ダニエル・リーによる新生バーバリーがデビュー

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AFFECTUS No.408

イギリスの伝統と言えるブランドをどうデザインするのか。新生バーバリーの全貌がついに明らかになった。「バーバリー(Burberry)」の新チーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任したダニエル・リー(Daniel Lee)が、2月20日にロンドンでデビューコレクションを発表する。しかし、コレクションへ言及する前に、少し話を遡ろう。

最新2023AWコレクションを発表するよりも早く、バーバリーはクリエティブに関する、いくつかの興味深い変化を発表していた。まずはブランドロゴの刷新である。2018年にバーバリーは、リカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)がピーター・サヴィル(Peter Saville)にデザインを依頼し、セリフ体だったブランドロゴを、サンセリフ体にデザインしたニューロゴへ変更していた。

その後、ティッシの在籍期間中はサンセリフ体のロゴが使用されていたが、2023年2月初めにダニエル・リーがディレクションを手がけた、キャンペーン第1弾が公開されると、ブランドロゴのデザインが新しくなったことに気づかされる。サンセリフ体だったロゴは、再びセリフ体にデザインされた新ブランドロゴへと変更されていたのだ。また、キャンペーンビジュアルには乗馬の騎士を記したブランドエンブレムが使われており、そこには「Prorsum」(プローサム:ラテン語で「前進」を意味する)の文字が現れていた。

かつてバーバリーのコレクションラインは、「バーバリー プローサム」という名だった。1999年、プローサムが立ち上がると、初代クリエイティブ・ディレクターに就任したのは、「ジル サンダー(Jil Sander)」などで経験を積んだロベルト・メニケッティ(Roberto Menichetti)。メニケッティはバーバリーの伝統をクリーンにデザインした服で、プローサムを瞬く間に人気ブランドへと躍進させる。

そして2002SSシーズンから2代目ディレクターに就任したのが、クリストファー・ベイリー(Christopher Bailey)である。ベイリーは、2014年にCEO就任を果たすほどにバーバリーを一気に成長させる。そして2016AWシーズンより、さまざまなラインが混在していたレーベルを「バーバリー」の名で統合することになり、プローサムの文字も消えることになった。

現在、バーバリーはInstagramの公式ブランドアカウントに投稿していた全写真を削除し、新ブランドロゴとブランドエンブレムを用いたキャンペーンビジュアルを発表している。しかも、ロゴとエンブレムはクラシカルなバーバリーを思わすデザインであり、「Prorsum」の文字も復活させている。

最新コレクション発表前、ここまで徹底するなら、リーはブランドの伝統に回帰した、かなりクラシックなバーバリースタイルを披露するのではないかと、私は予想していた。しかし、リーのデビューコレクションは違っていた。自身の得意とするダークな世界観と、バーバリーの伝統をバランスよく融合させるデザインが、そこにはあった。

2023AWコレクションを見てまず思ったのは、全体的にシックなイメージに引き戻したということである。前任のティッシによるバーバリーは、まるで二つのブランドが発表しているのかと思わせるコレクション構成だった。スーツやトレンチコートを主役にしたクラシックラインと、ロゴを用いたカジュアルなストリートラインという、対極のスタイルを一つのショーの中で、ティッシは度々発表していた。

だが、リーのコレクションにはそこまでの隔たりはない。まずスーツスタイルがほとんだなかった。だが、カジュアル中心のスタイルというわけではない。主役はコートだ。ロングレングスのコートをコレクションの主役に据えて、シルエットは基本的にオーバーサイズで、ディテールや素材、色を変えて、モードなカッティングを披露するクールなコートが何度も登場する。

しかし、バーバリー伝統のクラシックなトレンチコートは一着も登場していない。そのことが、コレクション全体からシックな印象を受けるにもかかわらず、クラシカルなバーバリー像を感じさせない要因の一つとなっていた。

ストリートスタイルも登場していたが、その数はティッシ時代よりも大幅に減少した印象だ。ただ、リーのストリートスタイルは、先述のコートスタイルと共通のシックなムードに仕上がっており、それがコレクション全体に統一感を持たせる役割を果たしていた。

王道のトレンチコートとスーツスタイルは登場しないが、リーはバーバリーの伝統を無視したわけではない。コレクションに幾度も登場したのが、チェック生地である。リーはチェックを斜めに傾けた柄としてリデザインし、さまざまな色と素材、アイテムで展開することで、バーバリーの伝統をアレンジした。

一言で言えば、リーのバーバリーは、ニューヨークのモードデザイナーが手がけたように、モダン&クールなデザインである。そして、「ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)」でも披露されていた、リーならではのダークで沈んだムードが、新生バーバリーを彩る最後のアクセントとなっていた。

正直なことを言えば、今回のリーのデザインにモード文脈的新しさがあったかと言えば、それは皆無に近い。だが、バーバリーというブランドに新鮮な魅力を持ち込むという意味では、クオリティの高いコレクションだった。

まずは順調な滑り出しとなったダニエル・リーのバーバリー。これから自身の色を強めていくのか、それともブランドの色を強めていくのか、気になるところだ。次回のコレクション発表を待ちたい。

〈了〉

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