「ルイ ヴィトン」新メンズ・クリエイティブディレクターにファレル・ウィリアムスが就任

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AFFECTUS No.405

2月15日朝、時刻はもうすぐ5時。目覚めると、この日から開幕したヨーロッパサッカーNo.1クラブ(実質的に世界No.1クラブを決める)を決定する「ヨーロッパチャンピオンズリーグ」の決勝トーナメントを観ようと思い、スマートフォンを手に取ると、驚きのファッションニュースが配信されていた。

2021年11月にヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が亡くなり、空席となっていた「ルイ ヴィトン(Louis Vuitton)」のメンズ・クリエイティブ・ディレクターに、ミュージシャンのファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)が任命された。デビューコレクションは、今年6月に開催されるパリ・ファッションウィークでの発表が予定されている。

「The Business of Fashion」によると、後任にはマーティン・ローズ(Martine Rose)、グレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)、「テルファー(Telfar)」のテルファー・クレメンツ(Telfar Clemens)などの名があがっていたようである。

1月に発表された2023AWコレクションでは、ゲストデザイナーとして「キッドスーパー(Kidsuper)」のコルム・ディレイン(Colm Dillane)が招待され、最新コレクションを発表し、このままヴァージルの後任としてディレクターに就任してもおかしくないと思えるデザインを披露していた。

しかし、ルイ ヴィトンが選んだのはいずれのデザイナーでもなく、音楽シーンのスーパースターという驚きの人選だった。ファレルは、2004年と2008年にルイ ヴィトンとコラボレーション、NIGOと共に「ビリオネア ボーイズ クラブ(Billionaire Boys Club)」と「アイスクリーム(Icecream)」を設立、「シャネル(Chanel)」とアンバサダー、「アディダス(Adidas)」とパートナーシップ契約を結ぶなど、ファッション界でも活躍してきたが、ラグジュアリーブランドにおけるクリエイティブのトップを務めるとは予想できなかった。

ただ、キム・ジョーンズ(Kim Jones)がディレクターを務めた以降のルイ ヴィトンの動きを見ていると、ファレルの指名は納得してしまう。アブローの起用もそうだったが、ルイ ヴィトンは単に魅力的なファッションを生み出せるクリエーターではなく、人々を惹きつける磁場を創り出せるクリエーターを欲しているようだった。だから、ストリートシーンを賑わせてきたジョーンズやアブローといったデザイナーを選んできたように思える。

候補に上がっていたデザイナーたちはファッションデザインの才能と実力は素晴らしいが(私はボナーのデザインがかなり好き)、熱狂の場を生み出すクリエーターとして見た時、ルイ ヴィトンは不十分と判断したのかもしれない。

私がキッドスーパーのディレインに新ディレクターの可能性を感じたのは、彼のデザインが、アブロー以降のルイ ヴィトンのメンズデザインと相性が良いと感じたこともあるが、アーティストという背景があり、「A$AP Mob(エイサップ・モブ)」のA$AP TyYなど音楽シーンとの結びつきが強く、「プーマ(Puma)」とのコラボレーションで自ら製作し、YouTubeで公開したPVアニメーションが再生回数100万回を超えるなど、ファッション以外の領域でもクリエーションを披露していたからだった。ディレインのような活躍は磁場を創り出せる可能性が高いし、仮にルイ ヴィトンのメンズディレクターに就任していたら、次世代のスターデザイナーへ一気に飛躍したようにすら思える。

しかし、Instagramのフォロワー数が1430万人に達する世界のスーパースターを前にすれば、ディレインの存在は霞んでしまう。音楽というのは人々を熱狂させ、惹き寄せるカルチャーとしては最強コンテンツに思えてしまう。そのコンテンツのスターならば、ビジネスにおける新ディレクターの影響力をすぐに期待できるだろうし、そう考えるとディレインでは劣るのは明らかだ。

個人的な思いとしてはディレインの起用が見てみたかった。私は、新しいスターが生まれること、見られることが好きなので、すでに世界に知れ渡っているクエリーターよりも、これからの才能に惹かれてしまう。

新しいスターを発掘し、育てることを実践しているのが現在の「グッチ(Gucci)」だろう。退任したアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)の後任として、グッチが指名したのは、「ヴァレンティノ(Valentino)」でメンズとウィメンズのファッションディレクターを務めていたサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)だった。ブランドの目指す方向性の違いもあるが、グッチとルイ ヴィトンは対極の姿勢を示しており、ラグジュアリーブランドのディレクター人選は、エンターテイメント的面白さがあると改めて実感する。

ファレルがどんなコレクションを発表するのか、非常に楽しみだ。ブランドの規模・歴史が違えば、ファッションデザイナー(ディレクター)に求められる知識・技術・体験も違ってくるが、ファレルのコレクションが成功を収めるなら、ファッションデザイナーに必要な資質の再考が求められる。厳密に言えば、アブローの登場によってデザイナー必須のスキルは変わってしまった印象だが、ファレルのルイ ヴィトン次第でさらに変革が押し進められる。

現代は、ファッションデザインに特化するデザイナーが、世界的ムーブメントを起こすことが難しい時代である。ファッションだけでなく、何かもう一つのカルチャーが必要だ。アニメで活躍するクリエーターがファッションデザイナーとして世界を驚かし、人々を熱狂させる。そんな可能性を感じさせるのが、今という時代。未来のファッションデザイナーとは、どんなクリエーターなのだろう。

〈了〉

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