルドなルックをデザインしているにも関わらず、服そのものを見ていくと、一点一点が具体的だということだ。「コム デ ギャルソン(Comme des Garçons)」が披露するアヴァンギャルドは、それがコートなのかジャケットなのか、そもそも服と言っていいのか、布の彫刻としか呼びようのない抽象的な造形を作り上げるが、ガリアーノが取るアプローチは異なる。

モデルたちが着用する服は、必ずドレスやシャツ、ニットやコートいったアイテム像を明確に感じさせる。それら伝統の服を徹底的に崩し、混ぜ合わせる。フレアスカートはチュールで作られ、スカートの下に隠れるべきである両脚を透かす。グレーのVネックニットは切り裂かれたように無数のスラッシュが入り、赤や青の極太番手の糸がニットの表面でチェック模様にステッチを描く。

そうして作られた服を混ぜ合わせてスタイリングすることで、アイテム像をはっきりと感じさせながら異端なスタイルであるという、矛盾のデザインが完成する。2023AWコレクションは、古い舞台衣装とコンサバとパンクを融合させ、劇的かつ普遍的服の匂いも残る。この表現が正しいかどうかはわからないが、ヴィヴィアン・ウェストウッド(Vivienne Westwood)の世界を、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)の世界と合流させ、ヒストリカルでパンクな「ウェストウッド スタイル」の文脈を更新する価値を感じた。

いやはや、恐ろしい才能だ。ガリアーノ、あなたという人は。

ここで一つ感じたことがある。ご存知の方も多いと思うが、メゾン マルジェラには「アーティザナル」というラインがある。簡単に言えば、収集した古着を解体して再構築し、新しい服を作るという特別なラインで、現在はオートクチュール期間に発表している。

今回のメゾン マルジェラ2023AWコレクションはプレタポルテではあるが、発表された服の濃密さがアーティザナルを思わせた。ただし、古着を再構築したのではなく、完成したばかりの真新しい服を解体し、再構築したように感じられてきたのだ。

世界中のお店で売られているシーズンの最新作を買い集めて、それをガリアーノが笑顔で楽しみながらスカートのベルトを外し、チュール素材と合わせて新たなスカートを作る。アーティザナルの素材が、古着である必要もない。トレンディな最新ウェアを材料にしてもいいはず。そんなイメージを抱かせたのが、今回の2023AWコレクションだった。

もちろん、これは私の解釈に過ぎないが、ありとあらゆるファッションが混ぜ合わせたコンサバな匂いが漂う異端スタイルは、メゾン マルジェラの伝統さえも破壊し、ファッション史を書き換える迫力に満ちていた。

きっとジョン・ガリアーノには、タブーなど存在しないのだろう。それはメゾンのDNAとて例外ではない。創造のためなら、海賊のように世界中の服を自らの手に収める。モードの狂気が止まることは決してない。

〈了〉

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